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ウミガメが海に帰れない 迷子を防ぐ照明とは?大切な「三つの条件」
照明といった人工の光が悪影響になる「光害(ひかりがい)」は天体観測だけではなく、ウミガメや渡り鳥といった動物にも及びます。でも、照明を交換したり、減らしたりすることで、そんな動物たちを守ることもできるんです。取り組みを取材しました。
世界でも有数のウミガメの産卵地である米フロリダ州。産卵のために、砂浜に上陸するウミガメの約9割がフロリダ州に集中しています。
夏休みシーズンまっただ中に、真っ白な砂浜と青い海が広がるフロリダ州のリゾート地・フォートマイヤーズビーチを訪ねました。
海岸沿いにはホテルやペンション、別荘が並び、日中は砂浜や目の前の海で観光客が休暇を楽しんでいました。うらやましい限りです。
フォートマイヤーズビーチにもウミガメが産卵した場所がいくつかあり、目立つように黄色いテープで四角く囲われ、「ウミガメの巣を乱さないで」と注意書きが書かれていました。
昼間はにぎやかなビーチですが、夜になると一転、砂浜からは人が消え、建物の照明や街灯には赤色やオレンジ色のやわらかい明かりがともります。ホテルの部屋のカーテンはしっかりと閉められ、暗く、静かな街へと変わりました。
「砂浜が照明で明るすぎると、ふ化したばかりの子ガメが方向感覚を失って迷子になってしまったり、海から上がってきたメスのウミガメが産卵しなくなったりするんです」
ウミガメ保護団体のエミリー・ウーリーさんが説明してくれました。
人工物のない自然の状態では、夜になると陸は暗くなり、星や月の光が海面に反射する海の方向は明るくなります。ウミガメはそうやって明るい海と暗い陸の違いを見分けるよう進化してきたそう。
しかし、砂浜の近くに家や建物といった明るすぎる照明があると、海の方向を間違え、ぐるぐると砂浜をはい回り、捕食されてしまったり、車にひかれたりすることがあるといいます。
ウーリーさんの所属するウミガメ保護団体は、自然保護活動家の草分けとして知られるアメリカ人によって、1959年に世界で初めて設立されたウミガメ保護団体です。60年以上、世界のウミガメの生態研究や保護活動をしてきました。
普段からビーチ沿いのホテルや建物の照明の明るさを調査し、ウミガメに影響がありそうな照明や、条例に違反している明るすぎる照明を探し、改修・交換しています。2010年以降は、フロリダ州の海辺沿いの施設で3万個以上もの照明を改修・交換しました。
「照明を改修した場所では、子ガメたちが内陸ではなく、海までちゃんと戻っているという調査結果が出ています。改修後は内陸に戻る子ガメの割合がゼロになりました」とウーリーさんは話します。
ウミガメなどの野生動物に優しい照明には、「低くすること」 「遮蔽すること 」「長い波長にすること」という三つの条件が大切だといいます。
「低くする」とは、取り付ける高さを可能な限り地面すれすれまで下げ、明るさや消費エネルギーを低いものにするということ。
「遮蔽」については、実際の電球に物理的に傘のようなものをかぶせて、地面だけに光が届くようにすること。
そして、ウミガメの行動を乱しにくい琥珀色やオレンジ色、赤色といった波長の長い照明を使うことです。こうした取り組みで、ウミガメが本来戻るべき海へ向かう効果が期待できるそうです。
日本でも、照明を撤去したことでウミガメが戻ってきたという事例があります。
星空保護区となっている東京の神津島(こうづしま)は、光害対策のために不要な道路灯を撤去したところ、その翌年、撤去した場所のすぐ脇にある砂浜で数十年ぶりにウミガメの産卵跡が見つかったことがあったそうです。
光害に詳しい東洋大准教授の越智信彰さんは「道路灯が設置されて以降、ウミガメが砂浜に上がってきたことは一度もなかったようで、道路灯が撤去されたことによる変化だと思われます。こんな変化がすぐに見られるとは予想してなかったのですごく驚きました」と話します。
記者が訪ねたフォートマイヤーズビーチに隣接するホテルでは、ウミガメ保護のために「夜は部屋のブラインドを閉めてください」「夜の砂浜で懐中電灯は使わないでください」という注意書きが書かれたチラシが宿泊客に配布されていました。
ウーリーさんは「ここに来る私たちも、部屋のブラインドやカーテンを閉めます。そして、部屋から出るときは電気を消すというちょっとした気遣いで、ウミガメを守ることができるんです」と話しています。
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