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〝ぽっちゃりモデル〟合計40kg減量後の今 ダイエット失敗の理由

記者も10年前この人のように“ぽっちゃりモデル”をしていた。※画像はイメージ
記者も10年前この人のように“ぽっちゃりモデル”をしていた。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

ダイエットをテーマに追いかける記者は、115kgの高度肥満だったころ、“ぽっちゃりモデル”として活動していました。現在までに45kg減量、体重や体型をこの数年維持しており、ダイエットに成功したと言えそうです。しかし、かつては何度もダイエットを試みては、失敗していました。その理由をこれまでの取材から、医学的な観点で振り返ります。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
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なぜ人はダイエットに失敗するか

体重が110kgを超え、趣味で“ぽっちゃりモデル”として活動していた2015年ごろのことです。私は身近な人から毎日のように「心配だからやせてほしい」と言われていました。

医学的に「ダイエット」が必要なのは、どのような人でしょうか。日本肥満学会が発行する『肥満症診療ガイドライン2022』では、「脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態」で、体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で計算される体格指数(BMI)が「25以上」を肥満と定義しています。

ちなみにBMIが25以上でも、ボディビルダーのように、脂肪の蓄積がなければ肥満ではありません。過度のダイエットは健康を害するため、注意が必要です。

私は身長175cmに対して体重が115kg(体脂肪率は35%ほど)でしたから、BMIは37.5。同ガイドラインでは高度肥満に該当します。

肥満は糖尿病や高血圧、脂質異常症、脂肪肝、高尿酸血症などたくさんの生活習慣病を引き起こし、心筋梗塞や脳卒中などの心・脳血管疾患やがん、認知症などを発症・増悪させるリスクです。肥満の人が体重を減らすことによって、このリスクを下げるメリットがあります。

2024年現在、私は体重72、3kg(体脂肪率は15%以下)なので、健康に近づいたと言えるでしょう。

当時、アドバイスに対して、口では「わかってるよ」と返していたものの、実際に継続してダイエットに取り組むことはできていませんでした。では、人がダイエットに失敗するのは、なぜなのでしょうか。

そもそも、医学的には、ダイエットの基本になるのは食事療法と運動療法です。肥満の主な原因は過食と運動不足なので、食べる量を減らし、動く量を増やすことで、摂取エネルギーと消費エネルギーのバランスを消費の方に傾けるように指導されます。※太りやすさには体質も関わり、肥満を伴う遺伝病もあります。

つまり、人がダイエットに失敗するのは、主に「過食と運動不足を解消できない」ことが理由になります。
 

肥満者の思考には「傾向」がある

“ぽっちゃりモデル”としてファッションショーに出演するなど、貴重な経験もして、自分の体型をある意味で「ネタ」にしていた当時の私。しかし、ここまでの肥満になると、健康診断では精密検査を勧められ、医療機関では「このままでは命にかかわる」と注意を受けるなど、事態が深刻であることも認識はしていました。

私は「過食と運動不足を解消」するべきだと思いながらも、それができていませんでした。この齟齬は何によって引き起こされるのでしょうか。実は「時間選好率」という言葉で説明することができます。

中央大学名誉教授の古郡鞆子さん・同大経済学部准教授の松浦司さんの『肥満と生活・健康・仕事の格差』(日本評論社)では、肥満者について「時間選好率が高い傾向があることが報告されている」として、以下の傾向を紹介しています。

※ただし、以下はあくまでも、たくさんの人を対象にした疫学研究からわかった「傾向」です。

<時間選好率が高いということは、今日食べたり、飲んだりして得られる満足度を、将来健康であることの満足度より高く感じてしまうことを指す>

肥満を経験したことのある人ほど、ハッとするのではないでしょうか。これは、未来の利益よりも目先の利益を優先してしまう傾向があるということです。つまり、当時の私にいくら「このままでは命にかかわる」と言っても、実効性に乏しい可能性があるのです。

当時、私は食べたり飲んだりもそうですが、自分の体型を「ネタ」にすることを“おいしい”、すなわちメリットがあると感じていました。それは、会食や飲み会の場が盛り上がったり、それこそ「ファッションショーに出演する」といったことができたりしたからです。

一方で、それにより失われる健康があることには、目をつぶっていました。周囲に「心配だからやせてほしい」と言われると、「わかってるよ」と言い返していましたが、これはウソでなく、減量の必要性は自分が一番よくわかっていたのです。

ここまで太ると、少し歩いただけで息切れして疲れてしまい、ましてや階段などもってのほか。喉が乾いて夜中に目が覚めたり、膝に痛みを感じたりすることもしばしばです。それでも、改善できなかったのは、やはり当時の私にとっての目先の利益を優先してしまったためでした。

ダイエットに悩む人が多いというのは、それだけ「太る」よりも「やせる」方が難しいということでもあります。時間選好率が高いというのは、難しいことの優先順位は下がりがちだということでもあり、人が一度、太るとやせにくいメカニズムの一つでもあります。
 

ダイエット失敗には社会の問題も

ダイエットが失敗する理由には、実は個人の傾向だけでなく、社会の問題もあります。ダイエットをするには生活の余裕が必要で、貧困や労働条件の面で余裕がない人は肥満になりやすいのです。

厚生労働省『国民健康・栄養調査』(2019)によれば、肥満者の割合は男性33.0%、女性22.3%であり、<この10年間でみると、女性では有意な増減はみられないが、男性では平成25年から令和元年の間に有意に増加している>とされています。

その背景にあるのが「健康格差」です。これは、性別や人種、地域や社会経済状況(所得・職業・学歴)によって健康状態や保健・医療にアクセスする状況が異なることを指す言葉です。

健康は本人の年齢や体質、行動の影響を受けますが、このうち特に「行動」の選択は、本人の周囲の環境に左右されることが、医学的に知られているのです。

社会経済状況のうち「所得」について、私の例で検討してみましょう。ぽっちゃりモデルをしていたころ、私は仕事のやりがいを重視し、新卒でベンチャー企業に勤務していたため、その給料は同世代の水準を下回る、いわゆる「相対的貧困」の状態にありました。

衣食住に事欠き命が危ぶまれる絶対的貧困に対して、衣食住は足りているが周囲に比べて貧困で、社会で当たり前とされている行動や消費ができにくい「ゆとり」のない状態が、一般的には相対的貧困と定義されます。

新潟県立大学人間生活学部教授の村山伸子さんが代表の研究によれば、年収が低いと主食が炭水化物中心に偏ること、腹囲やBMI、血糖値、中性脂肪値が高くなることが明らかになっています。

では、なぜ年収が低いと健康に影響があるのでしょうか。厚生労働省の研究会で発表された村山さんの資料『社会経済的要因と健康・食生活』では、所得の格差が不適切な食事の量と質や喫煙、多量飲酒や運動不足などのリスク行動につながり、病気に罹患したり、死亡したりすると説明されています。

私の場合も、現実問題として厳しい経済状況の中で会社と自分の成長というノルマを常に意識し、過重労働や長時間勤務をしていたストレスがあり、毎日のように深夜にラーメンを食べる行動、休日に運動をする余裕を失った状態につながっていました。

私のケースでは、何度かの転職を経て、経済状況が改善し、過重労働や長時間勤務が解消されたことで、「過食と運動不足を解消」できるようになったとみることもできます。

社会はもちろん、自分の生活環境を変えるのは、当然、難しいこと。私自身も、45kg減量するまでには、5年以上かかっています。ダイエットを成功させるためには、まず、ダイエットが失敗する理由に目を向ける必要があると言えます。その上で、日々の食事と運動習慣の改善にコツコツ取り組んでいくのがよさそうです。
 

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