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16歳で難病、徐々に失われた光…〝全盲の画家〟指先の感覚で貼り絵
Instagramで作品を発信しています
思春期に発症した難病の影響で視力を失いながらも、創作活動に打ち込む作家がいます。家族の勧めで絵を始め、SNSに投稿している「オバケのタムタム」さんです。いったいどのように作品をつくっているのでしょうか。いまでは「絵が生活の一部になっている」と語るタムタムさんに、創作に至った思いを聞きました。
宇宙を泳ぐクジラ、カラフルなステゴサウルス、虹色のマンモス、ハートを運ぶ青い鳥ーー。
2020年3月からInstagram(@tom_tom_ghost)で貼り絵や水彩画など独創性のある作品を発表している「全盲の画家」オバケのタムタムさん(以下、タムタムさん)。作品のモチーフにするのは生き物や自然が中心です。
自身の姿も、名前も、性別も、年齢も、すべて非公表。作家名の「オバケ」は「自分が自由に動き回れない分、分身のオバケに旅をさせるような感じ」で名付け、たまに作品に登場させます。「タムタム」は好きな打楽器から取ったそうです。
16歳のときに網膜色素変性症と診断を受けました。徐々に視野が欠けて見えない部分が多くなり、失明する難病です。
当時は思春期で、自分の将来についても考え始めた頃でした。「少しずつ職業も考えていましたが、努力して何かの仕事に就いても失明は免れない。その先どう生きていったらいいのだろうかと、ものすごく落ち込みました」
20代で結婚して子どもが生まれましたが、徐々に視力が落ちて顔の判別が難しくなり、子どもが10代の頃に全盲になったといいます。
そんなタムタムさんが絵を始めたのは5年前。「何か社会と関わりを持つことをやってみたら?」という長男の言葉がきっかけでした。
タムタムさんはひとりで行動することが難しいため、おのずと家から出ることがおっくうになっていました。
長男は、もともとひょうきんな一面があったタムタムさんが年々引きこもりがちになり、鬱々としている様子を心配して言葉をかけたといいます。
自分に何ができるかを考えたとき、思いついたのが2013年から年賀状に描いていた干支(えと)のイラストでした。
本格的に絵を描き始め、指先の感覚を頼りに創作していくと、おもしろさを感じたそうです。
貼り絵の場合、粘土を使って「下絵」を作ります。粘土に合わせて型紙を切り、そこに細かく切った和紙やフェルトなどを貼っていきます。
幼い頃に見ていた生き物や動物図鑑の記憶も、創作の助けになっているそうです。
「田舎に住んでいて、生き物や自然が好きでした。色や形は脳内で想像して作っていますが、実際にどうなっているかは分かりません」と笑います。
作品を作り始めた当初はどこにも発表せずにいましたが、長男のサポートもありInstagram投稿を始めました。
長男が作品の画像をアップし、投稿に寄せられたコメントもコピーしてタムタムさんに送ってくれていたといいます。コメントへの返信も長男経由で投稿していました。
しかし、多忙な長男に任せることに申し訳なさを感じ、開設から約1年後にはタムタムさん自身がパソコンでInstagramを開き、コメントに返信するようになったそうです。
「リアルだけが人とのつながりではないことに気づきました」とタムタムさん。
面識のないフォロワーがほとんどですが、「頻繁にコメントをくださる方もいて親しみが持てます。文章を通して人柄が伝わってくるんです」と話します。
創作活動を始めて5年。視力ゼロから表現活動に取り組みましたが、いまでは「絵は生活の一部になった」とタムタムさんは言います。
「毎日のように絵のことを考えたり、調べたり、作ったり、刺激になります。頭を使うようになったので将来の不安などネガティブなことを考える時間も少なくなりました。続けていくことが大事ですね」
企業主催のアートコンテストなどで最優秀賞を受賞するなど、評価される機会も増えました。以前と比べて外出する機会も多くなり、興味の幅も広がったそうです。
背中を押してくれた長男については、「敏腕マネージャーのような存在」と表現します。
「ちょっと迷ったときも冷静な目でアドバイスをくれる。そういう見方もあるのかとハッとさせられますし、いろんな面で助けられていますね」
長男はタムタムさんについて、「もともと絵の才能があったわけではなく、努力して努力して失敗作だらけ。やっとうまくできたものをSNSやコンテストに応募しています」と話します。
「才能があるわけではないからこそ、幅広い人の心に寄り添える絵になっているのではないでしょうか」
タムタムさんは今後について、「1冊でも2冊でも絵本を作れたらと思います。少しずつお仕事をいただけるようになってきたので、そのお金で家族を海外旅行に連れていってあげられたらいいな」と話しています。
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