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「いい時期にアイドルやめたい」HKT森保さん語る卒業への思いと葛藤

卒業前に紆余曲折の10年を振り返る後編

2020年11月、HKT48の新劇場のお披露目公演のゲネプロ。森保まどかさんはメロンジュースなど激しい振り付けの曲にも出演した
2020年11月、HKT48の新劇場のお披露目公演のゲネプロ。森保まどかさんはメロンジュースなど激しい振り付けの曲にも出演した

目次

5月29日に福岡で卒業コンサートが予定されているHKT48の森保まどかさん(23)が、20歳だった2018年に卒業を強く意識した理由。それは、「いい時期にアイドルをやめてタレントとして頑張ってみたい」という思いが強まったからでした。

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森保さんにとっては最後の参加となるHKT48最新シングル「君とどこかへ行きたい」。JR九州が全面協力したMVでは、車掌役で登場した(C)Mercury
森保さんにとっては最後の参加となるHKT48最新シングル「君とどこかへ行きたい」。JR九州が全面協力したMVでは、車掌役で登場した(C)Mercury

卒業も頭に……起きたけが

HKT48で活動した約10年を振り返り、森保さんは「20歳の時が一番よかった」と語ります。

HKT48の初アルバム「092」のジャケットで、宮脇咲良さん(23=18年秋~21年4月、日韓合同グループIZ*ONEで活動)、指原莉乃さんに続く3番手のポジション。「これまでで一番いいポジをいただけて、自分の中ですごく大きかったです」。通信販売企業のCMに出演、福岡の百貨店の20周年記念の広告に起用され、福岡・天神の駅ビルに大型懸垂幕が掲げられました。

「20歳ぐらいの時はそれこそ、東京に行って、全国で頑張ってみようかな、というくらいの気合だったんです。そのために事務所にも入りたいと正直思っていました」
 
その願いは、具体化に向けた動きには至りませんでした。ひざを負傷してステージに立てなくなったのは、その年の秋のことでした。半月板に傷が入り、靱帯(じんたい)も痛めていました。「どうしよう、となって。けがをしたての時は卒業を深く考えるより、いまどうしよう、という感じでした」。

コンサートやフェスイベントで自分の本来のポジションに後輩メンバーが立つ。後輩の成長がHKTとしては良いことだと分かりつつも、つらくて見ていられなかった、と以前のインタビューで語っていました。

2019年4月、横浜スタジアムで開かれた指原莉乃さん卒業コンサート。膝のけがのため一部出演だったが、指原さん、松岡菜摘さんとユニット曲を披露した
2019年4月、横浜スタジアムで開かれた指原莉乃さん卒業コンサート。膝のけがのため一部出演だったが、指原さん、松岡菜摘さんとユニット曲を披露した

リハビリ中に注力できたピアノ活動

自分の存在価値って何だろうと落ち込む日々。支えとなったのはHKT48の同じチーム所属で、同時期に足を負傷していた朝長美桜さん(22)、深川舞子さん(21=ともに卒業)の存在でした。3人で苦しいリハビリに取り組みました。「同じ仲間の存在が大きかった。声をかけ、励まし合いました」

松任谷正隆さんを総合プロデューサーとして、ソロピアノアルバムの制作が動き出したのもこの時期でした。「そっちに思考がシフトしたというか。ピアノアルバムは自分じゃなきゃできないこと。それが控えていたので、心のバランスが取れたと思います」

ピアノアルバムの制作決定は15年にさかのぼります。同年10月に放送されたテレビ番組「芸能界特技王決定戦 TEPPEN」で優勝し、翌月、アルバムの制作決定がHKT48の尾崎充支配人(当時)から発表されました。ですが、プロジェクトに表だった進展がないまま、時間が過ぎていきました。

再び動き始める際も、「時間が経ちすぎていたので(運営関係者から)『どうしますか』と聞かれました。1日考えて、やっぱり1人のプロジェクトだし作品が残ると思い、決断しました。『やります、やりとげてから卒業します』というニュアンスでお伝えしました」

松任谷さんとの出会いは17年、審査員としてTEPPENに出演していたことがきっかけでした。プロデュースした理由を松任谷さんは昨年2月、ピアノアルバム発売を記念したFM福岡の公開収録イベントで、「優秀なレコード会社のディレクターの、『この子は本当に才能があるから』という言葉を信じた」と明かしています。

劇場やコンサートの活動が制約された分、空いた時間を、森保さんはピアノ練習に充てることができました。19年に入ると制作は加速、自分の出演がなかったHKT48のコンサート当日、上京してレコーディングしたことも。武部聡志、鳥山雄司、本間昭光、伊藤修平さんという、各分野で活躍する音楽家が楽曲プロデューサーを務めたアルバムは20年1月、発売されました。

TEPPENも自分のスタイルで

森保さんは収録された1曲に「Lotus」と言うタイトルを付けました。泥に根を張り、水面からすっと伸びた茎に、短い期間、燐とした花を咲かせる。そんな蓮が好きなことにちなんだものでした。

幾度ものTEPPEN出演をはじめ、森保さんは特技のピアノを生かした活動が大きな強みで、魅力に感じるファンも多くいます。

ただ、「完璧主義」だという本人としては、ずっと葛藤があったといいます。HKT48加入後は日常的にピアノに触れることができず、番組やコンサートで演奏する際にスケジュールの合間をぬって練習していました。

「いつの間にか楽譜の暗譜ができなくなって、怖くなりました。今年1月に出演したTEPPENで克服できたからよかったんですが、日常的に弾いている人たちと比べられる。仕方ないんですけど、そういう現実がすごく苦しかったです」。率直な胸の内を語ります。

「『バラエティー番組だからそこまで一生懸命練習しなくてもいい』とも言われるんですけど、一生懸命やらないとピアノは弾けない。しかも私は即興では弾けず、しっかり譜読みしないとできないので、結構苦しかったですね」

今年1月放送のTEPPENに向けては、いつも以上に練習しました。音大卒の人気ユーチューバー、ハラミちゃんをはじめ日常的にピアノを演奏している人たちが出演するなど、レベルが年々上がっていたこと。何より、最後の出演できちんとした演奏をしたいという意識がありました。

知人の協力で、安くピアノを借りて練習できる環境が得られたため、短期賃貸マンションに滞在、1カ月近く、集中できる環境に身を置きました。

「それまでの演奏の集大成にしたいという意識が強かったです。芸能界とかアイドルって単発でとらえることが必要だったり、重視されたりしがちです。TEPPENでも、面白いことを言ったり、印象に残ることをしたりすれば、その場ではインパクトがあるはず。けど、そうじゃなくていつもの自分のスタイルで、演奏はしっかりやって、というスタンスで終わりたい、という意識が勝ってしまうんです」。

森保さんはこう語ると、芸能界向きではないかもしれないですね、と少しおどけてみせました。

ZOOMを通じて、インタビューに答える森保さん=2021年4月
ZOOMを通じて、インタビューに答える森保さん=2021年4月

卒業後は「いろんな景色を見てみたい」

今回、松任谷さんや武部さんにも、森保さんは卒業を報告しました。松任谷さんは「10年お疲れ様でした、おめでとう、でいいのかな。そしてお疲れ様でした」。文章から優しさが伝わったそうです。武部さんからは「長い間お疲れ様でした。これから僕にできることがあれば、なんでも言ってくださいね。サポートしますよ」と返ってきたそうです。

卒業発表の際は「いろんな景色を見てみたい。様々な世界を経験してみたい」と語り、今後のことは未定だと語っていました。改めて尋ねてみました。

「正直な話、どこに住むかも決めていなくて。どうしようかな、とすごく悩んでいて。でも、音楽は趣味で続けるくらいがいいかなと思っています。これ以上のめりこんで、職業や仕事としてとらえると楽しめなくなってしまいそうで……。いま、音楽がすごく好きで、自分自身、ジャンルは違いますが楽しんでいます。でも、それすらも、そう捉えられなくなったら苦しいな、と」

新型コロナの感染拡大で、東京でのファンとのお話会が延期され、北九州市で今月29日に予定されている卒業コンサートが無事開催されるかどうか、やきもきしているファンも多いと思います。そんなファンは、森保さんにとってどんな存在だったのでしょうか。

「まどらー(ファンの愛称)のみなさんは、いつでも味方でいてくれて、私が落ちこんだ時とかに、頼ってしまう存在でした。私はあまりアイドル、アイドルしていなくて、エンタメとしてみなさんのことを楽しませることができたのかな、と振り返っているんですけど、そんな自分でも一生懸命、熱くついてきてくれて……。ちょっと変わっているんじゃないかな、と思います(笑)」

5月26日にKADOKAWAから発売されるフォトブックには、森保さんのエッセーも載っています。最後の「アイドル」という項目は、ファンの方へのメッセージになっているそうです。

*取材は4月30日、オンラインで行われました。

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