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生徒をやる気にさせる技術… お笑い芸人に生きる家庭教師のバイト

忠犬立ハチ高の王坂さん

家庭教師バイトをしている「忠犬立ハチ高」の王坂さん=筆者撮影
家庭教師バイトをしている「忠犬立ハチ高」の王坂さん=筆者撮影

「THE W 2024」で3位入賞を果たした女性コンビ「忠犬立ハチ高」の王坂さんは、芸人として注目を浴びる一方で、家庭教師のアルバイトを続けています。急な仕事が入りがちな芸人には不向きとも言われますが、王坂さんが家庭教師を続ける理由は……。生徒との関わりから学んだ「やる気にさせる技術」が、芸人活動に活かされているのだそうです。(ライター・安倍季実子)

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王坂:岩手県出身。上智大学文学部卒業。グレープカンパニー所属。高校時代に演劇部で相方のノムラフッソさんと出会い、「忠犬立ハチ高」を結成。「THE W2024」で3位入賞した実力派コンビ。現在は月10〜15本のライブに出演するほか、ラジオのレギュラー番組を複数担当するなど、精力的に活動中

家庭教師バイトを選んだ理由

2024年の「THE W」決勝戦に初進出して3位に輝いた「忠犬立ハチ高」。

高校時代の同級生同士の王坂さんとノムラフッソさんの高い演技力を武器にしたコントで注目を集めますが、王坂さんは芸人活動と並行して、家庭教師のアルバイトをしています。

忠犬立ハチ高(左:ノムラフッソさん、右:王坂さん)=グレープカンパニー提供
忠犬立ハチ高(左:ノムラフッソさん、右:王坂さん)=グレープカンパニー提供

上智大学を卒業して、医学生だった相方のノムラフッソさんの卒業を待つ間に、進学塾での講師をしたことがあったという王坂さん。

芸人になってから再び、このバイトをはじめたきっかけは、2023年のYouTube番組「ポイ活生活」の終了だったといいます。

「企画中は生活費の補助があったんですが、それが終わったので、バイトをしなきゃいけなくなったんです。でも、なかなか面接で受からなくて……。どうしようか悩んでいる時に、講師の経験を思い出して、子どもに勉強を教えるバイトをしようと思いました」

進学塾では大人数に向けて、小学4年生から高校1年生まで、幅広い教科を教えていました。

しかし性格的に集団授業には向いていないと考え、個別指導塾での講師として働き始めたといいます。

「人を叱るのが苦手なので、マンツーマン指導の方が向いているだろうと思いました」と話す王坂さん=筆者撮影
「人を叱るのが苦手なので、マンツーマン指導の方が向いているだろうと思いました」と話す王坂さん=筆者撮影

そして1年ほど前から、「少しずつ芸人の仕事が増えてきていたので、時給制の個別指導塾よりも効率よく稼げて、芸人活動との両立もしやすい家庭教師を始めました」と話します。

現在は、小学生と中学生を1人ずつ受け持ち、週に1回ずつ、小学生は90分、中学生は120分の授業を担当しています。

芸人活動との両立が可能なのは、保護者にスケジュール面で融通を利かせてもらっているからだといいます。

「ありがたいことに、どちらもスケジュール調整に柔軟に対応してくださるご家庭なので、毎月相談しながらバイトの日を決めています」

バイト歴は約1年ですが、これまでの塾講師経験から、王坂さんは叱ることが苦手だと分かったそう。

「上からガツガツ指導するよりも、図書館で一緒に勉強しながら分からない問題を協力して解くスタイルを心がけている」といいます。

この指導法が2人の生徒にぴったりフィット。「自分で考える力を育てることを重視したいのもあって、集中して勉強できる雰囲気作りを大切にしています」と話します。

「芸人バレ」を恐れていたけれど…

現在は、自分らしい指導法と柔軟なスケジュール調整で、芸人活動とうまく両立している王坂さんですが、ここに至るまでには大きな不安がありました。

最も気にしていたのは、芸人であることが生徒や親御さんにバレること。

「芸人と教師には大きなギャップがありますよね。もし自分が親の立場だったら、お笑い芸人よりも、もっと信頼できる先生に子どもを預けたいと思うはず。だから、芸人だとバレないように必死でした」

芸歴1年目で単独ライブに挑戦した時の練習風景=本人提供
芸歴1年目で単独ライブに挑戦した時の練習風景=本人提供

そこで王坂さんが取った行動は、カツラでの変装でした。

「当初は黒髪のカツラをかぶっていたんですが、去年は前髪だけのウィッグをつけて教えていました。前髪がとても短くて、オフィスカジュアルな服装だと不自然に見えてしまうので」と苦笑します。

そんな〝変装生活〟に、「THE W 2024」の決勝に残ったことで変化が訪れました。

やっと掴んだ大きな舞台。そこで全力を出し切れるように、できるだけ芸人活動に集中したい。

そして、できることなら日ごろから芸人であることを隠さずに、自分の個性を大切にしたい。

けど、芸人だとバレたら家庭教師の仕事を失ってしまうリスクもある……。

「そもそも、家庭教師の仕事に100%コミットできず、かといって芸人業だけに絞ることもできず、中途半端な自分にずーっとモヤモヤしていたんです」

「また、生徒を戸惑わせてしまうかもしれないという不安と申し訳なさもありましたが、『こういう生き方をしている大人もいる』ということを生徒達に知ってほしいという気持ちもありました。『先生のように、大人になってから好きなこと(お笑い)をするために、いま勉強をがんばろう!』というメッセージも伝えたくて、本当の自分を隠すのをやめようと決めました」

前髪ウィッグを手放して、賞レースに集中した結果、「THE W 2024」で3位という結果を残しました。

しかし、決勝進出したことで芸人であることがバレてしまい、当時担当していた3人の生徒のうち1人とはお別れすることになりました。

「少し前から芸人の仕事が増えてきていて、嬉しい反面、バイトの日程をきちんと確保できなくなり、本当に申し訳ない気持ちでした」と振り返る王坂さん。責任感の強さがうかがえます=筆者撮影
「少し前から芸人の仕事が増えてきていて、嬉しい反面、バイトの日程をきちんと確保できなくなり、本当に申し訳ない気持ちでした」と振り返る王坂さん。責任感の強さがうかがえます=筆者撮影

一方で、芸人であることを温かく受け入れてくれる家庭もありました。

「小学生の生徒の親子が『THE W』を見ていたそうで、後日、『芸人なんですね、応援します!』と言われました。内心では焦りましたが、同時に本当の自分を認められた気がして、本当にありがたかったです」

さらに印象的だったのは、今年の春に王坂さんの結婚がネットニュースになった時のこと。

「私からは何も報告していなかったのですが、ネットニュースを見てくださった親御さんがお祝いしてくれました」

こうした温かい理解に支えられながら、王坂さんは芸人と家庭教師の二足のわらじを歩み続けています。

相手を「乗せる」大切さは共通

そんな家庭教師での生徒とのやりとりが、芸人の仕事に役立つこともあるそうです。

特に感じているのは、「生徒をやる気にさせる技術」と「お客さんを笑わせる技術」の共通点です。

「どちらも相手を『乗せる』ことが大切だと思っています。生徒に『勉強ってこんなに面白いんだよ』と伝えるのと、コントで普通の出来事の中に面白さを見つけて、お客さんに『これって面白いことなんだ』と気づいてもらうのは、同じような感覚なんです」

「ポイ活生活」という24時間生配信企画に挑戦した時の1シーン=本人提供
「ポイ活生活」という24時間生配信企画に挑戦した時の1シーン=本人提供

また、王坂さんは生徒たちと接することで、表現の幅が広がっている気がするといいます。

「このバイトをしていて気づいたのですが、基本的に子どもは裏表がありませんし、その人の本質が大人よりも強く出ているので、接していて楽だし、面白いんです。生徒たちから『個性とは何なのか、人間らしさとは何なのか』を教えてもらっている気がします」

こうした経験を経て、王坂さんには賞レース以外にも大きな目標ができたといいます。

「もちろん、今年も『THE W』に挑戦します。去年の自分たちも面白いネタをやれたとは思ってるのですが、それを超えた1年間の成長を見せたいです。また、それとは別に『天才テレビくん』(NHK Eテレ)のような、子ども番組に出たいです」

王坂さんは、「コンビ揃って子ども好きで、共に子どもっぽい部分がある」ため、向いているのではないかと分析しています。

そして、少しずつ幅広い世代に「忠犬立ハチ高」というコンビを知ってもらい、最終的には全国的な女性コンビになることが夢です。

「東京のお笑い好きだけとか、地元の岩手県の人だけが知ってるのではなく、日本全国の人が見たことある・知っているコンビになりたいです」

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