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海外のひとり旅、若者が挑戦しにくい理由 「恐怖心」乗り越えるには

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初めて海外旅行を計画したとき、漠然とした不安や恐怖心がわきおこった経験はありませんか?そこから一歩踏み出して旅に出るという「恐怖心を乗り越える経験はとても大事」と語るのは、駒沢女子大の鮫島卓教授です。若者の初めての海外旅行をサポートしている鮫島さんに、令和の若い世代の「旅」について、話を聞きました。(withnews編集部・水野梓)
旅行会社で働いたのち、観光学者に転身した鮫島さん。個人的な活動として、初めて海外を訪れる学生にアドバイスをしたり、旅行プランの決め方をサポートしたりしています。
なぜ若者の旅を応援しようとしているのでしょうか。
鮫島さんは「自分で行き先を決めて、手配をして…常に主体的な動きを求められるのが『ひとり旅』の特徴です。そうすると『これでいいのか』と不安や恐怖心がわいてくることはありませんか?」と話します。
以前、海外への研修旅行に参加を決めた学生が「楽しそうでわくわくしていた」のに、出発が近づくに連れて「怖くてやめたくなった」と語っていたそうです。
「ほかの学生からは『高校生の時に語学研修を申し込んだのに、怖くなって直前でキャンセルした』という経験も聞きました。海外旅行は、不安がゼロのディズニーランドへ行くのとは違い、何が起こるかわからない恐怖感をおぼえるんですよね。これは旅の本質だと思います」
仕事や研究も含めて世界各国を旅した鮫島さんでさえ、「初めての国への旅は緊張する」そうです。
「でもこの『不安を乗り越える』経験は人生においてもすごく大事だと思うんです。だからこそ、初めて海外へ渡航する学生のことを応援したいと思うようになったんです」と話します。
大学生の頃、旅を通して自分の性格やものの考え方が変わったという実感がある鮫島さん。
「いま世界では、旅が自己成長につながるという『変革的旅行経験』に関する研究が活発になっています。自分のように世界観や人生観が大きく変わるようなことが、ほかの人にも起こるんじゃないかと思っています」
鮫島さんのゼミでは、春休みなどに学生みんなで海外旅行を計画して実行するそうです。
昨年は、学生たちが行き先を検討して香港に決まりました。
鮫島さんがLCCのチケットの調べ方などをアドバイスし、みんなで同時にスマホでフライトを予約しましたが、鮫島さんは「10人中4人が日付を間違えて予約してしまったんですよ」と苦笑します。
結局、キャンセル料がもったいないということで、全員が合流するのは現地ということに。
「最初の夜ごはんのお店もみんなで検討してもらったら、案が出たのはマクドナルドでした。『さすがにそれは…』と思って、1日目は私が知っている地元の人も来るような飲茶になりました」と笑います。
「なかには初めて飲茶を食べた学生もいました。箸でつまんで、これはどういうものなのか…と1分ぐらいじっくり眺めてから食べていて、こういう『未知との遭遇』が海外旅行だよなぁと思いました」
ここ何年か、学生の海外旅行をサポートしている鮫島さんが感じるのは、「とくに初めての海外旅行では、道先案内人が必要」ということだといいます。
「もちろん、今の境遇への反骨心とか強い思いがあって、自身でどんどん計画して旅に出たり日本を飛び出したりする挑戦的な若者もいると思います。でも日本人のほとんどの学生は恵まれていて、『与えられる』ことに慣れきっているんです。自分から情報を探し、意思決定をするのが苦手な傾向があるので、旅を億劫に感じてしまうのではないかと思います」
いざひとり旅をしようと考えたら、自分で情報を探して旅先を決めて、自分を信じて意思決定する必要があります。
そして、その旅でハプニングが起きても、選んだ飲食店がおいしくなかったとしても、結果は自分で責任をとるしかありません。
「旅は自由な航海のようなもので、どこにでも行けるけれど、風が吹いたり嵐になったり、予測不可能なことも起こります。そこで航海図が必要になるのですが、それが自分でつくりづらい人は、最初の一歩は旅慣れた人に助けてもらってもいいのではないでしょうか」
ただ、SNSやネット上の情報など、現在は求めていなくてもさまざまな情報が飛び込んできます。
鮫島さんは、最近の学生には「旅が予定通りにいくかどうか、旅で何が得られるのか結果を気にする」傾向が強いと感じているそうです。
「旅先を調べていたら、この国は怖いかもしれないというネガティブな情報も出てきてしまいます。どんなに準備しても、旅の不安感を100%消すことはできないので、そうすると『わざわざリスクをとらなくてもいいか』と旅をやめてしまいますよね。ただでさえ、旅はタイパもコスパも悪いと思われているので」と語ります。
「そこで、私のような先達は、不安を超えるような楽しさや喜びを提案したりして、希望を見せてあげられたらいいなと思っています」
一方で、鮫島さんは学生たちの家庭環境による「体験格差」についても懸念があるといいます。
サポートする学生たちの旅費は、親が出すケースもありますが、自分のバイト代でまかなう場合もあるそうです。
「大学が主催する研修旅行もありますが、奨学金をもらっているような子たちはなかなか参加できていません。家庭環境や親の社会階層によって学びの格差が生まれている……というのは、教育的立場から問題だと思っています。だからこそ、少しでも安く旅ができるアドバイスをしたいと思っているんです」
安全で安価なホテルの見極め方、公共交通機関を使って空港から中心部へ安く移動する方法……。
「学生たちには海外は高いイメージが刷り込まれているようです。往復4万円ぐらいで香港に行けると分かったとき、『こんなに安いんですか』と驚いていました」
また、「ひとり旅」というと「自立心が大事。何でも自分でやらなければ」と考える学生も多いそうです。
鮫島さんは「それよりも、地元の人に道を尋ねたり、おすすめのレストランを教えてもらったり、『人に頼る方法を学ぶ』ことの方がよっぽど大事です」といいます。
尋ねてもいないのに親切そうに近づいてきた人の「おすすめの店」についていったら、ぼったらくられてしまうなんてことも――。
「これは日本の繁華街の呼び込みでも同じですよね。情報っていうのは、『自分からとりにいってなんぼ』というのが、ひとり旅の一番の学びです。これは、今後の人生や仕事にも生きていきますよ」と話しています。
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