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空前の〝ムーデンフィーバー〟 「わざと起こせば5千バーツ」罰則も
ムーデンの意味は「豚肉団子」
「豚肉団子」という名前の赤ちゃんカバが、SNSで世界的な人気です。これだけ人気だと、現地もすごいことになっているはず。その様子をひと目見ようと、現地を訪ねました。
高層ビルの立ち並ぶタイの首都バンコクを発って、南東方向に車で約1時間半。熱帯の木々や野原、地元の人々向けの食堂を横目に高速道路を走ると、チョンブリ県シラチャに着きました。コビトカバの赤ちゃんの「豚肉団子」こと「ムーデン」が公開されている、カオキアオ動物園がある場所です。
この日は月曜日。平日の午前とあって、入り口付近に観光客の姿はあまり多くありませんでした。制服姿の中学生くらいの団体や、小さな子ども連れの姿がちらほら見られます。公開中の動物や鳥たちも、心なしかのびのび過ごしているように見えます。
チケット売り場のデジタル看板には、ムーデンの様子をとらえた動画が流れていましたが、「ムーデン推し」の演出は思ったほどではありません。むしろ、SNSでの騒ぎを知らなければ、「人気者」が園内にいることも気づかないかもしれないほど。
ところが、カバの公開エリアに近づくにつれて、徐々に混雑し始めます。ムーデンと母親が公開されている柵の周りは、大勢の人々で取り囲まれていました。
午前11時過ぎに公開エリアへと到着した時、ムーデンは水の中に浮かんで寝ているところでした。少しずつ体勢を変えながらも、決して母親のそばを離れない。その様子を見て、子どもも大人も指をさしながらはしゃいでいます。
ムーデンが目を覚ますと、人だかりがさらに大きくなりました。葉っぱを食べたり、大きな口を開けたり。かわいらしい動きを見せるたび、客からどよめきが起きます。バンコクから来た主婦のジューさん(59)は「動物が幸せそうに暮らしているのをみて、私も幸せ」。看護師のプライさん(27)は「小さな耳をプルプル震わせる姿や、怒ったような表情が、とってもキュート」と話します。中には、ムーデンのファンクラブを結成し、飼育員にお菓子などを差し入れる客もいるそうです。
午後2時。飼育員によるえさやりの時間になると、ムーデンの公開エリアは柵に近づくこともできないほどの大混雑に。園の担当者によると、ムーデンが生まれる前の1日あたりの訪問者数は平日800~1200人、休日は3千人ほど。それが、最近では平日3千人、休日は1万人ほどが訪れているといい、以前の4倍近くに増えました。
シラチャは日本企業の工場が集まるエリアで、日本人学校もあります。最近は、「ムーデンフィーバー」を受けて日本人駐在員の親子連れも数多く訪れるようになったそうです。9月14~15日の土日には、普段はやらない入場制限を実施しなければならなくなり、数百メートルの行列ができたそうです。
コロナ禍では、感染予防措置のため、カオキアオ動物園も営業できない時期が続きました。園では雇用を維持するため、皆で給与水準を引き下げるなどしてしのいだといいます。園長のナロンウィットさんは「お客さんがたくさん来てくれることは、本当にうれしいこと」と話します。園はムーデンのぬいぐるみや、イラストをあしらったシャツなどを売り出す予定です。
人気が高まるにつれて、悩みも増えています。
「わざと大きな音をたてて起こしたら、5千バーツ(約2万1千円)。物を投げ入れたら、1万バーツ(約4万3千円)です」
ムーデンの公開エリアでは、常に係員が巡回し、法律に基づく罰則を周知しています。ムーデンの誕生後、寝ているムーデンを起こそうと水をかけたり、物を投げ入れたりする行為が目立つようになりました。園は対策のため、監視カメラも設置したそうです。
園長のナロンウィットさんは「静かに、騒がず見てほしい。動物の暮らしを妨げないよう気をつけて」と話します。
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