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「これが、熱中症か!」 常夏の国の人が感じた〝日本の夏〟の衝撃

「なぜこんなに暑いのに、みんな普通に働くのか」
「なぜこんなに暑いのに、みんな普通に働くのか」 出典: Getty Images

目次

厳しい暑さが続く日本。7月だけで、東京23区内で熱中症疑いの死者は123人に上ったと言います。日本で暮らす外国人はどう感じているのでしょうか。常夏のインドネシアから来た人に話を聞きました。

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「そもそも、概念がない」

伺ったのは、日本で出産や子育てする女性たちをサポートする「マザーズ・ツリー・ジャパン(MTJ)」のオンラインイベント。この日は、インドネシア出身の女性たちを集めて、日本人助産師が「夏の風邪と熱中症」について話していました。

インドネシア出身で日本在住歴22年の、MTJのインドネシア語通訳、芦村夢樹(ユキ)さんは冒頭に、インドネシア語でこんな小話をしました。

「みなさん、覚えてますか? インドネシアの学生時代にあった月曜朝の集会。だいたい1~2人倒れる人がいたでしょ。あれが、ヒートストローク(Heatstroke、熱中症)です」

まず説明したのは、「熱中症」の概念でした。

終了後、ユキさんにその意図を聞くと、「そもそもインドネシアには熱中症という概念がないんです。『熱中症』にあたるインドネシア語も、一般的には知られてないので、どんなものか想像がつかない人が多いんです」。

30分間の屋外集会で、もし倒れる人がいても「ちょっと体調が悪いのね」という程度の認識だったそうです。

インドネシア出身の芦村夢樹(ユキ)さん
インドネシア出身の芦村夢樹(ユキ)さん

「なにこれ、どういうこと?」

そもそも、赤道直下のインドネシアは日本よりも暑いのではないでしょうか? 調べてみると、立秋を過ぎて暦の上ではもう「秋」になる8月15日、東京では午前11時の時点で34.2℃に達し、暑さ指数(WBGT)は「危険」を記録したのに対し、同じ日の正午、インドネシアのジャカルタは31℃でした。

「日本とインドネシアでは暑さのレベルが違います。インドネシアは暑いけど『手うちわ』でもしのげるくらい。でも、日本の夏は日差しが〝痛い〟」とユキさん。

「日本では暑さのせいで死者が出ている」とインドネシアでもニュースになっています。ユキさんはインドネシアにいる友人から「なにこれ、どういうこと?」と聞かれるたび、「こっち(日本)の暑さは尋常じゃないんだよ」と答えるそうです。

「食べ物にあたった」

先日、ユキさんのもとに、インドネシア人の女性が駆け込みました。

その日は、ユキさんが京都で運営する子育て中の人が集う場所の開所日でした。そこに来所したインドネシア人女性が突然、「ユキさん、私、悪い食べ物にあたった。食中毒みたい」と倒れ込んだそうです。

ユキさんが運営する京都の子育てひろば
ユキさんが運営する京都の子育てひろば 出典: ユキさん提供

聞くと、女性は来る途中で気持ちが悪くなり、トイレに駆け込んだところ、おなかを下したとのこと。その女性はイスラムの戒律で、肌を出さない長袖長ズボンと、スカーフ(ヒジャブ)を着用し、日よけ帽をかぶっていましたが、見ると、汗をかいていません。

「これって、熱中症じゃない?」。事前に熱中症で下痢が起きることもあると知っていたユキさんは、急いで涼しい場所に移動させました。「私以外、誰もいないから大丈夫」と言って、スカーフを取らせ、襟元まで閉じたシャツのボタンを開け、ズボンの裾をまくって、体を冷やしました。そして、イオン飲料を飲ませたそうです。

しばらくすると、女性は徐々に回復しました。熱中症だと聞いても、日本に住んで5年ほどになるその女性は最初「今日は曇りで日差しもない。私はちゃんと水も飲んでいたから、そんなわけがないよ」と半信半疑でした。

でもユキさんは、日差しがなくても、湿度と気温が高ければ、室内でさえ熱中症になること、水だけでなく、塩分も一緒にとることが、熱中症予防には大事ということを教えたそうです。

「ゴム時間」が生きる知恵

インドネシアでは、暑さをどうしのいでいるのでしょうか。

一年を通して、気温は25~30度前後で保たれているインドネシア。四季がある日本よりも体が暑さに適応していることも大きいですが、人々は暑さに応じた暮らし方をしています。

たとえば学校に通う子どもたちは早朝に家を出て、朝7時に授業が始まり、昼ごろには終わります。暑さが厳しくなる前に帰宅して水浴びして体を冷やし、昼寝をして、午後に活動するとしても、暑さが和らぐ3時ごろから。

会社勤めの人も、昼は1時間きっちり休憩を取り、ご飯と水分補給をゆっくりして、オフィスで昼寝もします。

「そもそも、時間感覚は『ジャム・カレット(ゴム時間)』と言うぐらい、ゆったりしてます。バスに乗り遅れそうなときも、『待ってー』と呼びかけつつ、歩く。まちなかで走る人は見かけません」とユキさん。ゆったりすることこそが、暑さを生き延びる知恵なのかもしれません。

「日本の夏の知恵」も

日本では、暑い夏も働くペースが崩れないことに驚いたというユキさん。最近、Facebookで、日本で働くインドネシア人のこんな書き込みを見て、胸が痛くなったそうです。

《夏になってから週1のペースで気持ち悪くなって、体がしんどくなる。これは何だろう。働けなくなり、会社の人に申し訳ない》

「なぜこんなに暑いのに、日本では普通に働くのか……。残業もあるし、本当に大変」とユキさんは気遣います。


日本にも夏を乗り切る知恵がいろいろとあります。ユキさんは、日本で子育て中のインドネシア人には「麦茶」を勧めるそうです。インドネシアでも「お茶(テー)」がありますが、カフェインと砂糖がたっぷり入った激甘の紅茶が主流のため、「子どもに麦茶を飲ませるのが良い」と聞くと、最初は「カフェイン入りのお茶を子どもに飲ませるなんて!」と驚く人が多いそう。

麦茶はノンカフェインで、ミネラルもとれ、妊婦にとっても、子どもにとっても、熱中症予防に効果的だと教えているそうです。

日本の夏の知恵、麦茶
日本の夏の知恵、麦茶 出典: Getty Images

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