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登園ラッシュ時〝保護者アプリ〟障害でパニック 実は進む子育てDX

一度、使いだしてしまうと、もうなかった頃には戻れないが……。※画像はイメージ
一度、使いだしてしまうと、もうなかった頃には戻れないが……。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

子育て世代にシェアが大きい「保護者アプリ」に障害が発生したことで、アプリ名がX(旧Twitter)でトレンド入り。その機能や存在自体にも、子育ての当事者内外からの注目が集まりました。入退室の確認や連絡帳といった口頭、紙ベースの習慣の置き換えや、写真販売、さらにはスクールバスの位置情報のリアルタイム把握までーー子育てのDX(デジタル化)は現在どんな状況なのでしょうか。その影響を当事者が考えます。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
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「コドモン」障害がトレンド入り

4日の朝、保育園に向かう2歳半の我が子と、出勤時間が早いため、その送り担当をする妻を見送った後のことです。妻から「『コドモン』使える?」とスマホにメッセージがありました。

「コドモン」は、子どもが通う保育園で導入されている“保護者アプリ”です。保育園などの入退室の管理や、先生とやりとりする連絡帳などの機能があります。

連絡帳機能は手書きの連絡帳と違い、通勤途中でも気軽に入力できます。後述する理由で、アプリで連絡帳を書くことが半ば趣味化している妻が、その日も連絡帳機能を利用しようとしたところ、接続できず、画面が途中で止まってしまうということでした。

連絡帳機能には、降園後の前日夕方から当日の朝食までの状況、例えば「今朝はご飯をあまり食べなかった」「昨日からうんちが出ていない」といった事情を保育園に共有することで、先生たちがより適切に保育できる、というメリットがあります。

逆に園にいる間の健康状態について「鼻水が出ていたがその後は発熱などないか」「転んでぶつけたところの赤みは引いたか」など、家に帰ったあとの必要な情報交換をする場合も。

他に、先生たちから我が子の園での“おもしろエピソード”を教えてもらえることもあります。これが気に入った妻が、我が家では熱心に連絡帳をつけています。

「もし送れたら、あなたから送っておいてほしい」と妻。食事や排泄、睡眠などの状況は、別のアプリで夫婦で共有しながらつけているので、接続できれば私がアプリに送ることもできるのですがーー私も入力画面が中途半端な状態で止まってしまいます。

そうメッセージを返すと、「Twitter(現X)でトレンド入ってる」「みんな困っているみたい」と妻。確かに、私が確認した8時台の時点で、「日本のトレンド」に「コドモン」というアプリ名が入っていました。

SNSにはアプリの利用者とみられる人たちから不具合を報告する投稿が相次ぎ、「朝から全ての流れをぶち壊してくる感じ」「この時間にダウンはキツイって」といった悲痛な投稿や、「連絡帳まだ途中だったのに」「入室登録できてないんだけど大丈夫かな」と心配する投稿もありました。

一方で、「いま日本中の親との謎の一体感を感じる」「中の人がんばって」「コドモン、いつもありがとう」と、普段から利用するアプリへの感謝の声も上がっていたのが印象的でした。

個人的に驚いたのは、「えっ、コドモンって、そこまで全国区(『日本のトレンド』に入るくらい利用者数の多い)のアプリなの?」ということ。障害についてとあわせて、コドモンの運営を取材することにしました。
 

バスの位置情報、写真販売も

同アプリを運営する株式会社コドモンによれば、2024年11月時点で、システムを利用する保護者数は約315万人。全国2万施設以上で導入されています。2023年1月の東京商工リサーチ調べでは、導入施設数などでシェア1位のシステムだということです。

2024年4月時点での保育所等を利用する児童の数は、こども家庭庁の「保育所等関連状況取りまとめ」によれば271万人なので、そのうち大きな割合の保護者がこのアプリを利用していることがわかります。

同社広報担当者によれば、障害は7時48分~8時42分に発生。10時までに解消を確認したということです。なお、原因については5日、サーバーの不具合だったと発表されました。

影響範囲は「『接続しづらい』という事象で、接続できたユーザーとできなかったユーザーがいるため、把握するのが困難」ということでしたが、「保護者アプリの過去1カ月のアクティブユーザーは約120万人/日、障害が起きた8時台の過去1カ月のアクティブユーザーは約50万人だった」と明かしました。

子育てのインフラとして重要性が増している同アプリ。同担当者は今回の障害発生について「利用者のみなさまには、朝のもっともお忙しい時間にご不便ご心配をおかけし、大変申し訳ございません。深くお詫び申し上げます」とコメントしました。

“親友(おやとも)”に話を聞いてみると、他にも「キッズリー」や「さくらdays」など、同様の機能を持つ複数のアプリが、それぞれの子どもが通う園で導入されていることがわかりました。

同じコドモンユーザーでも、限られた機能しか使わない人からは、トレンド入りしたXの投稿の中にスクールバス・園バスの位置情報がリアルタイムに確認できる機能について「バス今どこ~~~」と呼びかける投稿があったことから「そんな機能あるの!?」という驚きの声も上がりました。

こうした保護者アプリでは「写真販売」も人気の機能です。プロのフォトグラファーや保育園の先生たちが撮影した、普段は親が見られない園での生活の様子を収めた画像を販売するもの。我が子が通う園では、1枚数十円から購入することができるため、夫婦で「あっ、これかわいい」などと盛り上がり、ついつい購入してしまいます。
 

密かに進む「子育てのDX」

あらためて感じたのは、実は子育てのDXが進んでいること。私は迎え担当なので、夕方、帰りがけに先生に聞いてみたところ、この園では1、2年前までコドモンのような保護者アプリを導入しておらず、「連絡帳は手書きだった」ということでした。実際、今も手書きの園に子どもを通わせる知り合いもいます。

記入を私が担当する日もあり、私としてはスマホでササッと入力するだけでも若干、面倒なのは否めないので、「これが手書きだったら……」と考えるとゾッとします。ただ、もしそうなら確実に、保護者として導入を園に要望していたはずなので、こうした保護者アプリがシェアを広げる理由も身をもって理解できました。

また、障害をきっかけにXでトレンド入りしたことで、子育て当事者以外が「コドモンって何?」「そんなのあるんだ」と反応していたのもおもしろいと感じました。

私自身、数年前までそうだったように、身の回りに子どもがいなければ、保護者アプリの存在自体を知らないことでしょう。300万人は数としては多いと感じますが、日本の成人の人口と比べれば割合は小さいことがわかります。逆に言えば、それ以外の数千万人にとっては、子育てのDXは密かに進んでいることになります。

「大変だ」というイメージがつきまとう子育てですが、保護者のニーズに合わせてどんどん便利になっている側面もあります。アプリ障害のトレンド入りは、子育てのDXが進んでいることの一つの表れでもあると感じました。

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