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ウクライナ侵攻に衝撃…絵本作家、最後の1ページに込めた「願い」

死と憎しみが日々の空気を侵食してゆくなかで……

「子どもの十字軍」(ひだまり舎)
「子どもの十字軍」(ひだまり舎)

目次

ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、絵本作家、はらだたけひでさん(70)が絵本を出版しました。ドイツの著名な劇作家・詩人のブレヒトの詩「子どもの十字軍」をもとにしたものです。ウクライナ、ガザ、シリア、ミャンマー…現在進行形の世界情勢に思うこととは。

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食い入るように読んだ詩「自分に何ができるのか」

2022年に閉館となった東京・神保町の岩波ホールに長年勤め、世界の名作を上映するとともに、ジョージア映画祭を企画するなどの活動に尽力してきたはらださん。

22年2月24日、ロシアのウクライナ侵攻に大きな衝撃を受けたといいます。「戦争という巨大な暴力に対して、表現者として自分に何かできるのか」と自問を繰り返していたといいます。

そんなある日、部屋の本棚から何げなく手にとったのが、ブレヒトの詩や短編を収めた「暦物語」でした。そのなかの「子どもの十字軍」を改めて食い入るように読んだ、とのこと。「子どもの十字軍」は、第2次世界大戦下、平和な土地を探し求めてさまよう子どもたちを書いた詩です。

「報道されている過酷な境遇に置かれた戦場の子どもたちの姿が、この叙事詩に重なっていきました」と振り返ります。

「子どもの十字軍」の原画展を開いた、はらだたけひでさん=2月末、東京都内
「子どもの十字軍」の原画展を開いた、はらだたけひでさん=2月末、東京都内

「読者のやさしい思いで子どもを包んで」

「子どもの十字軍」には、1939年のポーランドで、戦乱で居場所を失った子どもたちが、平和な土地を求めてさまよう姿がつづられています。「戦争の真実が込められ、普遍がある」とはらださん。けれど、過去に出版された本はほとんど絶版になっていました。「この詩を未来へ語り継がなければ」との思いを募らせ、22年の春、詩にあわせて絵を描き始めました。

淡い色合いが特徴的な絵本には、切り絵によって描き出される多くの子どもたちが登場しますが、その顔は描かれず、シルエットが中心です。誰もが自身を重ねられるような抽象的で普遍的なイメージになっています。

はらださんは「読者それぞれに受け取り方が違う。戦争の悲惨さは詩で十分想像できるから、読者のやさしい思いで子どもたちを包んでほしい、という願いを絵に込めました」と語ります。

つらいニュースにめげてはいけない

「子どもの十字軍」は、子どもたちの悲惨な運命とともに締めくくられますが、「どうしてもそこで終わらせられなかった」と、はらださん。そして、「子どもたちをもっと明るい世界に」という「願い」を、ウクライナカラーを意識した最終ページに込めた、といいます。

「死と憎しみが日々の空気を侵食してゆくなかで、私たちは『記憶』とともに希望や憧れを語り続けなければならないと考えています。たとえそれがほのかな明かりにすぎなくても」

「子どもの十字軍」(ひだまり舎)
「子どもの十字軍」(ひだまり舎)

今回出版された絵本の表紙には、広島市の「原爆の子の像」に捧げられた折り紙をよみがえらせた再生紙「平和おりひめ」が使われています。

時代を超えてブレヒトの詩を現代につないだはらださん。さらに未来への希望を語ります。「戦争のない世界を求めて子どもたちが旅をしていますが、この中に大人の私たちもいると思います。つらいニュースにめげてはいけない。平和な世界を信じて、美しい夢を大切に、心にほほえみを絶やさないよう、生きていかなければ、と思います」

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