連載
#5 ここは京大吉田寮
全国各地から京大までヒッチハイクでレース 競うのは「おもろさ」
吉田寮の「ヒッチレース」とはいったい…

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#5 ここは京大吉田寮
吉田寮の「ヒッチレース」とはいったい…
アイマスクで目隠しをされ、車でどこかに連れていかれ、そこからヒッチハイクで寮への帰還を目指す――。京都大学吉田寮の寮祭の名物企画「ヒッチレース」。ヒッチハイクをしたり、現地でバイトをしたりして寮への帰還を目指す道中には、驚く出会いや出来事が盛りだくさんです。(朝日新聞withnews編集部・川村さくら)
5月24日深夜0時に始まった吉田寮祭。開幕と同時にヒッチレースも開始です。
ルールはこうです。
事前に自ら志願したドライバーたちが自由に目的地、すなわち参加者を「飛ばす」先を決めておきます。全く人通りのない山奥など、危険な場所で降ろすことはしないよう注意喚起されています。
運営側からはガソリン代として一定額が支給されることになっていて、今年は1万5千円。離島までの船に乗せるなどして予算をオーバーした場合、超過分はドライバー持ちとなります。
「飛ばされる」側として参加したい人は、事前の申し込みは不要で出発当日に寮に集合。ドライバーの名前が書かれたくじを引いて、割り当てられた車に乗り込みます。
到着するまで目的地は告げられず、ドライバーから降車するよう言われて飲み物を渡されたらレーススタート。そこから、「飛ばされた」人たちはヒッチハイクで寮を目指します。
「レース」と言っても早く帰還した人がもてはやされるわけではなく、よりおもしろい体験談をひっさげて戻ってきた人が褒めそやされる雰囲気があります。
今回の参加者は55人で、その多くは寮生ではない人々。関西やまれに関東の大学生のほか京都や大阪の会社員など、京大の学生ではない人の姿も目立ちました。
「飛ばされた」先の最北端は青森県むつ市の恐山、最東端は福島県浪江町、最西端は長崎県の五島列島にある福江島の五島市、最南端は鹿児島県指宿市。五島のほか、新潟県の佐渡島、東京都の八丈島、新島、大島など離島組も5人誕生しました。
運営側から推奨されているのは手ぶらでの参加ですが、情報発信用にスマホを持参する人も一定数います。
「#ヒッチレース2025」とX(旧ツイッター)で検索すると、レーサーたちが各地で帰還の道中を実況している様子も見ることができます。
ただし、スマホを所持していない多くのレーサーの帰還過程を追尾することはできません。
寮に戻り着いたレーサーや電話でレーサーから報告を受けた寮生が寮玄関の「帰還報告」の模造紙に名前や飛ばされた先を記入するので、ここで何人くらいがゴールしたのかを確認できます。
寮を各ドライバーの車が出発したのが5月24日午前0時の寮祭開幕後。25日0時にはすでに12人の名前がありました。
一番乗りは三重県伊勢市の大王崎に飛ばされた人。「雨なので早めに帰ってきました!」と余裕のコメント付きでした。
気になる寮までの帰還の過程ですが、それを一挙に聞けるのが28日夜の「お土産話会」。
自らの経験談を披露したいレーサーたちが任意で語ります。制限時間は8分ですが、思い思い話すと時間をオーバーすることも多々。その一部をご紹介します。
「東京大学の五月祭(学園祭)に降ろされて、出店の呼び込みに紛れて『高速道路に乗せてくれる人探してます!』って叫びました」
「寒くてトイレの便座で暖をとりました」
「最初に乗せてくれた方は強烈な鹿児島弁と歯がないこともあって、何言ってるのか全然わからなくて。その次の人は『俺にパチンコで勝ったら熊本まで送ってやる』と言ってくれて、パチンコには負けたけどお情けで送ってくれました」
「出会った人に企画の趣旨を伝えたらおもしろがってくれて『俺がもう一回目隠ししてとばしてやる』と言われて…。数時間後に『目隠しとっていいよ』と言われて目を開けたら吉田寮の前でした」
次々展開されるおもしろ話。聴衆は聴き入って、話のオチでは大盛り上がり。マイク一本で会場を沸かせるレーサーたちの姿はさながらスタンドアップコメディアンです。
レーサーの帰還過程は千差万別。偶然の出会いと人の優しさによって成り立っていることを感じました。
「ティラノサウルスになって帰ってきた人」「ヒッチハイクの神に導かれた人」など、レーサーの帰還ストーリーは後日配信します。
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