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コラム

初の42.195キロ 徳島で気づいたマラソンの〝新たな可能性〟

2023年夏、東京から移住したウェブメディアの編集長がつづります

東京から徳島に移住したウェブメディアの編集長が、人生初めてのフルマラソンに参加しました
東京から徳島に移住したウェブメディアの編集長が、人生初めてのフルマラソンに参加しました

目次

地方には足を運んでみることでわかる魅力が確実にあるーー。昨夏、東京から徳島に移住したウェブメディアの編集長・伊藤あかりさんは、3月に人生初のフルマラソンに参加してそう感じたそうです。他県からの参加者も多く、そこには「マラソンをしながら徳島の名産を一通り体験する」システムができあがっていました。

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<伊藤あかり>
Z世代女性向けエッセイ投稿メディア「かがみよかがみ」編集長。
2009年朝日新聞社入社。奈良、徳島で警察、高校野球、県政、災害などを記者として取材。紙面編集者を経て、2017年にミレニアル女性向けウェブ「telling,」の立ち上げに携わる。2019年に社内の新規事業コンテストに応募、「かがみよかがみ」を立ち上げ編集長に。事業移管により、2023年4月からサムライトへジョイン。現在徳島ミライラボ長として、「Z世代×地方創生×女性活躍」を軸に関西・四国から事業展開を始めている。
 

「何をするにも体力だ!」

3月のフルマラソンに出場しようと決めたのは昨年11月下旬のこと。

疲労困憊(こんぱい)の2歳児子育てをもっと楽にこなすために必要なのは、体力と経済力だと気づいたからだ。私の場合、経済力をつけるよりも、体力をつける方が簡単そう。体力をつければ経済力も上がりそうだから。

でも、その逆はない。「そうだ! 何をするにも体力だ! マラソンだ! フルマラソンにエントリーだ!」と思い立ったわけである。

目指すは2024年3月24日開催のとくしまマラソン。調べてみると、地方で開催されるマラソン大会はけっこうある。

それぞれ特色を出しているのが面白い。大阪マラソンではたこ焼きや肉吸いも出るらしい。名古屋ウィメンズマラソンでは、なんとティファニーのペンダントがもらえると人気だ。どの大会に出ようかと考えるだけでワクワクする。

私の場合、もはや走ることかプレゼントか、どちらが目的かわからなくなってきている。個性的なマラソン大会が、こんなにも各地で生まれているとは……。

体力が大事。そうだ、マラソンだ!
体力が大事。そうだ、マラソンだ!

「音声ガイドラン」に背中を押されて

大会を決めたら、体づくりだ。さっそく11月末にランニングシューズを買い、練習を始めた。本番まで4カ月を切っている。時間もないので「まずは30分歩くところから~」という入門編をすっ飛ばし、週に2~3回5キロずつ走り、週末は10キロ走った。

走るときは、距離や時間にあわせてトレーナーがランニングのアドバイスをしてくれるナイキのアプリ「音声ガイドラン」を使っていたのだが、これが「褒められて伸びる」タイプの私にはぴったりだった。

「(アプリの)スイッチをいれた時点で、あなたは目的の半分を達成している! えらい!」
「きょう走ったことで、昨日のあなたよりも間違いなく成長している!」
「走ったあとに、走らなければよかったと後悔している人はいません!」

仕事前に音声ガイドランのコーチに激励してもらい走ることで、そのまま仕事も「私はできる! 私はできる!」モードで突入できたのもよかった。

練習かねて出場したハーフマラソン

体力もついてきて、土日に息子と遊んでも前ほどへばらなくなってきた。

これは一石二鳥どころの話ではない! 全ての問題の解決策は「ラン」に通ずる? これはすごい発見では!!!

と思ったのだけど、あまたの自己啓発本で、「ラン」の有効性は言われている。

“『スマホ脳』(新潮新書)で知られるスウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセンには数多くの著書があります。それらは一貫して「心と体を健康に保つには走るのが最もよい」と説いています。”
ーー『あやうく、未来に不幸にされるとこだった』(堀内進之介、吉岡直樹著、東洋経済新報社、2024)

大会の練習も兼ねて、フルマラソンの本番の1カ月前にハーフマラソンに出場してみた。

「半分の距離を走ったことがあれば、本番もいける」と、ラン友達の声に背中を押された。10キロは走れるので、いけるのかなと思った。

しかし、ペース配分はめちゃくちゃ。なんとか歩かずに走りきれたけど、ハーフを走ったことでフルへの不安が増した。

初めてのハーフマラソン…雨で足元べちゃべちゃの中を走りました
初めてのハーフマラソン…雨で足元べちゃべちゃの中を走りました

とくしまマラソン当日、「エイド」を支えに

今回の私のフルマラソンの目標は「完食! 完走!」である。

とくしまマラソンは、他県の大会に比べてもかなりエイド(補給食)が充実していることで有名らしい。事前に配布されたパンフレットを見ながら、作戦をたてた。

まずは、10キロ地点でイチゴをもらえるらしいので、それを目指して走る。

「10キロくらいまでは普段から走っているので余裕。むしろあまりスピードを出しすぎると初心者は後々しんどくなるので抑え気味に……」とのんびりしていると、私の目の前でイチゴが品切れになった。

この看板だけでテンションあがります
この看板だけでテンションあがります

このままだと完食どころか、完売ゆえに0食になってしまう。ちょっとだけスピードを上げる。すると、今度は甘酒ゲット。おにぎりもゲット。

まもなくハーフの時点で、今度はいなりずし、ウィンナー、フィッシュカツ、たけちくわをいただく。前回はボロボロのハーフだったけど、それに比べたらだいぶ余裕があるような。

さて、ここから先は未知の領域! 腹ごしらえをしていざ!!!!!

いなりずし、ウィンナーなどで腹ごしらえはOK
いなりずし、ウィンナーなどで腹ごしらえはOK

空はあいにくの雨模様。どんどん雨が強くなってくるし、川沿いなので遮るものもなく、風はふきっさらし。足も少しずつ痛くなってくる。

でも、私の頭には次のエイドがターゲットされている。そうさ、折り返した先には徳島の特産品「半田そうめん」があるのさ。

歩きそうになるのをぐっとこらえ、「とりあえず半田そうめんまで!」を合言葉に頑張る。

半田そうめんと鳴門わかめ。このために頑張りました…!
半田そうめんと鳴門わかめ。このために頑張りました…!

その次は30キロ地点にある徳島の郷土料理「そば米雑炊」……と思ったのだが、私が着く頃にはまたしても「完売」だった。

友達から「35キロ時点に、あかりの好きな『阿波ういろう』あるぽい!」とのLINEが届く。よし、阿波ういろうだ!!!

が、30キロを過ぎると、足が痛くて走れない。阿波ういろうもなくなっていた……。

イチゴは別のエイドでゲットしました!
イチゴは別のエイドでゲットしました!

いよいよ、両足が石のようになってきた。走りながら聞いていたオーディオブックの音も途中から耳に入らなくなる。気づけばイヤホンの電池も切れていた。

頭の中は「痛いな~ゴールまだかな~」が占拠する。

そんな弱気になった時に、聞こえてきたのが二拍子のカネの音と「ヤットサー」のかけ声。テントの下で踊り子さんたちが阿波踊りを披露してくれている。

沿道からは「あと〇キロだよ! 頑張れ頑張れ!」「もう完走できるよ~!」の声援も。まさに「リアルご当地音声ガイド」である。私の好きなやつ。

魚のすり身にカレー粉や唐辛子などを加え、パン粉をまぶして揚げた徳島の名産「フィッシュカツ」
魚のすり身にカレー粉や唐辛子などを加え、パン粉をまぶして揚げた徳島の名産「フィッシュカツ」

観光業〝おとなしい〟徳島

黙々と歩いたり走ったりしていると、ついにゴールがある陸上競技場へ。最後は「あれ、まだ私走れるじゃん」くらいの猛ダッシュでトラックを駆け抜け(たように自分には感じ)、ゴールした。

今回、後悔することがあるとすれば、私のタイムが悪かったせいで、そば米雑炊と阿波ういろうを食べられなかったことだ。

にしても今回のエイドのフード選びが憎い! 私の大好きな徳島の食べ物尽くしではないか! これなら他県から来た人に徳島の魅力が伝わったはず。

振り返ると、スタート時点では阿波踊り以来の密度になっており、こんなにマラソン人口がいるんだなあと驚いた。

阿波踊りの時期には100万人超が訪れる徳島だが、裏を返すと、それ以外の時期は、観光業として〝おとなしい〟のが実情だ。

徳島に移住し、日々、東京にはない徳島のよさを味わっている身からすると、阿波踊り以外の時期も足を伸ばしてほしいと感じていた。

徳島市を代表する山・眉山(びざん)を一望するオフィス
徳島市を代表する山・眉山(びざん)を一望するオフィス

マラソンの新たな可能性

とはいえ、数ある観光地からあえて徳島を選ぶかというと、転勤族として各地に住んだ身として、なかなか厳しい面があるのも否めない。

民間調査会社が毎年発表している都道府県魅力度ランキングでは、徳島は42位(2023年)。上位には北海道、京都、沖縄……と強豪がひしめく。

そんな時、マラソンの存在は、県外の人に徳島に来てもらうきっかけとして魅力的だ。マラソンというくくりになった途端、観光とは別のフィールドで戦える。

なぜなら、ランナーの第一目的はマラソンだから、いい意味で観光地としての徳島にはこだわりがない。フラット、無色透明。

これを徳島色に染められたら、こっちの勝ちだ。沿道の特産品をはじめ、大会後にどこか一つでもおすすめスポットに足を伸ばしてくれたら、そこから徳島ファンが生まれる可能性がある。いや、そうしなければならない。

周りの人たちの会話を聞くと、四国はもちろん関西圏から来てる方も多いようだ。

徳島県のマスコットキャラクター・すだちくんのかぶり物をしている方は各地のマラソン大会に出場しているようで、「その地域のご当地キャラのコスプレをして走る」と話していた。マラソンの地域活性あなどれない!

観光や移住の施策と組み合わせることで、リピーターを増やす施策にもなるのではないだろうか。

観光という軸だけで勝負しようとすると、どうしても〝定番〟と言われる観光地にはかなわない。でも、実際、足を運んでみることでわかる魅力は確実にある。何の縁もなかったのに、なぜか徳島に移住している私が言うのだから間違いない。

そんなマラソンというイベントの新たな可能性に気づいた42.195キロだった。

次こそは「完食完走」を目指して、もう少しタイムを縮めたい。8月の北海道マラソンへのエントリーを心に決めた。

◆伊藤あかりさんのXアカウント @korapea(https://twitter.com/korapea)
◆伊藤あかりさんが編集長を務めるメディア
「かがみよかがみ」https://mirror.asahi.com/
   ◇   ◇   ◇

連載・移住リアリティー「子連れ脱出記」
Z世代女性向けエッセイ投稿メディア「かがみよかがみ」編集長・伊藤あかりさんが、1歳の息子を連れて移住した先・徳島での生活をつづります。不定期連載。

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