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「健康に自信があったのに」突然の病 夫は〝東京雪祭〟でドナー登録

親子連れがソリ遊びを楽しんだり、スノーボーダーの華麗な技を見て楽しんだり、ライブに酔いしれたりできる「東京雪祭」。「楽しいから始まる社会貢献」を掲げ、献血や日本骨髄バンクのドナー登録会も同時に開かれていました
親子連れがソリ遊びを楽しんだり、スノーボーダーの華麗な技を見て楽しんだり、ライブに酔いしれたりできる「東京雪祭」。「楽しいから始まる社会貢献」を掲げ、献血や日本骨髄バンクのドナー登録会も同時に開かれていました 出典: 水野梓撮影

「ここでドナー登録すると決めていました」――。11月に東京・代々木公園で開かれたイベント「東京雪祭」。記者がドナー登録や献血をする人たちに話を聞いていると、夫の献血が終わるのを待っている女性に出会いました。実は今年、白血病で骨髄移植を受けて回復したばかりだというのです。(朝日新聞withnews・水野梓)

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献血バスの前で、ドナー登録の冊子を手に…

「実は私が、白血病になって、骨髄移植を受けた人なんです」

横浜市に住む及川花菜絵さん(32)に偶然、話を聞いたのは、代々木公園で開かれていたイベント「東京雪祭」でのことでした。

このイベントは「SNOWBANK」が「楽しいから始まる社会貢献」を掲げて開催しています。

屋台でフードを食べたり、ソリ遊びをしたりスノーボードの技を楽しんだりできる会場では、看板を持ったスタッフたちが歩き回り、献血や日本骨髄バンクへのドナー登録を呼びかけています。

ソリ遊びを楽しむ親子連れもたくさんいました
ソリ遊びを楽しむ親子連れもたくさんいました 出典: 水野梓撮影

そんな献血バスの前のいすで、ドナー登録のオレンジ色の冊子を手にしていたのが花菜絵さんでした。

「ドナー登録したんですか?」と声をかけたところ、自身の病気のことを話してくれたのです。

白血病と診断「どんな治療でもやるしかない」

健康診断の血液検査で再検査となったのは昨年末のこと。体にまったく異変は感じていなかったそうです。

近所のクリニックを受診しましたが詳細は分からず、紹介された大学病院へ。「急性骨髄性白血病」と診断されたのは今年始めごろのことでした。

「検査結果の異常を自分でも調べて、『もしかしてそうかな』と思っていたので、病名を告げられた時も、そこまで絶望感とかはなく、生きるためにはどんな治療でもやるしかないと思いました」と振り返ります。

とはいえ、家族や友人に白血病の人はいません。

「治療が始まった頃は『はたらく細胞』の映画が上映中だったので、友達には『あの病気だよ~』と言ったら理解してくれたようでした」と話します。

「東京雪祭」の献血バス
「東京雪祭」の献血バス 出典: 水野梓撮影

治療では、抗がん剤で悪い細胞をたたいてから、正常な血をつくる造血幹細胞を移植することになりました。

花菜絵さんの場合は、医師から「根治を目指すのであれば造血幹細胞移植をするしかない」と言われたそうです。

この移植にはドナーと白血球の型が合う必要がありますが、きょうだいでも4分の1の確率でしか合致しません。

兄が型を調べてくれることになりましたが、花菜絵さんは兄の体の負担を心配して「辞退してもいいよ」と伝えました。

すると兄は、「辞退するなんて最初から考えてないよ」ときっぱり言ったそうです。「その言葉はとても心強かったですね」

幸い型が一致して、兄がドナーとして骨髄移植に臨みました。花菜絵さんは移植後の拒絶反応も少なく、入院もトータルで2カ月半ほどだったといいます。

「兄がドナーになってくれたおかげで、病気がわかってから1年も経たずにほとんど日常に戻ることができました。運だけでは語れないですが、それでもとても運がよかったんだと思います」といいます。

夫が「東京雪祭でドナー登録したい」

たんたんと病気のことを振り返るようすに、記者が「そうは言っても、不安なことやつらかったことはあったんじゃないですか」と尋ねると、花菜絵さんは「面会もできたし、他の患者さんも明るい人が多くて、暗い気持ちに陥ることはほとんどなかったです」と振り返ります。

「なぜか『自分なら大丈夫』という自信があったんですよね。それに、いま献血してる夫がとっても明るいんですよ。その影響だと思います」と笑いました。

献血を終えた夫の貴之さん(33)も、話を聞かせてくれました。スノーボードが好きで、2年前にも花菜絵さんと「東京雪祭」に参加していたそうです。

「東京雪祭」の会場では、スノーボーダーたちが華麗な技を披露し、観客から歓声が上がっていました=SNOWBANK提供
「東京雪祭」の会場では、スノーボーダーたちが華麗な技を披露し、観客から歓声が上がっていました=SNOWBANK提供

しかし「注射がすごく苦手で正直、前回はスルーしちゃってました。でも妻の病気と治療がきっかけで、今年は、絶対ここでドナー登録と献血をしようって決めてたんです」と話してくれました。

実際に献血をしてみたら「プロってすごい。全然痛くなかったし、お客様扱いしてもらって申し訳なくなっちゃうほど」と言います。

花菜絵さんが治療で輸血を受けていたのを見ていたため、「自分の献血が少しでも役に立てばいいなと思います」と語りました。

今回登録したドナーについても、「妻は血縁者がドナーとなりましたが、骨髄バンクで型が適合するドナーを待っている患者さんも数多くいます」と貴之さん。

「僕自身も、妻が移植を受けて元気になったことがうれしいので、僕がドナーになることで同じように幸せになる患者さんや家族の方がひとりでも増えればいいと思います」と笑顔を見せました。

初めて献血してドナー登録をしたという貴之さん
初めて献血してドナー登録をしたという貴之さん 出典: 水野梓撮影

体調が戻ってきた花菜絵さんは今、治療のため休職していた会社への復職をひかえています。

「治療中はお医者さんに言われるがまま輸血や移植をして元気になりましたが、その裏には多くの方の協力と善意があったことを、このイベントを通して改めて実感しました。本当に感謝しています。今年の冬、スノーボードに行ってもいいかお医者さんに聞いてみて、許可が出れば夫婦で行きたいです」と話していました。

若い世代のドナー登録、喫緊の課題

白血病などの重い病気と診断され、毎年2000人ほどが日本骨髄バンクのドナーからの移植を希望しています。

しかし、ドナーと白血球の型が一致する確率は数百から数万分の一で、一致してもドナーの都合で移植まで至らないことも。実際に移植を受けられるのは半数ほどにとどまっているそうです。

また、2025年3月末時点でドナーに登録している526.2万人のうち、半数超が40代以上です。

ドナーの健康を考えて55歳で引退と決まっていて、若い世代の登録を増やすことが喫緊の課題になっています。

イベントを主催するSNOWBANKの代表・荒井DAZE善正さんも、27歳のときに難病を患い、ドナーから移植を受けて回復したひとりです。

【関連記事】東京に雪!スノーボードや屋台で楽しみながら…主催者が伝えたいこと

「すべての患者が、骨髄移植のスタートラインに立てる社会を創る」をスローガンに、「東京雪祭」やライブ「THE BANK」といったイベントを開催してきました。

荒井さんのもとには患者さんからメッセージも寄せられますが、なかには亡くなってしまう人もいます。今回のイベントでは、荒井さんと同じ病気で亡くなった男性が好きだったアーティスト「TOTALFAT」のライブもありました。
掲げられた男性の写真に向かって、TOTALFATのメンバーが全力で曲を届けました。会場も盛り上がっていました
掲げられた男性の写真に向かって、TOTALFATのメンバーが全力で曲を届けました。会場も盛り上がっていました 出典: 水野梓撮影

TOTALFATのShunさんはライブ中に、「SNOWBANKの仲間がひとり、天国へいってしまいました」と語りかけ、参加者に献血・ドナー登録への協力を呼びかけました。

「東京雪祭」の2日間で、357人が献血し、49人がドナー登録したそうです。このイベントは2026年は10月31日、11月1日に開催予定とのことです。

記者がお話を聞いた花菜絵さんは、「これまで大病をしたこともなく、健康には自信があったのに、白血病になるなんて思いもしませんでした」と話していました。

いつ、自分や家族・友人が病気になるかはわかりません。記者自身も自分にできることを、楽しみつつ続けていきたいなと改めて感じたイベントでした。

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