MENU CLOSE

WORLD

「殺すと言われたのは初めて」反移民デモを取材、カナダ人記者の思い

移民政策反対デモの様子を見ながら取材に応じるエィヴェリー・フェーンさん=2025年10月26日、東京都千代田区
移民政策反対デモの様子を見ながら取材に応じるエィヴェリー・フェーンさん=2025年10月26日、東京都千代田区

全国各地で10月末に開催された「移民政策反対」のデモ集会。「日中ハーフ」の筆者が東京のデモ現場を見に行くと、東京在住のカナダ人記者エィヴェリー・フェーンさん(44)と知り合いました。彼と現場を歩きながら、話を聞きました。(朝日新聞記者・小川尭洋)

【外国人排斥的な風潮をめぐる問題などについて、ニュースレターでも紹介しています。
こちら(https://asahi-writers.theletter.jp/)から、無料で登録できます】
 
エィヴェリー・フェーン(Avery Fane):1981年、カナダのモントリオール生まれ。剣道などをきっかけに日本文化に興味を持ち、16歳の時にひとりで来日し留学。高校・大学時代を日本で過ごす。カナダのビクトリア大を経て、立命館アジア太平洋大(大分)へ。卒業後、カナダのバンクーバーで映画俳優やプロデューサーとして、数多くの作品制作に携わる。カナダと日本の2拠点生活を10年ほど続け、2025年に在日英字ネットメディア「JAPAN TODAY」の記者に転身し、東京で取材活動を始めた

ぱっと見で怒号「私の何を…」

《デモ集会があったのは、10月26日(日)午後2時すぎ、永田町の自民党本部前。小雨が降るなか、数百人規模の人びとが歩道に並び、「移民はいらない!」「日本が壊される!」などと声を上げていました。エィヴェリーさんがその歩道を抜けて進もうとすると、彼らの視線が集まりました。一部の人はエィヴェリーさんのことを指しながら、「自分の国に帰れー!」「殺すぞ!」などと怒号と罵声が飛び交いました》

エィヴェリーさん:

今回、日本の移民政策反対デモの現場を初めて見に来ました。歩きながら動画を撮っていたのですが、改めて動画を確認すると、参加者たちが怒った顔をしながら目をかっと大きく開き、「こいつだ!」という感じで私の方を見ていますね。

恐怖を通り越して、怒りを感じました。これまでも、カナダやフランスなどでも反移民デモを注視してきましたが、こんな罵詈雑言は聞いたことがありませんでした。デモで怒りがわいたのは初めてです。彼らとは初対面で、まだ一度も話していない。ぱっと見ただけで怒鳴ってきて、「私の何をわかっているんだろうか?」と思いました。

海外メディアは、日本のデモについて「ルールとマナーを守り、秩序正しく、安全にやっている」とよく褒めています。しかし最近の外国人排斥的なデモの発言を聞くと、まったく「安全」ではありません。まわりの在日外国人の友人たちも私も、「日本の雰囲気が変わってきている」と心配しています。

私の日本在住歴は、計10年ほどです。今までも差別的な言葉を言われたことはありましたが、こんなにもダイレクトに「殺す」「帰れ」と言われたのは初めてです。以前は、そういう言葉は、ほとんどSNSや匿名掲示板でしか見なかった気がします。ここ最近は、現実社会での言葉も過激化しているように感じます。

移民政策反対デモの様子。自民党本部前から首相官邸前に移動し、夜まで続いた=2025年10月26日、東京都千代田区
移民政策反対デモの様子。自民党本部前から首相官邸前に移動し、夜まで続いた=2025年10月26日、東京都千代田区

「悪い人ではないと思いたいが」

《記者がエィヴェリーさんと話している途中、若いデモ参加者が声をかけてきました。私たちが「なぜ今回参加したのですか?」と聞くと、「外国人の犯罪が増えているから」と答えました。ただ、この発言は事実ではなく、法務省の犯罪白書によると、在日外国人の犯罪率は長期的に減少傾向にあります。私たちが彼にデータを示すと、彼は一瞬言葉に詰まり「数字の問題じゃないんですよ。怖いんです」とだけ話し、立ち去りました》

エィヴェリーさん:

誤情報を信じてしまっているんですよね。一部の過激な言動には怒りを感じる一方で、「デモ参加者全員が悪い人というわけじゃないよね」と思いたい自分もいます。彼らの言動は良くないけど、彼ら自身は、SNSなどの情報にだまされているという側面がある。

例えば、「移民政策反対」と叫ぶ一方で、日本の移民政策についてどのくらい知っているのでしょうか。今回、5人くらいのデモ参加者と話しました。「日本の移民政策のどの部分が良くないと思いますか?」と聞いたけれど、明確に答えてくれた人はいませんでした。

また、外国人と話すのが初めてだという人も多く、最初から「話したくない」とシャットアウトされてしまうこともありました。コミュニケーションがほとんどないまま、「嫌い」と言われても納得できないなあと感じます。

日本人の皆さんも生活で色々苦労をしていると思いますが、私も高校時代は日本の生活に慣れるのに苦労しました。そういう身の上話を話したうえで、質問してみたいんです。「出て行け、国に帰れって、そんなに私のことが嫌いですか?」ってね。

私が関わっている在日英字ネットメディア「JAPAN TODAY」も、そういう交流を後押しできればと思って活動しています。高市早苗首相の印象について在日外国人にインタビューしたり、クマ被害が増える地域の日本人の本音を聞いて回ったり。相互理解が深まった先で、街中で排斥的な言葉を聞かなくていい日が来ることを願っているのです。

埼玉でクマ被害の問題についてインタビューをするエィヴェリーさん(左)=JAPAN TODAY提供
埼玉でクマ被害の問題についてインタビューをするエィヴェリーさん(左)=JAPAN TODAY提供

エイヴェリーさんに、どんな言葉をかけたら…

「国に帰れ」「殺すぞ」。

「日中ハーフ」である筆者は、罵詈雑言が飛び交う歩道を歩きながら、「これは現実なのか」と疑いたくなるほどショックを受けました。

エイヴェリーさんは、剣道などの日本の伝統文化が好きで来日し、日本で長く暮らしてきました。彼にどんな言葉をかければいいのか。わかりませんでした。

エイヴェリーさんは「怒りを感じた」と語る一方で、デモ参加者に声をかけ続け、対話をあきらめようとはしませんでした。彼のインタビュー動画の多くは、一方的にマイクを向けるのではなく、インタビュー相手と横に並び、語り合っています。

「マジョリティー側」である日本人の私たちも、彼の姿勢から学べるものがあるはずです。いま、何に違和感を感じているのか、なぜ怒りがわいてくるのかーー。憎悪や怒りのぶつけ合いではなく、互いの言葉を丁寧につむいでいった先にこそ、希望があるのだとあらためて思います。

関連記事

PICKUP PR

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます