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がんはどう治す?標準治療とは? 〝あおり文句〟の帯で出版した理由

国立がん研究センターが編集

国立がん研究センターが編集した『「がん」はどうやって治すのか』。『「がん」はなぜできるのか』に続き、治療にフォーカスした内容で出版されました
国立がん研究センターが編集した『「がん」はどうやって治すのか』。『「がん」はなぜできるのか』に続き、治療にフォーカスした内容で出版されました 出典: 講談社ブルーバックスのXアカウント

目次

「がん治療本の決定版」「〝後悔しない選択〟のために」――。そんな風に帯に書かれた〝あおり文句〟が「デマ本かと思った」と話題になっていたのは、国立がん研究センターが出版した『「がん」はどうやって治すのか』です。出版の経緯を取材しました。(withnews編集部・水野梓)

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がんの治療を詳しく解説

2人に1人が「がん」にかかる時代――。

そんな風に言われ、がんの治療はめまぐるしく進歩していますが、多くの人はがんを宣告されればショックを受けます。

わらにもすがる思いで科学的根拠のない高額な治療を受けてしまうケースも後を絶ちません。

がんにまつわる本のなかにも、「○○すれば」「これで治る」「がんを消す食事」といった内容やタイトルの本が散見され、これを信じて、病院での治療を受けない人もいるといいます。
そんななか、昨年末に出版されたのが『「がん」はどうやって治すのか 科学に基づく「最良の治療」を知る』(講談社ブルーバックス)という本です。

帯文には「がん治療本の決定版」「〝後悔しない選択〟のために」と、医療本には珍しい〝あおり文句〟が記されています。
国立がん研究センターが編集した『「がん」はどうやって治すのか』
国立がん研究センターが編集した『「がん」はどうやって治すのか』 出典:講談社ブルーバックス『「がん」はどうやって治すのか』
この本は、根拠にもとづくがん情報を発信する「がん情報サービス(https://ganjoho.jp/public/index.html)」を運営する国立がん研究センターが編集しました。

がんのメカニズムを解説した『「がん」はなぜできるのか』を2018年に出版しており、治療にフォーカスした後継本だといいます。

2019年のデータ(https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html)によると、日本人が生涯でがんと診断される確率は、男性65.5%、女性51.2%です。

国立がん研究センターの理事長・中釜斉さんは「家族や身近な人をふまえると、『ひとごと』とは言えなくなっています」と指摘します。

一方で、中釜さんは「われわれが問題意識として抱えているのが、保険診療で認められていない、根拠がはっきりしていない〝治療〟も、市中では行われているということです。患者さんが適切な選択ができるように、こういった本が役立つのではないかと考えました」と話します。

「標準治療」は「最善の治療」

本の編集に携わった国立がん研究センター中央病院の副院長の山本昇さんは、新しい抗がん剤の研究に取り組みながら、がん診療にもあたっています。

「がんの治療法も、この10年で大きく進化しています。選択肢も増えており、患者さんも治療に迷うと思うんです。でも、やはり『標準治療』を受けてほしい、という思いです」と話します。

「標準治療」は、現時点で根拠がある〝最善の治療〟のことをいいます。

出典: Getty Images ※画像はイメージです

しかし山本さんは「標準治療というと『真ん中ぐらいの治療かな』って思ってしまう患者さんが多いんですよね。『一番いい治療にしてください』と言われるので、それが標準治療ですよと説明しています」と話します。

中釜さんは「本屋さんの〝医療〟の棚にも、センセーショナルなタイトルが並んでいて、やっぱり売れますよね。稀にそういうケースも実際にあったのかもしれませんが、本当に特殊な例でほかの方には当てはまらないこともあります」と話します。

「その出版に関しては止めようがないので、やっぱりわれわれは科学的根拠のしっかりした情報を発信し続けて、困ったらこの本やがん情報サービスにアクセスしてくださいということを伝え続けるしかないのかなと思っています」と語ります。

国立がん研究センター理事長・中釜斉さん(左)と、同センター中央病院・副院長の山本昇さん
国立がん研究センター理事長・中釜斉さん(左)と、同センター中央病院・副院長の山本昇さん

本の内容は、さまざまな標準治療についてかみ砕いて説明するほか、ゲノム医療といった最先端の治療や、セカンドオピニオンの求め方なども紹介しています。

中釜さんは「本をきっかけに、自身や家族の受ける治療がどんなものか知ってもらったり、がん治療の選択について落ち着いて考えたりする材料のひとつになれば」と話します。

コメディカルと連携してコミュニケーション

しかし、忙しそうな医師に治療の不安を打ち明けていいのか、セカンドオピニオンを打診していいのか、仕事との折り合いについて相談していいのか……。

患者と医師のコミュニケーションは、なかなかうまくいかないこともあります。

山本さんは診療上で自身が心がけていることを「できるだけ早く、その場の相手の雰囲気を感じ取って、相手に目線を合わせ、相手のペースで説明することが大切だと思っています」と話します。

出典: Getty Images ※画像はイメージです

また、看護師やソーシャルワーカーといったコメディカルから、フィードバックをもらうこともあるそうです。

「病気の宣告を受けた方は、頭が真っ白になると思うんですよね。そんな時にお話ししても、なかなか全て理解するのは難しいと思います。スタッフに『患者さんはここが心配だとおっしゃってました』『ここが分からないと話していました』とフォローしてもらうことで、医師と患者さんのコミュニケーションは成り立っていると思います」

がんによる「離職」を防ぐために

近年、課題となっているのが、がんを宣告された時に仕事を辞めてしまう患者さんが多いことだといいます。

<国立がん研究センターなどの2015~2018年の調査では、「がんの疑い」と説明を受けた時点で3割が離職を検討。5.7%は確定診断を受けるためにがんの専門病院を初めて受診するまでの間に離職しており、「びっくり離職」とも言われています>

【関連記事】がんの疑いに「びっくり離職」 防ぐためにどう支える?
https://asahi.com/articles/ASN2551YHN23ULBJ01P.html
中釜さんは「治療も進歩し、がんの治療と仕事は両立できる時代です」と話します。

山本さんは「すぐに辞めてしまう方もいらっしゃるので、国立がん研究センター中央病院では『患者サポートセンター』を案内し、仕事は辞めないでと伝えています」と話します。

同院では、2016年から「患者サポートセンター」を開設し、患者や家族のさまざまな困りごとの相談に応じているそうです。

ほかの地域でも、国の制度で、無料で相談できる「がん相談支援センター」ががん診療連携拠点病院などに設置されています。

患者さんへ「読みやすいように」意識

ライターが医師にインタビューし、書き起こして医師たちが確認する……そんな作業を重ねて数年ほどかけてつくった今回の書籍は、すでに3刷。

監修に関わった医師は少なくとも17人にのぼり、「患者さんが読みやすいように」ということを意識したそうです。

国立がん研究センター理事長・中釜斉さん(左)と、同センター中央病院・副院長の山本昇さん
国立がん研究センター理事長・中釜斉さん(左)と、同センター中央病院・副院長の山本昇さん

中釜さんは「がんの患者さんやそのご家族だけでなく、普段は直接がんの診療には携わっていない医療関係者の方も、この本を読むとがんの最先端の専門的な情報が一気に分かるのではないかと思います」と話します。

「病気を見つけられるのがイヤで病院に行きたくない…という方もいらっしゃると思います。でも、推奨されるがん検診を受けて早い段階で見つけることができれば、治療成績もずいぶん上がってきています。ぜひ本やサイトで根拠のある情報を得て、不安感を減らしていってほしいです」

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