連載
#90 夜廻り猫
電車で「お手伝いしましょうか」…協力できなかった後悔 夜廻り猫
大勢の人でごった返した駅のホームで、白杖を持った人をよく見かけて――。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られる漫画家の深谷かほるさんが、SNSで発表してきた「夜廻り猫」。今回は、満員電車の通勤中のエピソードです。
ひとり、思いにふけって歩く男性。心の涙の匂いを嗅ぎつけた猫の遠藤平蔵は、「どうした? 話してみないか」と声をかけました。
毎朝の通勤が満員電車という男性。ホームでよく見かける人は白杖(はくじょう)を持っています。
誰も協力せず、いつも電車に乗れないその人。
男性は「お手伝いしますか?」と心の中で練習していますが、言えない日々を送っていました。
しかし、今朝は、乗ろうとしたその人に「邪魔」「もういっぱい」と声を荒らげる乗客が。男性は「あんまりだから俺、電車を降りたんだ」と話します。
自分が降りた分、白杖の方を案内して電車に乗せた男性。「あんなこと言われる前に、協力すればよかった」と後悔します。
それを聞いた遠藤は、「おまいさんよくやった」と手を掲げます。「猫の褒美だ」と男性とハイタッチして、帰途につくのでした。
作者の深谷さんは、「ちょっと助け合いができれば…、と思うことはよくあります」と話します。
道で倒れた人がいたとき、通りかかった人が偶然AED(自動体外式除細動器)の講習を受けたばかりで、使って救命できたという新聞記事を読んだそうです。
「それほど大きなことではなくても、駅の階段を、子どもとベビーカーを抱えたお母さんが上がろうとしている時。マンガのように白杖を持った人がいた時。お年寄りがしゃがみ込んでいる時――。どうしたらいいか分からない場合もありますが、それはそれなりに、何か声をかけたいと私は思います」と話します。
「困った時、非常時に一番心強いのは『人』だと思います。そして、それは理想ですが、そうありたいとも思うのです」
1/216枚