今月12日、『キングオブコント2024』(TBS系)決勝が放送され、ラブレターズが第17代王者に輝いた。昨年の歴代最高得点964点は更新されなかったものの、近年稀に見るスリリングな戦いが繰り広げられた今大会を振り返る。(ライター・鈴木旭)
「毎年言ってますけど、本当にレベルがどんどん上がってって。今回、本当にピークみたいな大会になってる気がします。それでもうキュンキュンに点数が詰まってる気がしますね」
『キングオブコント2024』のファイナルステージ進出者が決まったタイミングで、東京03・飯塚悟志はこう語った。その言葉の通り、ファーストステージを終えた時点でトップと同率2位との差はわずか1点。最後の最後まで勝負がわからない大会となった。
ファイナリストは、コットン、ニッポンの社長、ファイヤーサンダー、や団、ラブレターズ、隣人、ロングコートダディ、cacao、ダンビラムーチョ、シティホテル3号室の10組。結成5年目の若手であるcaocaoから17回目の挑戦となる中堅ラブレターズまで、幅広いメンバーがそろった。
また今年は、東京03・飯塚、バイきんぐ・小峠英二、ロバート・秋山竜次、かまいたち・山内健司に加えてシソンヌ・じろうが審査員を担当。活動休止中のダウンタウン・松本人志の枠を埋める形で、初めて歴代王者5人による採点で優勝者を決定した大会でもある。
もちろん“レジェンド”の松本から評価される意味は大きいだろうが、現役の人気コント師から認められる喜びもひとしおだろう。審査員によって採点基準の違いも見られたため、その点も含めて興味深いものがあった。
ファイナルステージへと勝ち上がったのは、ラブレターズ、ロングコートダディ、ファイヤーサンダーの3組。全組が初のファイナル進出ながら、キングオブコントではお馴染みのメンバーだ。今回、なぜ彼らが上位へと食い込んだのか。審査員コメントを交えて、各々のコントを振り返ってみたい。
ファーストステージをトップ通過しながら、惜しくも3位となったのがファイヤーサンダーのこてつと﨑山祐だ。
1本目は、審査員の飯塚が大会全体でも最高点となる98点をつけて「想像もつかない設定だった」と賞賛するなど高評価を受け、合計476点を獲得。暫定1位だったロングコートダディを1点上回り首位となった。
内容は、お笑い芸人(こてつ)の毒気のある例えツッコミが軒並み事実とリンクしていることが発覚し、警察と思われる男性(﨑山)からスカウトを受けるも、その人物の闇までもが明るみとなって……というもの。
芸人が写真の人物を見て「遺産相続で揉めて兄弟全員殺したんか」などとツッコむ。その内容と事実がすべて一致し、自宅を訪問してきた男性が裏の組織の工作員であることまで暴いてしまう。ラストで男性から「キミは、例えすぎた」とすごまれて芸人が慌てふためく姿は、ミステリーと笑いが入り混じる独特の見応えがあった。
続く2本目は、弱小野球部のキャプテン(こてつ)をからかっていた不良グループの少年(崎山)が日を追うごとに改心していき、最終的に大会の予選で欠員メンバーに代わって飛び入り参加し野球部を救うコント。短い暗転で時間経過を表現し、シンプルかつハートフルな世界で1本目との違いを見せた。
これに審査員の秋山は「もうちょっとほしかったですね、何かが」、じろうは「ちょっとキレイすぎる感じがしちゃった」とコメント。1本目の展開を超える面白さを期待され、むしろハードルが上がってしまったのかもしれない。
個人的には、2018年にキングオブコント王者となったハナコの2本を思い出した。1本目に岡部大がペットの犬に扮したネタ、2本目に恋人同士の追いかけっこがエスカレートしていく暗転を使ったネタで優勝したからだ。この6年で少しの隙も見せられない大会になったことを痛感させられる審査だった。
今大会のトップバッターで登場し、その勢いのまま準優勝となったのがロングコートダディの堂前透と兎だ。
とくに1本目は、シンプルなシチュエーションながらアクの強いキャラクターで目を引いた。花屋にやってきた男性(兎)が、女性店員(堂前)に「彼女に花束のプレゼントをしたい」と見繕いを任せるも、「これは違いますね」「何でこんなことになっちゃったんだろう」と鼻で笑い、ことごとく店員が作った花束のセンスを否定していく。
堪えかねた店員が最初の花束をもう一度持ってきたり、「さらば肉団子サラリーマン」といった嫌味な花言葉を紹介したりして反撃。最後は男性が車に轢かれそうになった店員を助けてなお、「まだマイナスです」と返り血を浴びる姿が実に滑稽だった。
どの審査員も高く評価したが、とくに最高点96点をつけたじろうの「兎のモンスターカスタマーっぷりを堂前がツッコんじゃえば簡単なんですけど、ずっとリアルにとりあえず接客しながら、花言葉とかで返していくっていうリアルさがすごい素晴らしかった」というコメントに彼らしい審査基準を垣間見た気がした。
2本目は、岩壁に封印されたウィザード(兎)に死の呪いを解いてもらおうと青年(堂前)がやってくるも、ウィザードの話す「ルヴァロガドゥ(台の上)」といった独特な言葉がまったく理解できず、最終的に何も起こすことなく帰ってしまうコントだ。ウィザードの言葉がスクリーンに表示され、青年とのすれ違いが観客にだけわかる演出が巧みだった。
これに秋山は96点、じろう、山内は95点と高得点をつけた一方で、小峠が93点、飯塚が92点と伸びなかった。その理由について飯塚は「テレビコントとしては本当に良くできた、ずーっと面白いやり取りが続いているんですけど、やっぱり僕は兎くんが出てきてほしかった」とコメントしている。
東京03とバイきんぐは、比較的シンプルな舞台セットでネタを披露してきた。そんな2人が、演者やストーリー展開の面白さを重視するのは必然なのかもしれない。
そして、大会の第1回目から出場し、2年連続5回目の決勝進出で悲願の優勝を果たしたのが、ラブレターズの塚本直毅と溜口佑太朗だ。
1本目は、ひきこもりの息子の洗濯物からどんぐりが落ち、“外に出ているかどうか”で一喜一憂する父親(溜口)と母親(塚本)を演じた。父親が「古いどんぐりかもしれない」とネット検索するも「古いどんぐりは虫が湧いてダメになる」「ただ、5分~10分茹で十分に乾燥させたら元の状態で何年か遊べます」と出て再び暗礁に乗り上げる。
その後、父親は息子が風呂に入っている隙に部屋へと忍び込み、大量のどんぐりを持って戻ってくる。「息子の名前(スペース)どんぐり」で再度ネット検索すると、息子のYouTubeチャンネルを発見。どんぐり笛を作って井上陽水の「少年時代」を演奏する息子の動画に父親はどんぐりをぶちまけて感激し、母親と涙ぐんで抱き合いラストを迎えた。
審査員はこぞって高い得点をつけ、合計475点で2位のロングコートダディと並んだ。とくに小峠と山内のコメントが印象的だ。
「子どもをどうやって出すかではなくて、あのどんぐり1個であそこまで展開させるストーリー性。あとやっぱ『少年時代』をかける意味合い、意味のあるSEというか。雰囲気作りのSEじゃなくてちゃんと意味のある。あれは良かった」(小峠)
「最初、感情が『クククゥー!』とか言ってんのが『いや、そうはならへんやろ』って思ってたんですけど、だんだんこっちがその感情に追いつかされてきて『クククゥー!』とかなってんのが、どんどんどんどん面白くなる感じがすごい新しかった」(山内)
続く2本目は、ナンパしようとやってきた亜麻色の髪の外国人男性(溜口)が流木に座って海を眺める女性(塚本)にみるみる翻弄されていくネタだ。Jリーグのジュビロ磐田の熱狂的ファンを自負する女性は、「坊主にすれば優勝できる」という占い師の言葉を信じて坊主頭にしたと明かす。
ひとしきり話を聞いた男性は「キミはよどみなく変だ!」と距離をとるも、そのタイミングで魚が釣り竿を引いていることに気づく。竿を引っ張り、魚と格闘する男性。その最中、今度は女性が「この九十九里で髪を切れば千葉のチームに一生負けないの」とバリカンでさらに髪を刈り、ジャンプして応援歌まで歌い出す始末。最後は、女性がゴン中山の名言を吐いて川崎の海へと去っていく……という何とも変わったコントだった。
これに対し、審査員の山内は「ハゲてバリカンしながら、後ろで魚釣ってる。一番面白い構図」、秋山は「最初は溜口くんがボケかなと思ってたら、もっとヤバいやつ出てきて」と高く評価した一方で、じろうは「要素が多すぎる割には、あまりお客さんに伝わり切ってなかった」、小峠は「(筆者注:話が)どこに向かっているのかなって」、飯塚は「ストーリー性がもうちょっとあったほうがいい」とマイナス要因も口にしている。
ファイナルステージの最初にネタを披露したこともあるだろうが、こうした点からも審査員全員が手放しで認めた王者ではないことがわかる。やはり、大会の終盤でじろうが語った「ラブレターズは人(にん)の力というか、マンパワーで何とかしようとしたところとかも見えて、そこがちょっと差が出たのかな」という言葉に尽きるのではないか。
そのほか、4位のや団は「職場の休憩室で仲間の誕生日を祝うはずのシチュエーションで起きた惨事」という彼ららしい展開で観客を魅了し、5位のシティホテル3号室は「生々しい価格交渉を展開するテレビショッピング」というユニークなネタで会場を沸かせた。
続くダンビラムーチョは、「1曲中に4回だけしか叩けない4発太鼓」という架空の伝統芸能ネタで笑わせ、ニッポンの社長は「野球センス抜群も声が小さい高校球児に対し、ことごとくバットで叩きながらツッコミを入れる監督」というインパクトの強いコントを披露。
今大会最年少のcacaoは「弱小チームゆえに部室内の練習で異常な集中力が鍛えられた野球部員と監督」、コットンは「リアルすぎる人形劇を披露する子どもと、その世界に引き込まれてしまった大人」を熱演して大会を盛り上げ、隣人は「頭脳が発達しすぎたチンパンジーとの暮らしに危機感を覚えた老人」という独特な世界観で存在感を示した。
他方、SNSのX上で「審査員の好み」がトレンド入りしたのも印象深い。現時点のルールでは審査員それぞれの見識や感性で採点しているが、やがてフィギュアスケートのように「演技」「技術」「構成」などの項目別に点数をつけるタイミングが来るのだろうか。
それほどに「5分のコント」は年々巧みさを増し、ネタの善し悪しを判断する審査側の能力も問われる時代になった。ただ、今年のラブレターズを見ていると、つまるところはコント師の内に秘めた思いが勝敗を分けるように思えてしまう。
優勝後の記者会見で、溜口は「本番前から『どうせ優勝なんてないんだから』と言ってきてたんです。今までの人生が積み重なって、自分たちに期待していなかった」と語っているが、裏を返せば「優勝せずともコントは続けていく」という強い覚悟があったと感じてならないのだ。