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連載

#47 イーハトーブの空を見上げて

宵闇に舞う、さんさ踊り 着古した浴衣「裂き織り」に生まれ変わって

さんさ踊りを披露する人々
さんさ踊りを披露する人々
「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。
イーハトーブの空を見上げて

始まりは鬼退治祈願から

盛岡の夏は「さんさ踊り」を抜きには語れない。

6月上旬の「チャグチャグ馬コ」が終わるとすぐに、街中から練習の太鼓や笛の音が溢れ出す。

その昔、盛岡城下に鬼が現れ、困り果てた里人たちが、三ツ石神社の神様に鬼の退治を祈願した。

願いを聞き入れた神様は鬼をとらえ、二度と悪さをしないよう、誓いの証しとして境内の大きな三ツ石に鬼の手形を押させた。

これが「岩手」の由来であり、喜んだ里人たちが、三ツ石のまわりを「さんさ、さんさ」と踊ったことが、「さんさ踊り」の始まりとされる。

華やかさを際立たせる花笠

夏が近づくと、市内の太鼓店や花笠店は大忙しになる。

戦前から花笠を作り続けている肴町の老舗「花王堂本店」では、3代目代表の高橋雅子さん(80)と娘の木村和子さん(50)が、布と針金で真っ赤な花びらを作り、ボタンの花に似せた花笠へと組み上げる。

「花笠をかぶるとやはり華やかさが違う。作れる店は少なくなったが、技術をしっかりと若い世代に技術を引き継いでいきたい」と母娘が手を休めずに言う。

「サッコラ、チョイワヤッセ~」

 祭りの夜。幸福を呼び込む掛け声や軽快な太鼓の音に合わせ、浴衣姿の人々が北国の短い夏の宵闇に舞う。

昨年は4日間で197団体・延べ約2万3千人が参加し、全国から約114万人が訪れた。

参加した吉田優さん(51)は「とにかく楽しかった。若い人たちと一緒に踊れるのが最高」とうれしそうに笑う。

着古した浴衣からつくられる「裂き織り」

使い古した踊り浴衣は、障害者らが働く「幸呼来(さっこら)Japan」の手によって、新たな命が吹き込まれる。

着古した浴衣を寄付してもらい、糸状に裂いて織り上げる「裂き織り」。

裂き織りは江戸中期、寒冷な気候のため繊維製品が貴重だった東北で生まれたという説がある。

さんさの浴衣を裂いて織り上げた作品は「さんさ裂き織」と名付けられ、いまでは盛岡の代表するお土産品だ。

盛岡市の住宅地にある作業場に、ラジオの音に交じって「カタン、カタン」という機織りの音が響く。

団体名の「幸呼来」は、さんさ踊りの「サッコラ、チョイワヤッセ」の掛け声からとった。

「幸せは呼べばやってくる」という意味だ。

「あら、美しい布が織り上がっているじゃない」

「ありがとうございます!」

スタッフの声に障害のある織り手の声がうれしそうに応える。

それぞれ人が、それぞれの思いで参加する。

北東北を代表する素晴らしいお祭りである。

(2022年夏、2023年夏取材)

三浦英之:2000年に朝日新聞に入社後、宮城・南三陸駐在や福島・南相馬支局員として東日本大震災の取材を続ける。
書籍『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で開高健ノンフィクション賞、『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』で小学館ノンフィクション大賞、『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』で山本美香記念国際ジャーナリスト賞と新潮ドキュメント賞を受賞。
withnewsの連載「帰れない村(https://withnews.jp/articles/series/90/1)」 では2021 LINEジャーナリズム賞を受賞した
 

「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。

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