子育てをしていると「子どもから目を離さないように」、そして、危ないものは「子どもの手の届かないところに」とよく言われますが、具体的にはどのくらいの場所が“子どもの手の届かない”ところで、子ども本人にはどのように注意すればいいのでしょうか。家庭に普及した生活家電である電気ケトルに起きた最近の大きな変化、子どもへの注意の方法についての国の保育士への指導内容とあわせて考えます。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
子育てをしていると「子どもから目を離さないように」と言われることがよくあります。確かにほんの一瞬、目を離したタイミングで、子どもが何か良からぬことをしている、というのは、子育てをしているとよく遭遇する場面です。
先日は朝5時に物音がして目を覚ましました。すると、子どもと一緒の寝室の出入り口を塞ぐ幼児用サークルに、2歳になるうちの子どもが足をかけた状態で、ガタガタと柵を揺らし、「見つかった!」というような顔でこちらを振り返っていました。
ほとんど「再現ドラマで見かける塀を乗り越えて民家に侵入するドロボウ」のポーズだったのですが、そんなことを思える余裕があるのは、ケガなどをしていなかったからですよね。運動能力という意味では成長に驚かされると共に、親が寝ているうちに何かあったら、とゾッとした出来事でした。
このように、どうしても意識が離れる瞬間は生じてしまうので、もちろん「子どもから目を離さないように」心がけながら、そもそも危険のない環境を目指す、というのが親としての基本のスタンスになります。幼児用サークルについては、設置の方法を根本的に見直すことにしました。
家庭の中にも危険はつきもので、最近では、電気ケトルが基準変更され、各社が対応を急いでいることが報じられ、電気ケトル転倒による子どもの事故についても消費者庁が注意喚起をしました。
消費者庁は10月、「子どもが触れた電気ケトルが転倒し、熱湯でやけどを負う等の事故が発生していることを踏まえ、安全基準が見直されました」「お持ちのケトルは対策がなされていますか?」とX(旧Twitter)で注意喚起。
この安全基準とは、経済産業省によるもの。現在、安全基準には経産省のものとJIS規格(日本工業規格)に準拠したものがあり、メーカーはいずれかを選びます。JIS規格準拠のものについては、対応するための猶予期間が今年7月で終了。8月以降は基準に適合しない電気ケトルの製造や輸入ができません。
経産省基準でも2026年6月以降は湯漏れ防止機能をつけることが必須になり、ニュースで報じられました。
ただし、26年5月以前に日本で製造、または日本に輸入された転倒・流水対策がなされていない電気ケトルなどの在庫品は、同6月以降も引き続き販売される可能性があるため、「購入の際にはよく確認してください」と注意喚起したのでした。
消費者庁によると、17年までの約7年間で、電気ケトルなど(ポットを含む)によるやけどの情報が241件、寄せられていました。「保護者がトイレに行っている間に、子どもが台を揺らしたところ、ケトルが倒れて熱湯を頭から浴び、頭と顔のほか、腕や胸にも熱傷を負った」例などがあるということです。
電気ケトルを「(メーカーが)倒れても湯漏れしにくい製品にする」「(生活者が)そのような製品を選ぶ」というのはまさに“そもそも危険がない環境を目指す”方向性です。
一方で、すべてのリスクを事前に想定することはできないので、引き続き、子どもをしっかり見守ることも必要でしょう。電気ケトルのような危ないものは「子どもの手の届かないところに」ともよく言われます。これはどういう状態なのか、調べてみることにしました。
子どもの手が届く範囲については、内閣府の政府広報室が、実際に手が伸ばせる範囲と台(テーブルや棚など)の高さを足した長さとして「1歳児では約90cm、2歳児では約110cm、3歳児では約120cm」という目安を発表しています。
実際には子どもが床に置いた物などを踏み台にして、さらに広い範囲に手が届くケースもあり、これはあくまでも目安です。電気ケトルなどの家電について言えば、中には電気コードを引っ張って倒してしまった事例もあり、その長さも……。
成長にあわせて範囲がぐんぐん広がることに加えて、大人よりも好奇心が旺盛で危険性の予測ができないことを踏まえると、個別の対策はかなり難しいことがわかります。
厚生労働省の「保育所保育指針解説書」でも、1歳以上3歳未満児の時期は「短期間のうちに著しい発達が見られることや発達の個人差が大きい」とされます。
その上で、危険予測については、「子どもの手が届く範囲の物はその安全性などを点検し、危険な物は取り除き、安全な環境を確保するとともに、歩行や遊びの障害にならないようにしていく必要がある」とあります。
一方で、これが3歳児以上になると、「危険な場所、事物、状況などを知ったり、その時にどうしたらよいか体験を通して身につけたりしていく」とあり、成長につれこうした能力も身についていくことがわかります。
また、「安全を気にするあまり過保護や過介入になってしまえば、かえって子どもに危険を避ける能力が育たず、ケガが多くなることがある」とされ、子どもの事故は情緒の安定と関係が深く「温かいつながりをもち、安定した情緒の下で」指導し、場合によっては「厳しく指示したり、注意したりすること」も必要とのこと。
その際は、「子ども自身が何をしてはいけないか、なぜしてはいけないかを考えるようにすることも大切」と指摘されています。
「子どもから目を離さない」、その上で危ないものは「子どもの手が届かないところに」。それでも注意の目から抜け漏れてしまうことについては、日々、根気よく子どもに伝え続けるしかなさそうです。