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「いうほど一升瓶って装備したいか?」なぜか売り切れ日本酒ホルダー
開発のきっかけは〝ブラフマン〟への愛
「最近やたら売れるのだが…」と日本酒メーカーの社長がXに投稿した酒グッズの画像に注目が集まりました。そこには、大きな一升瓶をスタイリッシュなストラップで背負う姿が。なぜか即完売するという、謎の日本酒グッズの「開発者」を探しました。
《最近やたら一升瓶ホルダーが売れるのだが…
いうほど一升瓶って装備したいか?》
戸惑いがあふれた文面。添付された画像には、オレンジのストラップで何かを提げた後ろ姿。一見すると、ショルダーバッグのようなおしゃれさですが、背負っているのは確かに「酒瓶」です。
この投稿には「かっこよwww」「めっっっっっちゃ装備したいっすねこれ!」「花見シーズンだからですかね?」「山車をひくとき、青年部壮年部に酒を振る舞うのに良さそう」などの反響があり、5万超の「いいね」がつきました。
最近やたら一升瓶ホルダーが売れるのだが・・・
— 秋田『まんさくの花』醸造元 日の丸醸造株式会社 (@mansakusake) April 3, 2024
いうほど一升瓶って装備したいか? pic.twitter.com/jkOprUXU2S
いったい「日本酒ホルダー」とは、なんなのか。
「オリジナル一升瓶ホルダー」も売り切れています。
酒を「装備」したい人の多さに驚かされます。
いったいどんな発想で、日本酒ホルダーは生まれたのでしょうか。
製造元である静岡県の「本橋テープ」に問い合わせ、この日本酒ホルダーの生みの親、大石卓哉さん(営業グループサブマネジャー)にお話を伺いました。
もともとは、かばんのショルダーテープやヘルメットのあごひもなどの「細幅(ほそはば)織物」を製造している会社ですが、2000年ごろから「何か会社で完成品を作ろう」と試行錯誤していました。
その流れで生まれたのか、と思いきや、大石さんは「いや、違うんです」。「私が大好きな『鬼』がいてですね…」と熱く語り出しました。
「鬼」とは、ハードコア・パンクバンド「BRAHMAN」のボーカル、TOSHI-LOW(としろう)さんの愛称でした。
熱烈なファンだという大石さんは、TOSHI-LOWさん率いるアコースティック・バンドOAUがオーガナイザーを務めるフェス「New Acoustic Camp」からスピンアウトした「ACO CHiLL CAMP(アコチル)」が静岡で開催されることになってから、毎回、本橋テープとして出店しつつ、酒が大好きなTOSHI-LOWさんに地元の酒を差し入れるのを恒例にしていました。
ところが、ある年、会場で一升瓶を手渡した時に、TOSHI-LOWさんの顔が、一瞬曇ったことに大石さんは気づいたと言います。
「何がTOSHI-LOWさんを困らせたんだろう」。そこから一年、「考えて考えて考えた」という大石さん。
思い出すのは会場で、TOSHI-LOWさんがファンに求められたら快く握手に応じ、子どもたちにはステッカーを配り歩く、「ファンサ」する姿。日本酒を持っていたら、ファンサしづらいのかもしれない。
「……だったら背負えばいいじゃないか!」
「一升瓶」「ストレスフリー」「ファンサ」をテーマに、一升瓶をプレゼントしても「手ぶら」になれるホルダーを、自社の細幅織物で作ろうと思いついたそうです。
同僚に手書きの「日本酒ホルダー」のイメージ図を渡して、縫ってもらいました。
完成した品を見ても、社員たちは「何これ?」と解せない様子でしたが、「たった一人のことだけを考えて作った」大石さんは気にしません。
2018年のアコチルで、できたてほやほやのホルダーとともに酒をTOSHI-LOWさんに渡すと、「ばかやろう」と大喜びしてくれました。
ステージ上に、ギターではなく酒を背負って出て「間違えた」というパフォーマンスもしてくれたそう。
大石さんは、こう振り返ります。
「酒を背負ったTOSHI-LOWさんの姿は、まさに『鬼に金棒』でした」
「たった一人のためのプレゼント」でしたが、その後、無事に自社商品になりました。卸していたアウトドアショップがSNSに投稿したところ、バズります。
この投稿を目にした「日の丸醸造」の佐藤公治代表取締役社長は「これだ!」と飛びつきました。
普段から「日本酒は一定の層にはご支持頂けるけど、SNSユーザーの中には見たことも飲んだこともない人がたくさんいるんだよなぁ」と、アプローチの仕方を模索していました。
「枠を飛び越えて日本酒を届ける」ための光を、バズる「一升瓶ホルダー」に見いだしました。
酒屋の前掛けをイメージしたオレンジ色で作ってもらったオリジナルホルダー四合瓶(720㎖)、一升瓶(1800㎖)用は、2021年にネットショップで発売後、たびたびSNSで話題になるようになりました。そして、今回も30個ずつ仕入れたものが、30分で完売する人気でした。
佐藤社長のおすすめは、「やっぱり一升瓶用ですね。瓶の圧を感じます」。
酒蔵らしく「お酒は太陽の光に当てると劣化するので、長時間ぶらさげるのは薦めません」としつつ、「お花見、バーべキューで、ヒーローになって頂きたい。できれば『まんさくの花』を入れて」と話しました。
追加発注をかけており、5月に再販予定だそうです。
日本酒ホルダーの生みの親、大石さんは、ここまでの話題作になるとは「全く考えていませんでした」。
「だけど、たった一人のTOSHI-LOWさんの不便さを解決したい、喜んでもらいたい、と考えたものだからこそ、はまる人にはまったのかもしれません」と笑います。
今、開発しているのは、缶詰ホルダーだそうです。すでに商品化された「おちょこホルダー」とともに、「手ぶらで宴会を楽しんでほしい」と願いを込めています。
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