連載
#84 「きょうも回してる?」
〝廃棄カプセル〟動物や虫に変身! イベント券は即完売、人気の秘密
「うそ偽りない」本音
廃棄カプセルのリサイクルや、アップサイクルの方法は現在、各所で試行されています。工夫を凝らした取り組みが散見される中、「アート」との融合をはかろうとイベントの開催を重ねる企業があります。イベント参加者が得ているものとは――。ガチャガチャ評論家のおまつさんが取材しました。
ガチャガチャ業界では、毎月500以上の商品が発売され、目まぐるしく商品が入れ替わります。回転数が速い中、リサイクルの視点で見ていくと、メーカーは商品をカプセルに入れず、 工夫したカプセルレス商品を作ったり、サステナブルの面で新規参入のメーカーがカプセルを段ボールや紙製のカプセルを手がけたりしています。
業界大手のバンダイは2006年からガシャポンのカプセルの回収・リサイクルを実施しているほか、ガチャガチャ専門店もカプセルの回収ボックスを設置しています。このカプセルの回収率は年々上がっており、年間約30トン以上のカプセルが集まっています。このカプセルに着目したのが、カプセルアートです。
株式会社「懐中電灯」の共同代表、黒澤篤さんはカプセルアート事業を2022年に立ち上げました。カプセルアートとは、廃棄カプセルとアートを融合させた、誰もが平等に楽しめるアップサイクルアートです。
具体的には、カプセルを重ね合わせてネコをはじめ、ペンギン、イヌ、虫、カメなどの動物などを作っています。また子どもたちが書いた絵にカプセルを貼り付けるなど、カプセルアートは自由度が高く、「誰もがアートを楽しめることにこだわりがあり、作る際は、カプセルと、ほぼ100円ショップで揃うもので作れるようにしてるんです」(黒澤さん)。
使用後のカプセルを回収し、環境への負担を最小限にすることで、アップサイクルアートとしてカプセルに新たな価値を生み出しています。
このアートを通じて、黒澤さんは子どもをはじめ、障がいのある方や家族の介護などで子どもの頃からケアの担い手となっているヤングケアラーに、生きがいややりがいを発見してもらい、笑顔になってサステナブルを学べる居場所づくりを支援しています。
黒澤さんがカプセルアートを始めたきっかけは2021年。福祉事業のコンサルタントをしている際、市場調査で東京の秋葉原でガチャガチャ売り場に行ったそうです。
「ちょうどコロナ禍真っ只中で社会全体が暗い感じがしました。しかしガチャガチャ売り場には笑顔がありました。マスク越しでもニコニコしているのがわかります。コロナ禍でも人々に喜びを与えているガチャガチャに価値を感じました」(黒澤さん)。
その売り場では、業者に頼んでカプセルを有料で回収していることを聞き、黒澤さんはカプセルを分けてもらえないかと頼んだそう。「カプセルの素材はカラフルで、新しい。もちろん商品が大事ですが、カプセルがゴミになってしまうはもったいない。何かできないか」と思ったそうです。
また、黒澤さんはガイドヘルパー(移動介護従事者)をしています。そのときに担当している方を思い浮かべてこう思いました。「もしカプセルを使いアートができたら面白い」
まずは黒澤さん自身がカプセルを使って、作品を作りはじめました。紆余曲折しながらも、会社の人の賛同を得たカプセルアートが誕生しました。
初めてイベントを開催した場所は、都内に拠点を置く、一般社団法人ビーンズの放課後等デイサービス「豆庭」です。
初めての試みだったため、イベントが上手くいくか不安だったそうです。しかし、その不安は杞憂に終わります。
「誰もやったことがないイベントでドキドキでしたが、参加している子どもたちは笑顔で、楽しそうに色を自由につけて、何とも言えないカプセルアートが出来がりました」(黒澤さん)
その流れで次のイベント先を探したとき、横浜市ヤングケアラー支援事業などを行っている一般社団法人 Omoshiroとイベントを開催する機会ができました。
黒澤さんは「ヤングケアラーの子どもたちは複雑な事情を抱えていますが、カプセルアートをやってもらったら、めちゃめちゃ笑顔になり、すごい無邪気に楽しんでくれました。とにかく、みんな、すごいんです」と話します。
Omoshiro側から「こんなにも笑顔があふれ、楽しんでもらえると思わなかった」と言われたときに、黒澤さんは涙が出るほど満たされた感情になったそうです。
この二つのイベントを通じて、黒澤さんは「カプセルアートを通して、人が繋がるっていう体験ができると実感できたんです」と言います。またカプセルアートのイベントをする際に、黒澤さんは心掛けていることがあります。
「私達自身が楽しみ、ワクワクしないと、絶対に子どもたちに伝わりません。いつもハイテンションで楽しんでやっています(笑)」(黒澤さん)。
一方で、黒澤さんはカプセルアートのマネタイズの難しさに直面します。事業継続のためにも、収益を生み出すことが重要だからです。
しかし、二つのイベント後に、突然一つの問い合わせがきたそうです。商業施設のららぽーと名古屋みなとアクルスからイベントの依頼があったのです。 それが、カプセルアートのターニングポイントになりました。このイベントを機に、リサイクルやSDGsをテーマにして、商業施設でワークショップの開催が続き、今ではイベントの整理券を配布すると、速攻で完売するまでになりました。
カプセルアートは2022年からスタートして以来、福祉施設をはじめ、学童、地域施設を中心にサステナブルやアップサイクルなど、子どもたちが自発的に遊びながら学べるプログラムで展開し、2年間で39回開催し、述べ2500人がカプセルアートを体験することになりました。
黒澤さんに多くのイベントを開催できるモチベーションについて尋ねると、「毎回開催するたびに多くの気づきがあります。子どもたちは個性豊かで一生懸命にカプセルアートを作ります。私達は子どもたちを褒めまくります。子どもたちもすごい喜んでくれ、参加した親も『もう本当楽しかったです』と言われ、こんな面白いことないよねっていう繰り返しです」。
「そして、これ嘘偽りないですけど、子どもたちとカプセルアートを作っているときの空間、この空間が良すぎて、笑顔と楽しさでいっぱいになります」と教えてくれました。
今後のカプセルアートについて、黒澤さんは「『何か』で繋がるということが一番大事です。私達はカプセルアートで繋がることを大事にし、老若男女を問わず、いろいろな人と繋がっていくことを目指していきます。そのためにも、カプセルアートに賛同してくれる企業をたくさん作りたいですね。 カプセルアーティストに、一人でも多くの人になってもらいたい」と教えくれました。
黒澤さんのお話を聞く前は、ガチャガチャと福祉はなかなか結びつかないと思っていました。しかし、ガチャガチャと福祉は結びつくんだということに気づかされました。
カプセルアートは子どもたちを笑顔にしているだけではなく、黒澤さん自身も笑顔にさせていると感じます。なぜなら、黒澤さんがカプセルアートについて話しをしているとき、本当に楽しそうに、そしてワクワクしながら話している姿がとても印象的だったからです。カプセルアートを通じて黒澤さんの挑戦は続きます。
※カプセルアートは、株式会社「懐中電灯」の商標登録です。
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