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KOC王者かもめんたる・岩崎う大「窮地」を脱して脚光を浴びるまで

演劇界にも認められた〝鬼才〟

2013年、キングオブコントで優勝した際のかもめんたる・岩崎う大(左)と槙尾ユウスケ
2013年、キングオブコントで優勝した際のかもめんたる・岩崎う大(左)と槙尾ユウスケ 出典: 朝日新聞社

目次

2013年の『キングオブコント』(KOC)王者でありながら、バラエティー番組になじめず、活躍の場を広げきれなかった、かもめんたる・岩崎う大。一度は苦汁を舐めたが、現在はお笑い芸人・脚本家・演出家など多方面で活躍する。彼は、いかにして脚光を浴びるようになったのか。KOC優勝時のテレビの状況を振り返りつつ、う大が存在感を増していった背景を考える。(ライター・鈴木旭)

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鬼才・岩崎う大の活躍

コント・演劇・テレビドラマ・漫画……ジャンルの垣根を超えて才能を発揮し、ここ数年でみるみる存在感を増していった鬼才。それが、かもめんたる・岩崎う大だ。

2019年からnote(記事の有料販売ができるメディアプラットフォーム)に書き始めた『KOC』のネタ評で注目を浴び、2020年にスタートした『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(テレビ朝日系/AbemaTV)の企画「キングオブう大」へとつながって、う大による的確な分析とコメント力が広く知れ渡ることになった。

現在、デビュー10年目以内を対象とする『ABCお笑いグランプリ』など複数の賞レースで審査員を務める一方、今年は『ダブルインパクト〜漫才&コント 二刀流No.1決定戦〜』に出場し決勝進出を果たしている。“お笑いの賞レースの主(ぬし)”と称したいほどの活躍ぶりだ。

今年は、脚本家としてテレビドラマ『ダメマネ! ーダメなタレント、マネジメントしますー』(日本テレビ系)、『笑ゥせぇるすまん』(テレビ東京制作/Amazonプライム・ビデオ)に参加し、自身の半生を綴った著書『かもめんたる岩崎う大のお笑いクロニクル 難しすぎる世界が僕を鬼才と呼ぶ』(扶桑社)を発売した。

この順風満帆な活動に至るまでには、あまりに長い年月を費やしている。2001年に「WAGE」(う大、槙尾ユウスケ、小島よしおらが在籍していた早稲田大学のお笑いサークル「WAGE」を母体とするコントグループ)のメンバーとしてデビューし、2006年に解散。

2007年に槙尾との演劇ユニット「劇団イワサキマキヲ」(現・かもめんたる)を結成し、芝居公演終了後からお笑いコンビとして活動を開始。ようやく自分のやりたいネタを披露できるようになった。しかし、2013年に『KOC』で念願の優勝を果たすも、う大が味わったのは華やかな芸能界ではなく、「別次元の恐怖」だった。

「かもめんたる」の岩崎う大(右)と槙尾ユウスケ=2014年撮影
「かもめんたる」の岩崎う大(右)と槙尾ユウスケ=2014年撮影 出典: 朝日新聞社

バラエティーに苦戦し「半ばパニックに」

かもめんたるが『KOC』王者となった2013年は、まだテレビの影響力が強かった。厳密に言えば、テレビをリアルタイムで視聴する世帯が減少し、「若者のテレビ離れ」が話題となっていたが、競合メディアは少なく高視聴率を記録する番組もあった時代だ。

この年の4月、『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ系)でナインティナイン・矢部浩之の結婚を祝した企画が平均視聴率20.8%、アイドルグループ・AKB48の企画「抜き打ちテスト」が20.9%と、2回連続で20%超えを記録。9月に放送された日曜劇場『半沢直樹』(TBS系)の最終話は、平均視聴率42.2%を叩き出して世間を驚かせた。(いずれも数字はビデオリサーチ調べ、関東地区)

『エンタの神様』(日本テレビ系)、『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ系)といったネタ番組のレギュラー放送が終了し、『アメトーーク!』(テレビ朝日系)や『さまぁ〜ず×さまぁ〜ず』(同系)などトークバラエティーが中心だった印象も強い。

ちょうど俳優・坂上忍が歯に衣着せぬ発言を連発し、バラエティーでブレークした時期とも重なる。当時は、司会者が若手芸人のトークを遮ったりスカしたりする場面も見られ、それで笑いをとることに大多数の視聴者も違和感を抱いていなかった。バラエティー1年生のう大は、何をどうやってもうまくいかず路頭に迷っていた。

先月末、筆者がインタビューした際、う大は当時の心境をこんなふうに語っている。

「あのときは怖かったんですよ。今みたいに脚本を書いたり、お芝居の仕事がきたり、『ダブルインパクト』で決勝に行けたりする人生が待ってるなんて思えるはずもなく、『このままだと頑張れるフィールドがなくなっちゃう』って半ばパニックになってました」
「FRIDAYデジタル」2025年7月17日公開「KOC優勝後『突然路頭に迷って別次元の恐怖を感じた』…かもめんたる・岩崎う大が“鬼才”になるまで」より

別の質問で「僕は『いきなりタレント顔できちゃう』みたいなことが恥ずかしい」「コントにしても、いきなり上手にできるより、スベッてだんだん学んでいくほうがしっくりくる」とも語っているため、そもそもの性格によるところも大きいだろう。

奇しくも、翌年2014年にバカリズム脚本のドラマ『素敵な選TAXI』(関西テレビ/フジテレビ系)がヒットし、2015年にピース・又吉直樹が漫才師の苦悩を描いた小説『火花』(文藝春秋)で第153回芥川賞を受賞。お笑い芸人に「クリエイター」のイメージが加わっていく。

う大自身も、同じ年にカンニング竹山や小島よしおの勧めから、「劇団かもめんたる」を旗揚げしている。YouTubeの収益化はスタートしていたが、参入する芸人はごく限られていた。また、一般的にはニコニコ動画やUstreamのライブ配信が活気づいていたと記憶する。

小島よしお=2020年、諫山卓弥撮影
小島よしお=2020年、諫山卓弥撮影 出典: 朝日新聞社

窮地を救ったのも『KOC』だった

『KOC』優勝後、2年足らずで知り合いのクリエイターの事務所で働いていた。『KOC』に再挑戦し、2016年に決勝進出。5位という結果に終わり、相方である槙尾との関係性も悪化する一方だった。以降、必要に迫られる形で、う大は芝居・脚本・漫画といったお笑い以外の個人活動に注力し始める。

興味深いのは、この窮地から脱け出したのも『KOC』にまつわるものだったことだ。前述のnoteに、ショートストーリーやコントをノベライズしたものを投稿したが、何の反響もなかった。しかし、霜降り明星をはじめとする「第七世代」ブームが到来した2019年に『KOC』準々決勝で敗退し、会場で「お呼びじゃないという空気」を感じた率直な心境を書くと想像以上にハネた。

続けて投稿したのが、『KOC』のファイナリストが披露したネタに対する批評だ。この大バズりをきっかけに、う大は“自分に求められていたもの”に気付き、「お笑い芸人としてはちょっと邪道だな」と思いつつも賞レースのネタ評を書き続けた。<2025年5月6日放送の『BOOKSTAND.TV』(BS12)より>

SNSでは、『あなたの番です』(日本テレビ系)といったミステリードラマで犯人を予想する“考察ブーム”が起きていた時期でもある。う大のネタ評が歓迎されたのは、そんな時代背景もあったことだろう。また昨今、各局で賞レースが立ち上がり、う大の需要が増しているようにも見える。

一方、2020年、2021年には、演劇界の芥川賞と呼ばれる「岸田國士戯曲賞」の最終候補に劇団かもめんたるの上演台本が選ばれた。受賞には至らなかったものの、脚本の依頼が増加し、KOC王者に加えて“演劇界で認められたコント師”という箔も付いた。

さらには、2020年の演劇公演『HOT』が、かもめんたるの可能性を広げた。『お願い!ランキング』(テレビ朝日系)の「お笑い二刀流道場」(2020年12月放送)の中で、かもめんたるが漫才を初披露するにあたり、う大は『HOT』で自身が演じた役柄をモチーフにネタを作った。

筆者はこの公演を観ている。ある奇祭を軸に展開する話で、う大は正論や屁理屈を織り交ぜつつ詰め寄っていく非常に厄介な、しかしその奥に揺るぎない芯の強さを持っており、やがて周りが話に聞き入ってしまうような役どころを演じていた。まるで、う大自身の一面をデフォルメしたようで妙なリアリティーがあったのを覚えている。現在、このスタイルで漫才を続け、二刀流のコンビとして賞レースを沸かせているのは周知の通りだ。

また、元「WAGE」のメンバーで、TBSに入社した井手比左士氏のようにコント好きのテレビ関係者も増えた。『有吉の壁』(日本テレビ系)を立ち上げた橋本和明氏、『しくじり先生』の演出でユニットコント番組『東京 BABY BOYS 9』(テレビ朝日)を手掛けた北野貴章氏などは代表的なところだ。それゆえ、バラエティーに出やすくなったところもあるだろう。

周りには、古くから知る芸人仲間もいる。ともに『KOC』で戦ったさらば青春の光は多方面のメディアで引っ張りだことなり、WAGE時代から知るオードリーは昨年開催した東京ドームのラジオイベントで「会場」「ライブ・ビューイング」「ライブ配信」を含めて合計15万6707人の観衆を熱狂させるモンスターになった。

テレビスターである千鳥の番組にもたびたび顔を出す。前述の「FRIDAYデジタル」の取材時、筆者にしみじみと「(千鳥のふたりが)かもめんたるのことを面白いと思ってくれてるのが伝わってくるんですよね。冷静に考えるとそれってすごいことだし、本当にありがたい」と語るう大の表情が忘れられない。

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