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アートで「スマホ断ち」できる? 水滴がぽとり、ぽとり…見続けたら
「あれ?いまなにも考えてなかったな」
何度も鳴るスマホの通知に、SNSに流れる大量の情報。「スマホ疲れ」の言葉が聞かれるようになって久しいですが、日常に溶け込んでいるデバイスと距離を置くのは難しい……。3月、喧噪の渋谷で「瞑想」ができると聞き、スマホの一日平均のスクリーンタイムが4時間、ウェブどっぷりの記者が向かいました。
3月初旬、渋谷駅から徒歩10分ほどの会場で行われたのは、「見るだけで瞑想できるアート体験イベント ぼーっとするかい?」。
照明が落とされ、小鳥の鳴き声や水のせせらぎの環境音が流れる会場で、主催者でプロダクトデザイナーの高橋良爾さんに「好きなところに座ってくださいね」と促され、ソファーに腰掛けました。
目の前には、高橋さんが製作したアート作品「DEW」。
下に向かって伸びた棒の先にLEDライトが灯り、先端に溜まった水滴が一定間隔で落ちる仕組みのプロダクトです。
ライトの先でフルフルと震える水の粒は、線香花火の先の部分に似ています。
「30分くらい、ゆっくりしてみてください」と声をかけられ、アートに集中することに。
光を集めた水の粒は、ポツンと、アルミニウム製の器に作られた直径5センチほどの水たまりに落ちます。
これが幾度となく繰り返されるのを見つめてみました。
ただ、作品を見つめながらも「どういう仕組みになってるの?」「隣の人はどんな風に過ごしているんだろう」「あ、まだ書いてない原稿があった……」と、頭の中は思考がぐるぐる。
しばらく経った頃、高橋さんに「どうですか、ボーッとできてますか?」と声をかけられ、最近の仕事の状況など雑談をすると、少し気持ちがほぐれたような感覚に。
その状態で再び光と水の粒、落ちた先の波紋を見つめると、なんだか頭がぼんやりしてきました。
「ああ、もう何も考えたくない」
右腕につけていたApple Watchも、ポケットに入れていたスマホも全部いったんリュックの中に入れ、光の粒に集中することにしました。
「なんか疲れたよねーでもまあ疲れるよねそりゃみんな。とはいえ疲れたよね。うーん....」
まさに取り止めのない思考を巡らし続けているうちに、「あれ?いまなにも考えてなかったな」と気づく瞬間もありました。
ずっとこのままがいい…...そんな感覚になったところで時間は30分以上過ぎていました。
これまでにも、鏡の配置を使い、1本の花を「花束」に見せるプロダクトを世に送り出すなど、いくつものアート作品を生み出してきた高橋さん。今回の作品を思いついたのは実は13年前のことでした。
「子どもの頃に、庭の池を見つめて過ごしたりしていた」という高橋さんは、「光と水の組み合わせはおもしろい」と常々思っていたそう。
その「おもしろさ」を形にしたのが「DEW」でした。
昨年、様々なプロジェクトを手がける若者たちが集う場として2017年からパナソニックが手がける「100BANCH」(渋谷区)に応募。そこでの出会いを通じて、DEWを磨き上げてきました。
元々、DEWは高橋さんの「おもしろい」が起点となったもので、使用目的を定めたものではありませんでした。
ただ、DEWを100人ほどに体験してもらいヒアリングをする中で、この作品を高く評価する人は、情報産業の従事者や経営者だったといい、結果的に「スマホやパソコンから強制的に意識を背けることができ、デジタルデトックスになるのではないか」と考えたといいます。
「これだけSNSが発達している環境で、情報を遮断することが難しい時代。僕は元々スマホにアプリを入れても通知をすべてオフにしているのですが、通知をオンにしている人からしたら、常に心がきついだろうなと思います」と高橋さん。
「DEWを通じて、自分の関心事からほかのところに関心を置く大切さのようなものを感じてくれているのかもしれません」
DEWは今後、オフィスやホテルでのレンタルや購入を見込んでいるといいます。
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