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打ち明けにくい〝ED〟の悩み「体の一部だけの問題ではない」と医師

男性の“性に関する悩み”は打ち明けにくいが……。※画像はイメージ
男性の“性に関する悩み”は打ち明けにくいが……。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

他の人に打ち明けにくい男性の性の悩みの一つ、EDは国内に患者が1100万人以上いると推計されています。なぜ発生するのか、どんな状態なのか、どう対策すればいいのか、EDについて「体の一部だけの問題ではない」と指摘する専門家に話を聞きました。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
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ED患者は推計で国内に1130万人

男性の悩みのうち、一人で抱え込んでしまう人も多いのが、「勃起障害」または「勃起不全」と呼ばれる病気、いわゆるEDです。

日本性機能学会/日本泌尿器科学会のガイドラインでは、EDは<満足な性行為を行うのに十分な勃起が得られないか、または維持できない状態が持続または再発すること>と定義されています。

日本におけるEDの有病率は、1998年の報告(※1)によると、完全型ED(常にできない)、中等症ED(しばしばできない)を合計すると1130万人(40代が20%前後、50代が40%前後、60代が60%前後)となり、軽症ED(たまにできない)を含むとそれ以上であると報告されています。

また、別の2000年の報告(※2)では、男性不妊の原因の20.7%が勃起障害であることも判明しました。

※1. 臨床統計(我が国および諸外国).日本臨牀60(増刊号6):200~202,2002
※2. 男性不妊の実態及び治療等に関する研究.平成11年度厚生科学研究(子ども家庭総合研究事業)報告書

そんなEDは、なぜ発生するのか、どんな状態なのか、どう対策すればいいのか、泌尿器科の専門医で「泌尿器・日帰り手術クリニックuMIST東京代官山-aging care plus-」院長の斎藤恵介さんに話を聞きました。

単に「体の一部の問題」ではない

斎藤さんはEDについて、「ただ勃起しないというような体の一部の問題ではない」と指摘します。その理由は、陰茎が「体からもっとも外にある重要な血管」だから。その状態は「体全体の健康のバロメーターでもある」と言います。

そもそも、正常な勃起とはどのようなものなのでしょうか。斎藤さんはこう説明します。まず、視覚や聴覚、味覚、嗅覚、想像といったリビドー(性的興奮)により、脊髄の最下部にある勃起中枢が興奮します。

このとき、骨盤の副交感神経を介して、その先の陰茎に分布する神経からNO(一酸化窒素)や「cGMP」といった勃起をさせる物質が放出され、陰茎の海綿体に血液が流れ込み、充満していくことにより勃起します。

勃起が完成すると、陰茎内に充満した血液が陰茎の外に流れ出ないようなシステムが働き、勃起が維持されます。射精が起こるか、性的刺激が中断すると、交感神経系が優位になり、海綿体内の血液が放出され、勃起は終了します。

このように、勃起には血管が深く関わっているため、EDでは血管の機能が阻害されるような生活習慣病も原因になります。日本泌尿器科学会によれば、例えば高血圧で41.6%、糖尿病で42%、高脂血症で20%にEDがあったという報告もあります。

また、多くの心血管疾患(心筋梗塞、狭心症など)の患者さんが、その発症前にEDを自覚していた、とします。専門家の間では、EDを脳梗塞の前兆とする意見もあります。

ED治療薬“以外”の選択肢も必要に

EDの原因には、このような「血管性要因」の他にも、性的興奮を阻害する不安やストレス、うつなどの「心理的要因」、事故などによる中枢の脊髄神経障害や例えば前立腺がんの手術などによる末梢の神経障害などの「神経性要因」、NOやcGMPの放出を阻害する「分子レベル要因」があります。

また、勃起に関わる性欲だけでなく、社会生活全体に関わる意欲を高める男性ホルモンであるテストステロンの分泌自体が低下してしまうような、甲状腺疾患や性腺機能低下症による「内分泌性要因」もあります。

そのため、EDの治療では「どこに原因があるかを診療によって明らかにし、原因に応じた治療を行う」と齋藤さん。問診や各種の検査が非常に重要になるということでした。

治療として一般にもイメージされやすいのは、いわゆる「バイアグラ」のような、ED治療薬と呼ばれる薬です。これらは、リビドーを上昇させるわけではなく、血管拡張を促すものです。ED治療薬には複数の種類がありますが、cGMPを分解する物質を阻害しcGMPを増加させるという機序は同じです。

「勃起のメカニズムは複雑です。ED治療薬が効くなら、逆にその他の要因、血管や神経には問題がないとも言えます。そもそも性的興奮が得られなかったり、血管や神経に問題があったりすれば、ED治療薬は効きません。

性欲や意欲に乏しければ、男性更年期障害の治療と同様に、テストステロン補充療法を行うこともありますし、現在は陰茎血管に衝撃波を与える治療や、高周波磁気により神経の機能や骨盤の血流の改善を狙う治療も出てきています」
 

AGA治療の結果EDになることも

EDについては、ネットで「処方せんなしで買える」などとうたわれる“薬”が盛んに販売されてきたり、最近もオンライン診療の名の下にほとんど診察なしでED治療薬が処方されたり、といった問題があります。

また、男性の健康、いわゆるメンズヘルスについては、正しい理解が進んでいない現状がある、と斎藤さん。その一つがいわゆるAGA(男性型脱毛症)治療です。

「AGA治療薬というのは、基本的に男性ホルモンであるテストステロンの働きを阻害するものです。つまり、AGA治療薬を服用することで、EDが起きることもあり得ます。

薄毛の悩みを解消した結果、性欲が減退したり、EDになってしまったりするとしたら、それは本当に患者さんのためなのでしょうか。このように、一つの問題に対処するだけでなく、男性の健康と若さを考えた総合的な治療やケアが求められます」

斎藤さんは「それだけ悩みを持つ人が多い」とみます。「治療は医師の診察と処方に基づいた正しい方法で」と注意喚起した上で、実際に治療にあたる中で、患者からよく言われることについて話してくれました。

「『年を取ったからもうそういうのは卒業したんだけど……』などとおっしゃる方がとても多いのですが、男性機能の維持は、体の健康にもつながります。アメリカでは健全な健康や社会生活を維持するために“penis rehabilitation”と呼ばれる男性機能の維持のリハビリの概念も生まれています。

適切な治療により、高齢と呼ばれる世代に差し掛かっても、男性機能を回復し、自信を取り戻す方もいらっしゃいます。悩んでいる方は、ぜひ一度、医療機関を受診してください」

<日本泌尿器科学会の認定専門医一覧や専門医教育施設紹介のページはこちら>
https://www.urol.or.jp/public/

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