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歯の矯正「手軽」「安価」うたうサービスに注意 歯科医らが注意喚起

注意喚起をする日本臨床矯正歯科医会副会長の佐藤國彦さん(右)と学術理事の常盤肇さん=2024年11月28日、東京都千代田区、朽木誠一郎撮影
注意喚起をする日本臨床矯正歯科医会副会長の佐藤國彦さん(右)と学術理事の常盤肇さん=2024年11月28日、東京都千代田区、朽木誠一郎撮影 出典: 朝日新聞社

目次

ネットやSNSで「手軽」「安価」をうたう人気の歯列矯正サービスについて「歯科医師がほとんど関与しないものがある」「不適切な治療のリカバリーについての相談が急増している」などとして歯科医師らが注意喚起をしました。2023年には詐欺的な商法の被害にあったとして、患者らが医療機関に集団訴訟を起こすなど、大きなトラブルも。「向き不向きがある」という治療を受ける際のポイントとあわせて、専門家を取材しました。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
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人気「マウスピース矯正」で訴訟も

歯並びに悩む人に向けて、ネットやSNSで盛んに宣伝される歯列矯正サービス。「手軽」「安価」をうたうものもあり人気ですが、一方でトラブルも発生しています。

2023年1月には、「実質無料で治療できる」と説明されたのに、高額な費用を負担させられた上、歯やあごの健康被害が残ったとして、患者ら153人が医療法人や医師などに、総額約2億円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴(※)しています。

※歯の矯正で「詐欺商法」、150人が提訴 「モニターで無料」うたう - 朝日新聞デジタル
https://digital.asahi.com/articles/ASR1V66G7R1VUTIL036.html

このケースや、「手軽」「安価」をうたうサービスで使用されているのが「マウスピース矯正」です。医学的には「アライナー型矯正装置による治療」と呼ばれ、装置の有名なものには「インビザライン」などがあります。

基本的に自由診療でサービス提供側の裁量が大きいことから、問題も起きています。

歯列矯正を行う臨床医の集まりである公益社団法人日本臨床矯正歯科医会は、公式サイトで「矯正歯科何でも相談」として、一般生活者からの相談を受け付けています。その中でも、近年「マウスピース矯正」に関する問い合わせが増えているとして、28日、都内で注意喚起のセミナーを開催しました。

特に「治療計画と全く違う歯並びになった」「嚙み合わせが矯正前より悪化した」など、不適切な治療のリカバリーに関する相談や、キャンセル料を取られたり返金を断られたりといった問題についての相談が増えている、と同会副会長で歯科医師の佐藤國彦さんは指摘します。

症例により向き不向きがある

同会学術理事で歯科医師の常盤肇さんは「一般的な矯正装置である『ワイヤー矯正』とは異なり、『マウスピース矯正』による治療は症例によって向き不向きがあります」と説明します。

「患者さん側には、ワイヤー矯正と異なり、目立たず、取り外し可能で痛みが少なく、う蝕(虫歯)になりにくいといったメリットがあります。医師側にも難しいワイヤーベンディング(ワイヤーによる矯正方法)がないなどのメリットがあり、アメリカではマウスピース矯正が主流になっています」

一方で、マウスピース矯正が増加することで、問題点も現れていると言います。

「一般歯科医がコンサルティング会社から経験不要の“新しいビジネスモデル”として提案される事例や、歯科医がほとんど関与しない事例、厚生労働省の医療広告ガイドライン違反が疑われる広告を行っている事例も見受けられます」

常盤さんの歯科医院には、他院でのマウスピース矯正治療のセカンドオピニオンとして訪れる患者から「口元が引っ込まない」「前より出た」「奥歯が噛み合わなくなった」「歯の削りすぎによる冷水痛がある」などの訴えがあるそうです。

「マウスピース矯正は、軽度な不正咬合(嚙み合わせ)に関してはワイヤー矯正と遜色ないが、複雑な不正咬合についてはワイヤー矯正の方がいいとされます。私としても、有効性についての複数の文献から、特定の方向の歯の動きについては予測の実現性が高いものの、実現性が低い歯の動きもあると分析しています」

常盤さんは「マウスピース矯正であっても、技術研鑽は必要」とした上で、今後のために「診断基準の確立や不測の事態の予防策、使用状況のモニタリング、治療システムのアップデートが必要」だとします。

また、利用者に向けては後述するようなポイントを参考に「ネットの情報を重視するのではなく、慎重に医療機関を選択してほしい」と呼びかけました。
 

「契約前・契約時に注意を」と歯科医

佐藤さんは「マウスピース矯正を安心安全に受けるためのキーポイント」として、まず、適応の有無やリカバリーのためにも「ワイヤーでの治療も可能な医療施設を選択する」ことを挙げます。

そして、「契約書を交わすまで、装置の発注費などの費用が生じないことを確認する」ことや、「治療に入ることを急かす医療施設には気をつける」こと、転医(治療の継続のために通院する医療機関を変えること)や治療中止に備えて、「治療費の精算基準や転医先の紹介についても確認しておくこと」を勧めました。

「契約時には治療の進行に基づき生じる料金など治療費の内訳の説明を求め、分割など支払方法も検討しましょう」

また、現状では同会のような専門の歯科医師の会に所属せず、一般の歯科医が適切な教育や訓練を受けないまま歯列矯正に手を出す事例が増えており、自浄作用が働きにくいとして「歯列矯正について国民のみなさんに正しい知識を持っていただきたい」と話していました。
 

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