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連載

#75 イーハトーブの空を見上げて

豊作を祈って「農はだて」小正月の風習 庭先の雪を田んぼに見立てて

「庭田植」を再現する人々
「庭田植」を再現する人々
「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。
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イーハトーブの空を見上げて

小正月を彩る伝統行事

雪に覆われる岩手の年始め。奥州市ではこの時期、小正月の風習を再現する「全日本農はだてのつどい」が開かれる。

「農はだて」とは、正月の休みが明けて、農作業の準備を始めること。

その日は早朝から男たちが太い縄をない、朝食前には福取り餅が出された。

「つどい」では、庭先の雪を田んぼに見たて、稲わらや豆のからなどを立てて豊作を祈る「庭田植(たうえ)」や、福餅つきなどが披露され、農作業の安全と豊作を祈願する。

日本では古来、「正月」を重んじてきたが、暦の変遷により、その意味合いも微妙に変化している。

太陽暦になった明治以降は元日を重んじるようになったものの、それ以前は長らく太陰暦により月が初めて満月を迎える1月15日を重んじてきたことから、岩手における伝統行事も小正月に集中している。

先祖の霊は近くの山に…

岩手県教育委員会発行の「岩手の小正月行事調査報告書」(1984年)によると、この地の神には「自然の神」と「先祖の神」があり、先祖の霊は普段、神になって近くの山にいる。

先祖の霊は盆と正月の年2回、満月の光に乗って子孫の家々を訪れ、飲食を楽しんで再び山に戻ると信じられていた。

遠方で暮らす家族が盆と正月に故郷に帰省するのも、先祖をまつる団欒(だんらん)に加わるためのものだった。

小正月、雪の積もった庭にわらを植えたり、田植えの手順を学ぶ「田植踊り」を踊ったりして、楽しみながら無病息災や豊作を願った。

庭田植に参加した女性は「さあ、これで今年も始まるな、といった感じかな」と言って笑った。

すでに消えかかっている美しい風習と願いが、いまもしっかりと息づいている。

(2024年2月取材)

三浦英之:2000年に朝日新聞に入社後、宮城・南三陸駐在や福島・南相馬支局員として東日本大震災の取材を続ける。
書籍『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で開高健ノンフィクション賞、『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』で小学館ノンフィクション大賞、『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』で山本美香記念国際ジャーナリスト賞と新潮ドキュメント賞を受賞。
withnewsの連載「帰れない村(https://withnews.jp/articles/series/90/1)」 では2021 LINEジャーナリズム賞を受賞した
 

「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。

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