IT・科学
都知事選ポスターの掲示板1万4千カ所…立ちはだかったアナログの壁
東京都内の1万4千カ所の掲示板(掲示場)全てにポスターを貼る――。7月にあった都知事選で、新人候補がこの難題に挑みました。活用したのはデジタル地図。100%達成までの道のりには、いくつものアナログの壁が立ちはだかりました。
6月初旬、都知事選に立候補したAIエンジニアの安野貴博さん(33)のボランティアは、選挙管理委員会から渡された紙袋を見て絶句しました。
入っていたのは、ポスター掲示板の住所一覧。形式は紙。都内62市区町村、1万4千カ所の掲示場の紙の束の厚さは約10センチもありました。電子データはないのだろうか。選管に聞いたところ「紙でしかお渡しができない」という回答だったと言います。
候補者の認知度アップに有効なポスター貼り。政党に所属する候補者は、各地の議員や支援者の協力が得られますが、「地盤」がない新人は同じようにはいきません。
安野さんは「テクノロジーで誰も取り残さない東京へ」をスローガンに掲げて出馬。無所属の新人で、組織的な支援はありません。
ならば「テクノロジーで勝負を」と、陣営のボランティア、通称「チーム安野」が立ち上がりました。
行く手を阻んだのが紙の山です。これらを電子データにすれば、ポスター掲示板の位置の共有や、ポスター貼りの進み具合の管理がしやすくなります。
まずは紙一枚一枚をスキャンをして画像データに。画像にある住所などのテキストを生成AIを使って抽出し、Excelにまとめました。
データ化を担当した根本紘志さんは「自治体ごとに形式が異なっていたり、表記の揺れがあったり。地図を切り貼りしたような自治体の資料にはシビれました」と振り返ります。
次にテキスト化した住所を、より正確な位置を示す緯度・経度の座標に変換。グーグルマップのマイマップという機能を使って、各座標にピンを立てました。
これによって、地図上で掲示板の場所を確認できるようになりました。
この地図を頼りにボランティアがポスターを貼り、LINEで共有。その情報を受け取ったボランティアが、貼った掲示板がわかるように、その地点のピンの色を手動で変えていきました。
しかし、地図を見れば貼れるという単純な場所ばかりではありません。
同じ住所でも、「市役所北側」「市役所東側」など複数の掲示板があったり、ピンの位置のわずかな違いによって川のどちらの岸に掲示板があるのかがわからなかったり……。
そんな壁に直面しながらも、ポスターは予想を上回る速さで貼られていきました。
ポスター貼りに協力してくれた人は約260人。宝探しのように掲示板を探し、地図の色が変わっていく様を、ゲーム感覚で楽しむ人も多くいました。
選挙カーでポスターを運んだ小林修平さんは「一人で数百枚貼ってくれる人もおり、想定を超える盛り上がりがありました」と話します。
一方、貼り付けの報告を受けてからピンの色を変える作業が追いつかない事態に。
そこでプログラミングのスキルを持つ植田陽(みなみ)さんが、報告をほぼリアルタイムかつ自動で地図に反映できる、グーグルマイマップとは別の地図アプリケーションを開発。
自治体別の完了率や残数、地域ごとの進捗(しんちょく)が一目でわかるヒートマップを地図に載せるなど「協力してくださる方に楽しんでいただけるような工夫をしました」(植田さん)。
地図は元々陣営内で使う内輪のものでしたが、X(旧ツイッター)に地図のスクリーンショットが投稿されたことをきっかけにSNS上で注目が集まり、最終的にネット上に公開しました。
1万4千カ所にポスターを貼り終わって100%を達成したのは、投開票日前日。最後の1枚は新島で、ボランティアが船で行って貼りました。
【ポスター100%達成の瞬間】
— 安野たかひろ事務所【公式】@都知事選応援ありがとうございました (@annotakahiro24) July 6, 2024
本日朝、最後に残っていた1箇所、新島の掲示板に #安野たかひろ のポスターが張られました!
都庁前の演説会場と中継し、この奇跡の瞬間を皆さんと迎えることができました🎉
ボランティアの皆さんの力で約14,000箇所、ついに達成です!#TOKYOAI #都知事選 #東京都知事選 pic.twitter.com/D3RBQqzQV1
「チーム安野」では今後、他の選挙でも同じような地図を作れるように、地図作成に使ったプログラムのコードやノウハウを公開予定です。
また、アナログの壁にぶつかった経験を元に、ポスター掲示板データを整備する必要があると訴えています。
▽掲示板のデータを統一フォーマットにする
▽住所だけでなく緯度・経度も公開する
▽全国横断で掲示板の固有IDを割り当てる
そんなことを国や自治体に提案していきたいと考えています。
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