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スポーツとAED ラグビー元代表田中史朗さん「救える命が増える」
運動時の心停止のリスクは、安静時の17倍――。急に運動をしたり、胸にボールを受けたりして心臓が止まってしまう事例は、スポーツ現場で「まれなこと」ではないといいます。きょう9月9日は「救急の日」。どんな状況で起きてしまうのか、どんな対策をすればいいのでしょうか。(withnews編集部・水野梓)
市民にAED(自動体外式除細動器)が解禁されて20年にあわせて、ことし7月に開かれたトークショーでは、ラグビー元日本代表の田中史朗(ふみあき)さんが登壇しました。
AEDは、乱れてしまった心臓のリズムを電気ショックで元に戻す機器です。
ニュージーランドでプレーしていたとき、田中さんはチーム全員がAEDの講習を受けたといいます。
「胸骨圧迫(心臓マッサージ)やAEDの講習はチームとして取り組んでいました。みんなが理解していれば、ひとつの命を救う可能性は上がるのではないでしょうか」
「1時間ほどで命を助ける知識を得られる。ラグビーだけじゃなくて、いろんなスポーツや学校でやっていければ、救える命が増えます」と話します。
6月30日、バドミントン・アジアジュニア大会(インドネシア)で、中国選手が突然コートに倒れ、救命措置がないまま搬送先の病院で死亡が確認されました。これを受け、日本AED財団は緊急メッセージ「スポーツ現場の突然死」についてを公開しましたhttps://t.co/2pG3AAFV8p#aed
— 日本AED財団 減らせ突然死プロジェクト (@aed_project) July 2, 2024
メッセージでは「人が目の前で倒れたら医者の到着を待つのではなく、一秒でも早く、現場に居合わせたコーチ、選手、審判、観客の誰もがとっさに手を貸すことが求められます。まずはすぐに手分けして AEDを取り寄せ、119 番に通報することが重要です」と呼びかけます。
心臓が突然止まってしまった場合、電気ショックが1分遅れるごとに救命率は約10%ずつ低下してしまいます。
パッドを貼ればAEDが心電図を解析して、AEDによる除細動が必要かを判断してくれるため、一刻も早くAEDを持ってくることが大事です。
トークショーでは、東京医科歯科大学病院の救急医・藤江聡さん(AED財団減らせ突然死プロジェクト実行委員)が、AEDで命が救われたサッカー選手を紹介しました。
2021年に開催されたユーロ2020(UEFA欧州選手権)で、デンマーク代表のエリクセン選手が倒れ、試合が中断。選手・スタッフたちによって救命処置が施され、AEDが使われて一命をとりとめました。
プレーに復帰したエリクセン選手は心停止から1100日、ことし6月にユーロ2024で再びゴールを決めるほどまでに。サッカーファンからは「おかえり」「泣いた」などと感動の声が上がっており、AEDを使うことが劇的な回復につながることが分かります。
藤江さんは「マラソンやサッカーなど、激しい運動では心停止の事例が多いです。ゴルフなど人口の多いスポーツも、ふだん運動していない人が突然プレーすると起きやすい傾向があります」と指摘。
ほかにも、ボールが当たるなど胸に激しい衝撃があった場合に心停止してしまうこともあります。
「スポーツは小学生から高齢者まで幅広くやっているもの。この心臓突然死を減らすのは非常に大事です」と話します。
田中さんも「知識を得るのは大事なこと。みんなが知れば、救える命が増えます」と呼びかけます。
実は、2019年に日本で開催されたラグビーW杯の決勝戦でも、キックオフ10分前に、観客が心停止で倒れ、AEDの処置を受けて救命された事案があるそうです。
田中さんは「ファンも熱くなるスポーツ。誰かが知識を持ってくれていると、そんな風に助けることができるので、より安心して観戦できる」と指摘します。
「AEDとスポーツは切り離せないもの。選手もそれを理解して広めていくこと、命を守れることをきちんと発信していきたい」と話していました。
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