ネットの話題
美術館から〝美〟が消えた…「これぞ現代アート」大事件のオチに拍手
美術館の看板から〝美〟がなくなってしまった――。美術館としては致命的ともいえる〝大事件〟に、館長が立ち上がりました。そして結果的には、ユーモアのある商品開発にまでつながってしまったのです。SNSで話題になった〝大事件〟の経緯を取材しました。
先日、SNS上で話題になったのは、青森県の八戸市美術館に関する投稿です。3月に看板の「美」の文字が行方不明になったというものです。
「前回訪問したときはスチレンボードで応急処置されていた。今回再訪したら、そのときの『美』が展示され、さらに『美』制作キットが販売されていた。笑」
八戸市美術館では3月に看板の「美」の文字が行方不明になり、前回訪問したときはスチレンボードで応急処置されていた。今回再訪したら、そのときの「美」が展示され、さらに「美」制作キットが販売されていた。笑 pic.twitter.com/Wb7eAsTLyK
— 平野智紀@鑑賞のファシリテーション (@tomokihirano) June 4, 2024
この投稿には2.4万のいいねと、「なんでなくなった?美泥棒?」「素敵なアイデア」「センスいい」「これをネタとしてアートにしてしまう美術館さすが」「これぞ現代アート」といったコメントも付きました。
投稿したのは公立はこだて未来大学の平野智紀さん(@tomokihirano)。今年のGWと6月に入ってからの2度、八戸市美術館を訪問したそうです。
「GWに訪れた時、『美』が行方不明なことはすでにネットニュースで知っていたので、実際に見てみたいと思っていました。そうすると、スチレンボードで処置されていたんです。知っていたからすぐに気づきましたが、遠目には気づかない来館者もいたかもしれないです」と話してくれました。
八戸市美術館へ、「美」の行方不明事件について聞きました。
3月11日夜、警備員が巡回中に「八戸市美術館」の看板から「美」の文字が無くなっていることに気づきました。翌朝、スタッフが出勤した際、警備員から報告を受けたといいます。
「美」が行方不明という美術館としては致命的な大事件。美術館の企画運営グループの担当者は「事故やいたずら、様々な可能性があるので、警察に被害届は出しながらも、まずは様子を見ることとしました」と話します。
この時はまだ、2月末に降った大雪がとけずに残っていて、雪の中も探したそうですが、発見に至りませんでした。
有力な手がかりもないまま、望みをかけて雪解けを待つも、結局「美」が見つかったり、戻ってきたりすることはなかったそうです。
この事態に立ち上がったのが、日本大学理工学部建築学科の教授であり、一級建築士でもある佐藤慎也館長でした。4月に突如、館長から「美の文字を印刷するように」と指示があったといいます。
館長はものの30分で、その印刷した文字を型紙として使って、アトリエにあった発泡スチレンボードから「美」の文字を切り出したそうです。
館長はスチレンボードで模型を作ることには慣れていて、スタッフ一同、出来上がりを見て、「さすが作り慣れているな」「実物と遜色なし」と感じたといいます。
応急処置ではありますが、これでようやく失われた「美」が戻ってきました。
ただ、担当者は「『美』が無いことは、他の字が無くなるより影響が大きく、早めに復旧したいと考え、元のものと同様のステンレス製の銘板を急ぎ注文していました」と話します。できあがったタイミングで、5月15日に業者に取り付けてもらったといいます。
現在、八戸市美術館では、美術館の「美」を守った館長への感謝と、風雨に屈しなかったスチレンボードの耐久性に敬意を表し、「館長の『美』」を展示しています。
さらには、館長がつくった「美」文字を制作できるキットも販売し始めました。
キットには、スチレンボードが入っています。同梱している「美」の文字をボードに貼り、文字に合わせてカッターで切り出し、好きな色で着色できるというもの。15cm四方の実物大だそうです。
数量限定で売り出していて、5月18日から販売開始して、現在で30個ほど売れているといいます。
担当者は「館長が作った『美』を展示し、その横で制作キットが売っていたら面白いなと考えました。『美』が行方不明になったことが、結果としてはみなさんが面白がってくれているのでよかったです」と話しています。
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