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ネットの話題

「こういったものは会社のXで」公式が社長の〝裏アカ〟ばらしたワケ

〝愛〟で身バレ「社長ですね?」

溶接の投稿が、社長の〝身バレ〟の決め手になりました
溶接の投稿が、社長の〝身バレ〟の決め手になりました

目次

「こういったものは…できれば会社のXでUPしていただきたいのですが…」と、会社の公式アカウントで〝裏アカ〟を公開されてしまい、社長が〝身バレ〟……。そんな投稿が、Xで話題になっています。どんな事情があったのか聞きました。

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「広報に叱られる社長さん」

話題になったのは、静岡県にある井出化工機(@idekakouki2004)の会社公式アカウントのX投稿です。


《あの…すみません…こういったものは…
できれば会社のXでUPしていただきたいのですが…》

そうして引用されたのは「最強Tig兄ィィィ(@tigniii)」というアカウントが、Xで投稿していたパイプの溶接の画像です。溶接関係者と思われる人たちから「美しすぎて芸術品みたいです!」「こんなにかっこいいビード、見た事ない」などと称賛され、5000件以上のいいねがついています。

この投稿を引用した井出化工機の会社公式は、こう文章を続けました。
《ちなみに弊社の社長です。こちらもよろしくお願いします》

なんと、「最強Tig兄ィィィ(@tigniii)」は社長でした。

この〝身バレ〟に、「会社広報公式さんに叱られる社長さん…(笑)」「社員が言われてるのかと思ったら社長が言われてて草」「控えめな社長さんの会社は推せる!」などのコメントがつき、4万件以上のいいねがつきました。

「これ社長じゃん!」

なぜ〝身バレ〟したのか。井出化工機に問い合わせると、SNS担当者と社長が、ことの経緯を話してくれました。

井出化工機は、配管の内側まで滑らかに溶接する「裏波溶接」が得意で、衛生面が重要な飲料水や赤ちゃん用品をつくる工場の配管などを担っています。社長・作業員・営業兼SNS担当の3人という小所帯の会社で、「最強Tig兄ィィィ」こと、社長の井出雄太さんも毎日、現場に立っているそうです。


そんな井出社長が〝裏アカ〟を作ったのは、会社の公式アカウントが設立された昨年4月の直後でした。営業担当者から会社のアカウントを作ると報告された井出社長が「対・会社の気持ち」でこっそり匿名のアカウントを作り、日々、溶接の画像などを「暇つぶし」で投稿していたそうです。

その頃、入社6年で〝会社公式〟のSNS担当になった営業の女性社員は、試行錯誤していました。「フォロワー1000人」を目標に掲げて、少しでも「いいね」が増えるよう、毎日投稿してみたり、風景も投稿してみたり。

そんなある日、SNS担当者は、Xのタイムラインに流れてきたある画像に目を見張りました。

溶接したパイプの写真。その溶接を見て、はっとしました。「これ社長じゃん!」

一目で分かったのには理由がありました。「こんなきれいな溶接、社長しか見たことない!」

「これ社長ですね?」

SNS担当者は、溶接は未経験でした。しかし、社長の仕事をずっと間近で見てきました。

「溶接歴28年」の社長は、配管をぐるりと一周、手作業で継ぎ目なく溶接します。その溶接の表面には、半月型のような波模様が一定のリズムで現れるのです。本来なら、呼吸一つ、手の震え一つで、乱れてしまう波模様。

波模様が示す〝きれいな溶接〟には、いちいち細かくは言わない社長の熟練の技とこだわりが詰まっていました。

SNS担当者はこの1年、「材料も商品も『赤ちゃん』のように大事にする社長の溶接を、もっと多くの人に見てもらいたい」と思って、会社の公式Xを続けていたのでした。それなのに…。

「最強Tig兄ィィィ」のアカウントをパトロールしながらSNS担当者は、あきれて笑ってしまいます。「やっぱりきれいだなぁ」

そして社長を問い詰めました。「これ、そうですよね? これ社長ですね?」

「一つ聞いてもいいですか」

社長の裏アカでの投稿は、悔しいことに会社公式よりも多くの人が見ていました。うらやましくなったSNS担当者は、社長に直談判しました。「こういうのは会社の方で出してください」。気圧された社長は、「どうせ見る人もいないだろうから、いいよ」と、あの話題になった投稿の「引用」を認めたそうです。

SNS担当者が、「今後は会社の方でやってほしいな」との願いを込めて投稿した〝身バレ〟ポスト。その反響は予想外のものでした。わずか1日で、フォロワーは倍以上に。溶接に関心がなかった人まで、投稿からにじみ出る社員と社長の和気あいあいとした雰囲気に好感を持ち、目標の「1000フォロワー」をあっという間に達成してしまいした。SNS担当者は「とにかく驚いています」「全然、バズらせるつもりもなかったんで…」。

井出社長は「今回は、誤爆みたいな形になっちゃったんで……」と恐縮しつつ、「溶接って地味じゃないですか。やりたがる人も少ないのかなって思ってたんで……。興味が沸いた人がいてくれたようで、うれしかったです」と話します。

そして井出社長は「一つ聞いてもいいですか」と、反対に記者に質問しました。「4万ハート? いいね? って、なかなか起きないことなんですか?」

まだ「バズってる」ことにピンと来てない様子です。

〝裏アカ〟は継続?

身バレした裏アカは、これから、どうするのでしょうか。

井出社長は「んーーーー。どうしたらいいんですかね…」「公式よりも気楽で…」と煮え切らない返事。

SNS担当者は「個人のアカウントも、やめずに続けると思うので」と諦めた様子で笑い、「会社の方で引き続き、リツイートしていこうと思います」と話しました。

取材後、「最強Tig兄ィィィ」は、アカウント名を「最強Tig兄ィィィ(社長)公式」と変更していました。「会社公式」とのやりとりは、これからも続きそうです。

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