連載
#96 夜廻り猫
ひとり暮らしでぶつけた小指…やり場のない痛みだったけど 夜廻り猫
ひとり暮らしの男性が、たんすの角に小指をぶつけて悶絶していて――。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られる漫画家の深谷かほるさんが、SNSで発表してきた「夜廻り猫」。今回は、〝ひとり暮らし〟にまつわるエピソードです。
きょうも夜の街を回っていた猫の遠藤平蔵と、子猫の重郎。アパートからの涙の匂いに気づきました。
部屋では、ひとり暮らしの男性が「たんすの角に、足の小指、思い切りぶつけた……」と言って、やり場のない痛みに苦しんでいます。
「お気の毒に」と言いながら、遠藤も重郎も痛みが和らぐように、そばで祈ります。
しばらくすると、男性は「おさまってきた」とひと心地つきます。
「俺、ひとり暮らしが長くてさ 最後は孤独死の覚悟だけど、こんなささいなことを誰かに気にしてもらったの、何年ぶりだろう うれしいもんだね」
遠藤は「何の役にも立ってない」と謙遜しますが、男性は「そうかな?助けてもらった気がするよ」と言ってほほえむのでした。
作者の深谷さんは「人からもらった、忘れられない温情ってありますよね」と話します。
「ああ、気の毒に」「手伝うよ」「楽しかった」といった短い言葉だったり、心配してくれている表情だったり……。
「そういうものの多くは『お約束』という感じで発生することが多いですが、たまに期待もしていない時に、100%こちらへの思いやりだと感じられることがありました。ささやかでも、忘れたくない宝物です」
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