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ネットの話題

夜だけ現れる〝パンを焼かない〟パン屋さん 「ニッチな仕事でも…」

「全国に広がって」SNSでも反響

東京の夜に現れる「夜のパン屋さん」
東京の夜に現れる「夜のパン屋さん」

目次

パンは焼かず、ほかのパン屋さんからその日売れなかったパンを引き取って、夜だけ営業する。そんな「夜のパン屋さん」が東京にあります。3年前、フードロスの削減とホームレスの人たちの「仕事づくり」として始まった試みは、SNSでも「全国に広がってほしい」と話題になりました。

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「すごく助かります」

「いらっしゃいませー。フードロスをなくす『夜のパン屋』です」
「夜だけやってる、『夜のパン屋』です」

冷たい風が吹き、吐く息が白い2月下旬の夕方5時半ごろ。東京・JR田町駅近くのビル脇に、「夜のパン屋さん」が現れました。

仕事帰りの人々が足早に駅へ向かうなか、女性客やベビーカーを押す男性客が足を止めます。

「どれもみんなおいしそうだね。いつもやってるの?」
「水・木で5時半からやっています」

足を止めた高齢の女性に、男性スタッフが答えました。

2月下旬、東京・田町の夜に現れた「夜のパン屋さん」
2月下旬、東京・田町の夜に現れた「夜のパン屋さん」

この日、店頭に並んだのは、吉祥寺や白金高輪、江古田など8店舗から届いた商品計87セット。入荷するパンの種類はその日次第です。仕事帰りや残業中の会社員、地元の人々が購入していきました。

午後6時ごろにやってきた田町で働く30代の女性は、「会社の人から『たまに売ってるよ』と聞いて気になっていました。夜はパン屋さんが開いていないのですごく助かりますね。明日の朝ご飯にできるので。食べるのが楽しみです」と話します。

およそ3時間の営業で、すべてのパンが売り切れました。

2月下旬、東京・田町で販売されたパン
2月下旬、東京・田町で販売されたパン

各地のパンが集まる「夜のパン屋さん」

「夜のパン屋さん」は2020年10月16日の「世界食糧デー」にホームレスの自立支援に取り組むビッグイシュー日本が始め、2024年1月から認定NPO法人ビッグイシュー基金が運営しています。

ビッグイシュー日本は、ホームレスの人たちが同社発行の雑誌「ビッグイシュー日本版」を販売し、売り上げの半分ほどを収入として得られる仕組みを作っています。2023年、創刊20周年を迎えました。

「夜のパン屋さん」の発起人であり、認定NPO法人ビッグイシュー基金の共同代表である料理研究家の枝元なほみさんは、「前々から食べ物関係で何かできないかと考えていました」と話します。

そんななか、北海道で複数の店舗で売れ残ったパンを夜に一つの店舗に集めて売るパン屋さんを知り、「フードロスをなくし、仕事をつくる」参考にしたそうです。

「ビッグイシューはいろんなところで販売しているので、近所のパン屋さんで残ったパンを集めてくるということができないかと考えました」

協力してくれるパン屋さんを探すため、枝元さんらスタッフが「飛び込み」で店舗を回ったといいます。

2月下旬、東京・田町で販売されたパン
2月下旬、東京・田町で販売されたパン

現在、東京や北海道、京都、静岡などの約30店からパンが届きます。何が並ぶかは、その日の〝仕入れ〟次第です。

場所は田町のほか、神楽坂と大手町の都内3カ所で営業しています。オープンする曜日や時間は場所によって異なり、客層も様々です。出店場所も「夜のパン屋さん」の取り組みに賛同してくれた管理会社だといいます。

利益は難しくても「誇り」

お店でその日残ったパンを引き取りますが、売値はパン屋さんに決めてもらいます。1個で売るのではなく、数個セットで袋詰めにして販売。売れた数の半額をパン屋さんに支払い、残りは人件費や交通費、諸経費に充てられます。

フードロス対策や「仕事づくり」が目的のため、夜のパン屋さんの営業時間内に売れなかったとしても割引はしません。基本的には売り切りますが、売れなかったパンはお店からの寄付として子ども食堂などに提供するそうです。

「利益はなかなか難しいですね」と枝元さん。しかし、「仕事をつくることができているため、誇りを持っています」と胸をはります。

2月下旬、東京・田町で販売されたパン
2月下旬、東京・田町で販売されたパン

長年料理の仕事をしてきた枝元さんは、食べ物が大量に残り、捨てられる様子を見てきました。

「みなさんが少しでも安く買うためには大量に作らないといけません。でも、それには大量廃棄もついてきます。『利益を上げるために残ったら捨てる』ことは間違っていると思いました」

「『夜のパン屋さん』は利益は少なくても、食べ物の〝いのち〟を全うさせることができます。仕事として確立するためには利益を考えないといけませんが、まっすぐな気持ちでいられるところがいいなぁと思うんです」

「全国に広がってほしいなぁ」

今年1月には、この「夜のパン屋さん」の投稿がSNSで話題になりました。

投稿には「素敵な取り組み」「全国に広がってほしいなぁ」「この仕事してみたい」といったコメントが寄せられ、5万近い「いいね」がつきました。

ホームレスの人の仕事をつくる目的で始まりましたが、仕事を失い困窮する人や学生など、現在のスタッフのバックグラウンドは様々です。

初期から働くスタッフの一人でビッグイシューの販売員でもある浜岡哲平さん(45)は数年前、ホームレスだった時期がありました。ビッグイシューの販売を始めてから家を借り、「夜のパン屋さん」の仕事もするようになったといいます。

「いろんな場所のパン屋さんのパンを食べてもらえるし、僕らの仕事にもつながっている。僕は働くことが好きですし、ここではお客さんやスタッフと話せて楽しいですね。常連さんもたくさんいます」

2月下旬、東京・田町で販売されたパン
2月下旬、東京・田町で販売されたパン

発案者の枝元さんは、今後について「社会にとってどのようなことがいいか、利益を優先するだけではないやり方を探っていきたい」と話します。

「『夜のパン屋さん』はニッチな仕事だと思いますが、『それもいいね』と思っていけることを仕掛けていきたいです」

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