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連載

#5 「AED持ってきて」~20年のいま~

AED「いち早く届ける」アプリ〝自分の町を守るチーム〟の一員に

市民が現場にAEDを持って駆け付けられるようにするアプリ「AED GO」
市民が現場にAEDを持って駆け付けられるようにするアプリ「AED GO」

目次

誰かが倒れた時、アプリに通知が来て、近くにいる人が呼びかけに応じてAED(自動体外式除細動器)を届ける――。そんな取り組みが全国3自治体で進んでいることを知っていますか? 通知を受けて救急隊よりも早く到着し、AEDを届けて使った男性は「身体が反射的に動いた感じ」と振り返ります。「自分のように助けに走っていける人がいると思うので、全国にこの取り組みが広がってほしい」と話します。

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「185メートル」の表示を見て

「185メートル、すぐそこじゃん!」

3年前の1月、千葉県柏市のオフィスで働いていた第一生命保険の北島圭一郎さん(29)は、スマホの通知を見て驚き、そう思ったといいます。

通知が鳴ったのは、アプリ「AED GO」からでした。

「駆けつけ可能ですか?」と表示された画面に「はい」と答え、すぐに上司に「ちょっと行ってきていいですか」と声をかけ、「後先考えずに飛び出しました」と振り返ります。

アプリ「AED GO」を使い、AEDを現場に届けた第一生命保険の北島圭一郎さん
アプリ「AED GO」を使い、AEDを現場に届けた第一生命保険の北島圭一郎さん

全国3自治体で進む「AED GO」の取り組み

AED GOは、愛知県尾張旭市と千葉県柏市、奈良市で実証実験が行われているアプリです。

道路や公共施設などで誰かが倒れ、119番通報を受けた消防局が、「心停止の恐れがあり、AEDが必要」と判断したら、ボランティアでAED GOに登録した人に通知が届く仕組みです。

位置情報や通知をオンにしていた人の中から、対応可能な人が呼びかけに応じて「AEDを届ける」という取り組みです。

出典:公益財団法人日本AED財団

第一生命保険の柏支社では2020年から柏市と協力し、地域貢献の一環として社員みんながAED GOをダウンロードしていました。

当時、柏支社でアプリの推進担当を担っていた北島さんは「何もないのが一番ですが、もし近くで起きたら駆けつけようと思っていました」と話します。

【AED GOとは?】倒れた人がいる!スマホに通知、市民がAED届ける「AED GO」

コンビニに駆け込み…「LEDですか?」

アプリ内の地図では、現在地と最寄りのAED、人が倒れているところの3カ所が表示されます。

会社を飛び出して「早く信号変われ」と思いながら国道を渡り、AEDがあると表示されていたコンビニに駆け込んだ北島さん。

街中に設置されているAEDの一部
街中に設置されているAEDの一部

店員に「AEDありますか?」と声をかけたところ、最初はすぐに理解されず「LEDですか?」と返されたそう。

「AEDです」と何度か伝えたら分かってもらえて、レジ内にあったAEDを手渡され、現場へ向かいました。

「自分がやるしかない」手が震えて…

現場のガソリンスタンド前の歩道に倒れていたのは男性でした。

数人が集まっていて、頭から血を流している男性を、救助しようとした女性が後ろから抱えているのが見えました。

意識はなく、呼吸があるかどうかも判断がつかず、「自分がやるしかない、とにかくAEDを使おう」と思ったという北島さん。

「でも、これまでの人生で一番、手が震えていて。AEDを開けるのが苦労しました」

電気ショック、必要かどうかはAEDが判断

電気ショックが必要な状態かどうかはAEDが判断してくれるため、「とにかくAEDのパッドを貼る」ことが大事です。もし心停止の状況であれば、1、2分が命に関わります。

北島さんの場合、パッドを貼って少し待ったところ、「電気ショックは必要ありません」とアナウンスが流れました。

出典: 画像はイメージです Getty Images

それとほぼ同時に、救急車のサイレンが近づいてくる音が聞こえたといいます。どうやら一時的に気を失っている状態だったようです。

「あぁ、とりあえずこの方は大丈夫、とホッとして、救急隊に引き継げるということも安心しました」

1分遅れるごとに、救命率が10%ずつ低下

総務省消防庁によると、救急車の到着までの時間は長くなってきており、2022年は全国平均10.3分です。

一方で、心臓が突然止まってしまった場合、電気ショックが1分遅れるごとに救命率は約10%ずつ低下してしまいます。周囲にいる人ができるだけ早く駆けつけて、AEDを使ったり、心肺蘇生法(心臓マッサージ)をしたりすることが、救命や後遺症の有無のカギを握るのです。

2023年に、柏市内で発生した心肺停止478件のうち、市民が心肺停止の人を目撃したのは190件ありました。そのうち、市民によってAEDが使われたのは14件でした。

北島さんは「救命に関わるのは『怖い』とおっしゃる方もいるのは分かります。でも私の場合は身体が反射的に動いた感じで、メリットとかデメリットとか考える余裕はなかったですね。通知に応じないという『やらない後悔』の方が強く感じてしまいそうでした」と話します。

AEDを現場に届けた第一生命保険の北島圭一郎さん
AEDを現場に届けた第一生命保険の北島圭一郎さん

「自分の町を守るチームに入った」気持ち

北島さんは社内で推進担当だったこともあり、アプリの設定を現在地にかかわらず「全部の通知が来る」設定にしていたそう。

「体感としては週に1回ぐらい通知が鳴っていたので、誰かが倒れてAEDが必要かもしれないケースがこんなに多いんだ、と驚きましたね」

一方で、人口43.5万人(2024年8月1日現在)の柏市では、AED GOの登録者は2300人と伸び悩んでいます。

通知に市民が応じて救急車より早く到着し、実際にAEDのパッドを貼ったケースはまだ北島さんの例しかありません。

北島さんは「通知を切っていたとか、スマホを見ていなかったとか、認知度にもまだまだ課題があると思います」と話します。

「でも、AED GOのデメリットって特にないと思いますし、障壁はあるかもしれませんが、全国に広がってほしいと思います。自分のように、何も考えずに助けに走っていける人が、何人かにひとりはいると思うんです」

アプリに通知が入ると、現場までの距離・経路、近くのAEDが表示され、駆けつけ可能かを選択できるようになっています
アプリに通知が入ると、現場までの距離・経路、近くのAEDが表示され、駆けつけ可能かを選択できるようになっています

導入が柏市と限定されていたこともあって、アプリをダウンロードしたときに「自分の町を守るチームに入ったような気持ちがした」という北島さん。

誰かが救われる可能性が1%でも上がるかもしれない――。そんな取り組みがAED GOだと感じているそうです。

「AED GOの取り組みに関わってから、街中でAEDが目につくようになりました。出先でも『ここに置いてあるんだ』と自然と目に入るようになったことが、一番変わったことかもしれません」

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