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心からピアノが好きと思えるように…元HKT48の森保まどかさん
アイドル時代から、特技のピアノを生かして活躍していた元HKT48の森保まどかさん(26)。実は、十分な練習ができないなかで演奏することに葛藤もあったといいます。しかし卒業から3年、だんだんと「心から音楽やピアノが好き」と思えるようになっているそうです。どんな思いだったのか、話を聞きました。
4月に博多座(福岡市)と新歌舞伎座(大阪市)で上演された『新生!熱血ブラバン少女。』。
かつて強豪だったものの名指導者が突然去って低迷した高校吹奏楽部が、スポーツのメンタルコーチだが音楽は素人という男性をコーチに迎え、全日本吹奏楽コンクール出場を目指すというストーリー。この作品に森保さんも生徒役の一人として出演しました。
コーチ役を演じた博多華丸さんが座長を務め、浅野ゆう子さん、宇梶剛士さん、紅ゆずるさん、星野真里さんといった俳優陣が出演。
吹奏楽の強豪、精華女子高校(福岡市)吹奏楽部の現役部員が、随所で迫力ある、そして時に繊細な音色を披露し、劇を彩りました。
森保さんの役どころは、ピアノで芸大を目指していた生徒が吹奏楽部に誘われ、その魅力にひかれていくキャラクター。
ピアノをソロで披露する場面のほか、この劇のために新たにホルンを練習、精華女子の部員といっしょに演奏しました。
「ソロでピアノを弾くのとも、バンドに入ってキーボードを演奏するのとも違った音楽の楽しみを感じました。それぞれの楽器は一つ一つの音しか出せないのに、みんなで集まるとそれが逆にいい。単音が集まって一つのものを作り上げる、演奏に参加する一員になるというのがすごく嬉しかったです」
ホルンの練習は昨年12月から本格化。月2回のレッスンと自主練習を重ねました。
「最初は逃げたくなりましたが、徐々に楽に吹けるようになりました。その感覚が、ピアノを習得する時とまた違う。金管の場合は内臓を使って呼吸しているような感覚がある。不安の中で少しずつ自分の出来ることが増えていく感覚が好きでした」
精華女子のホルンを担当する部員とは次第に打ち解け、ホルンのことや、吹奏楽を描いた漫画やアニメの話題で盛り上がったそうです。
そんな精華女子の部員たちは、大会やコンクール、地元で5月に控えた博多どんたく港まつりのパレード出演に向けた練習と並行して、楽譜が届いてから劇の初日までの時間が限られるなか、演奏する曲も練習を重ねました。
森保さんはこう話します。「部員のみんなは、これまで出会ったことがないくらい、とても純粋で努力家でした。その姿に舞台を作る一員として、今一度頑張ろうと、刺激を受けました」
劇は4月28日に新歌舞伎座での大千秋楽を迎えましたが、森保さんは部員たちの吹奏楽に打ち込む姿に触発され、いつか彼女たちの吹奏楽と、ピアノでコラボレーションしてみたい。そんな願いを抱いています。
幼稚園の頃からピアノを習い始めたものの、「ピアノを人前で演奏することに楽しさを感じる」と思えるようになったのはそれほど前のことではありません。
小、中学校時代はコンクール出場に向けて、隣の市までレッスンに週数回通い、自宅でも夜遅くまで練習を重ねました。全国大会や国際コンクール(国内開催)での受賞歴もあります。
本人が知らないうちに父親がオーディションに応募したことで、2011年、中学2年でHKT48に加入し、環境は一変しますが、それまではピアノ漬けの毎日でした。
「放課後に友達と遊ぶといったことが全くなかったので、経験したかったなと、振り返って少し思う部分はあります。でもすべてピアノのために時間を使ったことによって、今とても自分が救われているので、その頃の自分に『ありがとう』って言ってあげたい」
HKT48加入後もコンサートのステージで演奏を披露したり、テレビ番組で、ピアノが特技の芸能人が優勝を目指して競うコーナーに何度も出演したりします。
そして、そのコーナーで優勝した「ごほうび」として、アルバムの制作が決定。2020年、松任谷正隆さんプロデュースでソロピアノアルバムは発売されます。
当時、AKB48グループ全体だと国内だけで300人以上のメンバーがしのぎを削っていた状況で、はた目には恵まれた環境に映りました。
ただ、本人は複雑だったといいます。
音楽大学を卒業したわけでも、プロのピアニストを志していたわけでもないのに、実力以上にPRされることへの引け目。アイドル活動が忙しく練習時間が十分とれないなか、期待を背負って演奏を披露することへの重圧……。
2021年4月、卒業を控えた森保さんに取材した際、彼女はこう話しています。
「いつの間にか暗譜ができなくなって怖くなった。そして、日常的にピアノを弾いている人たちとも比べられる。仕方ないのですが、その現実がすごく苦しかったです」
約10年間在籍したHKT48を卒業して、絶え間なく入る仕事や課題が常にあった環境は一変します。
「今の自分に必要なことを手繰り寄せていく感覚で、お仕事に向き合うようになりました」
趣味である音楽フェスやゲームを楽しむ自分の時間も大切にし、それを仕事にも生かせたらいいと思いつつ、俳優・タレントとして芸能活動を続けているそうです。
ピアノへの向き合い方も変わってきました。
「ピアノは趣味ではなく特技という感覚です。今までは意固地な部分もあり、ピアノが趣味ですごく好きっていう感じじゃないのに、という本心から、自らピアノの動画とか練習風景をSNSにあまりアップしていなかったんです」
「ですが、自分にとって切っても切り離せない、すごく大事なものだと再確認してからは、練習風景の動画を上げて、改めて、『ピアノの子』だと認識してもらう機会を作ったりするようになりました。誰にでもできるお仕事じゃない、自分のブランドとして大事にしたいです」
楽しさを認識したきっかけは、プロミュージシャンのバンドに、キーボードや電子ピアノの奏者として参加したことでした。
「OCEANS ex.KureiYuki's」。アーティストでプロデューサーのクレイ勇輝さんが結成した、総勢30人以上のクリエイター集団です。
バンドへの参加メンバーは時々で変わりながら、ソロやバンドで活躍しているミュージシャン、歌手が参加して2022年と23年に全国でツアーを行いました。
森保さんも22年夏のツアーと23年8月の福岡でのライブに参加しました。ゲストのボーカルも川崎鷹也さん、手越祐也さんら人気の歌手がステージごとに続々と登場しました。
「著名なゲストボーカルの方々の歌を支えることを経験したことで、自分に出来る音楽が変わりました。今までは『アイドルにしては上手だね』という見方をされていたのが、一人のキーボーディストとして見られ、意識も変わりました」
「少し自信がない部分もあったのですが、『まどかちゃんのピアノ本当にいいよ。クラシックでやってきた基礎があるし、ロックなメロディにピアノっぽい音色が加わることで、とても生きている』」とバンドの方が言って下さって。自分のバックボーンを生かしながら自由にやっていいんだと気づけました」
森保さんは、自分の意識にも変化を感じています。
「クラシックピアノの森保まどかみたいな像があったと思いますが、自分が好きな、バンドの中でドレスじゃなくてTシャツを着て演奏する機会に恵まれたことで、自分の中で弾けるものがありました」
弾けるとは?
「自由度が違う。ミスタッチが怒られないし、『コードの中で自由にやればいいよ』って。そういう環境がすごくやりやすかったです。そして、そういう姿をHKT48の後輩たちが応援してくれるのが嬉しくて。葛藤があったなかでも、自分の中でやりたいと思うことができたかもしれない、と気付きました」
そしてもう一つ、森保さんにとって、やりたいことつながる仕事を通じた出会いがありました。
YouTubeとケーブルTVで配信されているヤマハ音楽教室の番組「音楽ヒーロー・ヒロイン~『奏デンジャー』」のMCに就任。
若い音楽家を紹介したり、各地の音楽教室に通う子どもたちといっしょにピアノを演奏したり。
「小さい子たちが笑顔で楽しみながらピアノとか音楽に触れる現場を、ロケで何度か経験させてもらって、そこで、改めて認識したんです。自分はこういうことをやりたいんだ、と」
芸能界で音楽や演技の活動を続けつつ、30歳ぐらいになったら自分の経験を生かして子どもたちにピアノも教えていきたい。ぼんやりしていた将来が、像を結び始めています。
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