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IT・科学

外科医のイメージを変えたい…医学生も巻き込む学会イベントへの思い

9月28日開催 子ども向けイベント「オペスル」

昨年のイベントのようす。電気メスを使ってみるブースでは、チリチリとした音がしていました
昨年のイベントのようす。電気メスを使ってみるブースでは、チリチリとした音がしていました 出典: 水野梓撮影

手術着をまとった子どもたちに、外科医たちが楽しそうに教える――。日本外科学会が初めて子どもたち向けに開き、大盛況だったイベントが今年も開かれることになりました。運営を担う外科医は、「ドラマなどで描かれる外科医の『怖そう』『近寄りがたい』といった印象を変えたかったんです」といいます。手術で患者を救う魅力を知ってほしいと願う、イベントへの思いを聞きました。(朝日新聞withnews編集部・水野梓)

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感想「外科医になりたい」「楽しかった」

昨年11月に開かれたのは、「オペスル」と題された小中高校生向けのイベントです。

実際の手術着に着替えて写真を撮ったり、電気メスを使ってみたり、疑似血管に針を入れてみたり……。

現場で活躍する医師たちが、針の動かし方などもやさしく丁寧に教え、会場のスペースには「外科医になりたい」「手術が楽しかった」といった子どもたちの感想が貼られていました。

医療現場の一端が体験できるこのイベントは、ことしも9月28日に東京・江東区の日本科学未来館で開催(https://opesuru.com/)されます。

イベントの運営を担う外科医の山本健人さんは、SNSや著書などで医療情報を発信もしてきました。

「患者さんと医師の垣根をなくしたいと活動してきたからこそ、たくさんの子どもたちが参加してくれたこと、医師たちが楽しそうに教えていたことが本当にうれしかったです」と振り返ります。
糸と針を使って「縫う」体験をする企画。体験キットは、金魚すくいの「ポイ」を使って外科医が開発したといいます
糸と針を使って「縫う」体験をする企画。体験キットは、金魚すくいの「ポイ」を使って外科医が開発したといいます

外科医の減少への危機感

このイベントは、もともと外科学会が開催していた市民公開講座の代わりに開いたそうです。

学会のSNSワーキンググループ代表も務めている山本さんは、「SNSで集客をしたら、子どもたちに医療に興味を持ってもらえるのではないかと考えました」といいます。

外科系の学会に所属する医師たちには、外科医が減ることへの危機感が大きいといいます。

【関連記事】がん手術の医師、40年に5千人不足 「今の医療継続できない恐れ」

外科医への最短距離のリクルートを考えたら、医学生や初期研修医向けにイベントを開催した方がいいとも考えられますが、山本さんは「外科医って体育会系の、ともすると上下関係の厳しいイメージがありませんか?子ども向けにこんなイベントを開催する、風通しのいい団体なんだ、ということを知ってもらいたいなとも考えたんです」と語ります。

ハラスメント根絶へ 外科医の現場も変化

外科医とは、自分や家族が、手術の必要な大きな病気になったときに初めて関わることが多く、普段から接している職業ではありません。

山本さんは「ドラマ『白い巨塔』や『ドクターX』のイメージが強くて、怖そう・近寄りがたいといった偏った印象があるんじゃないかなと思うんです」と話します。

昨年のイベントで、糸結びを体験する子どもたち
昨年のイベントで、糸結びを体験する子どもたち

「高度な外科手術は、3~4人のチームで行います。このまま外科医が減っていったら、自分が患者さんに提供したい手術が安全にできないかもしれません。そんな危機感は現場の外科医ほど持っていると思います」といいます。

山本さんが外科医になった10年以上前は、手術中に怒鳴る医師もいたそうですが、「医療にかかわらずどの業界もそうだと思いますが、ワークライフバランスを大事にして、パワハラは絶対にやってはいけないという変化が起きていますよね。外科も同様の変化が起きています」と指摘します。

消化器外科学会がこの夏、「ハラスメント根絶宣言」を出すなど、外科医全体の意識が変わってきているそうです。

山本さんのなかには、「手術をして患者さんを助けたいと考えている学生や研修医たちが、産婦人科や整形外科、泌尿器科など、手術ができるほかの科を志望している」という印象もあるそうです。

「残念ながら私たち現場の医師は、外科手術での報酬を変えることはできません。でも、『やりがいがある手術で患者さんを救いたい』と考えている若い医師たちが、『なんとなく怖そう』というイメージで外科を敬遠するならもったいないなと思うんです」

「今回、外科学会の上の世代が、若い世代の意見を採り入れてイベントを開いてくれたように、実は風通しのいいところを、もっと発信していかないといけないと思いました」と話します。

胸骨圧迫(心臓マッサージ)を体験するブースも
胸骨圧迫(心臓マッサージ)を体験するブースも

医学生にも「教える楽しみ」知ってほしい

ことしのイベントからは、全国の医学生50人ほどにもイベント運営に携わってもらうことにしました。

外科医が医学生に手技を教えて、イベントに参加する子どもたちには医学生が教える……という二段構えで臨みます。

イベント「オペスル」のフォトセッションブース「オペサレル」
イベント「オペスル」のフォトセッションブース「オペサレル」

医師になって16年目という山本さんですが、実は医学生になった当初は内科医を目指していたそうです。

医学部6年生の時、外科医の仕事を間近に見たことで、「手術をしたらがんが全部とれて、5年の間に再発がなければ『卒業おめでとうございます』と伝えることもできる。自分にはすごく魅力的な仕事だと感じました」と言います。

山本さんは「医学生にも『教える楽しみ』を知ってほしいし、外科の魅力を知ってもらいたい、という狙いです」と話します。

医療機器の使い方を体験するブース。企業からの出展もありました
医療機器の使い方を体験するブース。企業からの出展もありました

また、イベントのブースの中には、医学生にイベント参加者が直接話を聞けるコーナーも設けたそうです。

「自分が高校生で医者を目指しているとき、医学生と話せる機会はありませんでした。医学部を目指している高校生は、どんな勉強をしたのか、医学生の生活はどんなものか、ぜひ具体的に質問してみてください」と呼びかけています。

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