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連載

#39 イーハトーブの空を見上げて

4時間半の行列、乗っていた子どもはウトウト…「チャグチャグ馬コ」

チャグチャグ馬コの参加者ら
チャグチャグ馬コの参加者ら
「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。
イーハトーブの空を見上げて

60頭の馬たちが街を練り歩く

春の青森から戻ると、盛岡はもう初夏を迎えていた。

夏の訪れを告げる伝統行事「チャグチャグ馬コ」。

色とりどりの装束にたくさんの鈴を着けた約60頭の馬たちが、その背に小さな子どもたちを乗せて、新緑の盛岡の街を練り歩く。

農耕馬をねぎらい無病息災を願う行事として、約200年前から始まったとされる。

2022年6月にはコロナ禍の中断で3年ぶりの開催とあって、私もアパートにほど近い八幡町の商店街に見物に出掛けた。

感謝の気持ちを伝えるプラカード

老舗青果店「やおや ささき」の店先では、黄色い紙に赤や緑、黒の文字で書かれた6枚のプラカードが軽やかに揺れていた。

〈待ってました 3年ぶり〉

〈響け鈴の音 笑顔も一緒〉

中には〈馬っコ がんばれ! 人参(にんじん)待ってるよ〉というメッセージもあり、周囲で笑い声が起きていた。

「コロナ禍なんで『あんまり騒ぐな』と言われたんだけれども」と店主の佐々木雄一さん(73)が苦笑する。

「せめて感謝の気持ちを馬や乗っている子どもに伝えたくてさ」

午前2時に早起きして作り、町内会長や商店主らに掲げてもらっているのだという。

先代が青果店を開いて60年以上。

かつて町に10軒以上あった青果店も、今では佐々木さんの店だけになってしまった。

「最初はニンジンを2本ずつみんなに持たせて振ったらいいと思ったのですが、『馬が暴れるぞ』と注意されたので、(行列が到着する)盛岡八幡宮であげることにしました」

4時間半の行列、乗り手の子どもたちは…

チャグチャグ馬コの行列が滝沢市内の神社を出発して約4時間半。

ようやく八幡町の商店街にさしかかる頃には、馬上の子どもたちは皆、疲れ果てて鞍の上でウトウトしまう。

「それが最高に可愛くて可愛くて、みんなで大きな拍手をするんです」

プラカード掲げる佐々木さんが心からうれしそうに笑う。

(2022年6月取材)

三浦英之:2000年に朝日新聞に入社後、宮城・南三陸駐在や福島・南相馬支局員として東日本大震災の取材を続ける。
書籍『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で開高健ノンフィクション賞、『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』で小学館ノンフィクション大賞、『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』で山本美香記念国際ジャーナリスト賞と新潮ドキュメント賞を受賞。
withnewsの連載「帰れない村(https://withnews.jp/articles/series/90/1)」 では2021 LINEジャーナリズム賞を受賞した
 

「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。

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