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IT・科学

日本初の月面着陸SLIM 「成功」でも「60点」辛口の理由は…

「マッハ6で札幌上空を通過後、甲子園に降り立つ」離れ業

着陸してひっくり返った探査機SLIMのイメージCG
着陸してひっくり返った探査機SLIMのイメージCG 出典: 三菱電機エンジニアリング作成、JAXA提供

目次

日本の月探査機SLIMが1月20日に月面に着陸してから、きょうで1週間。旧ソ連、米国、中国、インドに続く世界で5カ国目の月着陸成功です。ただ、探査機がひっくり返っていたり、太陽電池が発電できなかったりといろいろ問題もあったみたいで……。日本初の月面着陸、どう評価すればいいのでしょう?(デジタル企画報道部・東山正宜)

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加点しても「63点」辛口評価の所長

「ぎりぎり合格の60点とさせていただきたい」

相模原市の宇宙科学研究所で20日午前2時過ぎから始まった会見は、「お通夜のような雰囲気」だったといいます。

国中均所長は着陸の成功を宣言しつつ、評価は及第点。

その後、子機やSLIMが画像を撮影できていたことなどが確認され、「63点」に上方修正しましたが、それでも評価は激辛のままでした。

月面着陸について状況を説明するJAXA宇宙科学研究所の国中均所長
月面着陸について状況を説明するJAXA宇宙科学研究所の国中均所長 出典: 朝日新聞

長らく宇宙分野を取材してきた記者としては、今回の着陸は大成功だったと判断しています。

そもそも、月面着陸は、宇宙開発の中でも極めて難しいミッションの一つだからです。

「マッハ6で札幌上空を通過後、甲子園に降り立つ」

これまでに地球以外の天体に着陸した探査機はいくつもありますが、金星や火星、土星の衛星タイタンにはいずれも大気があり、パラシュートを使ってゆっくり降りることができました。

また、大気がない天体でも、小惑星探査機「はやぶさ」「はやぶさ2」が着陸したイトカワやリュウグウのような重力がほとんどない小惑星なら、なにもしなくても探査機はゆーーーっくり降下することができます。

ところが、月は地球の6分の1、火星の半分という結構な重力があります。

2023年4月に上空5kmで燃料が尽きてしまった日本の民間月探査計画「HAKUTO―R」の探査機は、月面に時速360kmで激突したことがわかっています。

大気がないのに重力が大きい天体では、エンジンを細かく正確に制御して重力に逆らいながら降下しないといけません。

着陸のイメージ
着陸のイメージ 出典: JAXA

しかも、着陸するほんの20分前まで、探査機は月の周りを高速で飛んでいます。

SLIMがしようとした着陸は、言うなれば「札幌上空をマッハ6で通過した直後にフルブレーキをかけ、地上を撮影しながら自分の位置を確かめつつ、自動で兵庫県の甲子園球場に降り立つ」ぐらいの離れ業。

大成功と言えるピンポイント着陸でした。

メインエンジンがすっぽ抜けて…

その後の調査で明らかになった状況を、前述の比喩で説明すると、SLIMは甲子園の上空まで正確に飛んできていました。

SLIMはここで、目標にしていたマウンド付近が思ったより平らでないことに気づきます。

そこで、着陸目標をずらし、センターの守備位置付近に降りることにしました。

二つあるメインエンジンを噴きながらゆっくり降下しつつ、補助エンジンで機体をずらしていきます。そして、上空50mまで降りてきた時でした。

なんということでしょう。メインエンジンの一つがすっぽ抜けてしまったのです。

落下していくメインエンジンのノズル。月探査機SLIMが高度50m付近で撮影した
落下していくメインエンジンのノズル。月探査機SLIMが高度50m付近で撮影した 出典: JAXA

SLIMが撮影していた画像には、落下していくエンジンノズルがまんまと写っていました。

片側のエンジンは出力が半減し、SLIMはバランスを崩してしまいます。

おっとっとっと。

なんとか補助エンジンで姿勢を保とうとしますが、たぶん、着陸したときに変な手の付き方になっちゃったんでしょうね。

頭から前のめりにごろんとひっくり返ってしまいました。

着陸直前に放出された小型ロボット(下)が撮影した探査機SLIM。ひっくり返っている
着陸直前に放出された小型ロボット(下)が撮影した探査機SLIM。ひっくり返っている 出典: JAXA、タカラトミー、ソニーグループ(株)、同志社大学

「機長のSLIM君には審査員特別賞を」

とはいえ、センターの守備位置から数mの場所に着陸することはできました。

そんな着陸だったので、坂井真一郎プロジェクトマネージャが25日の会見で「飛行機がエンジンを一つ失った状態でなんとか着陸したようなもの。ピンポイント着陸は100点満点。機長のSLIM君には審査員特別賞をあげたい」と語ったのは本心だったと思います。

記者の質問に答えるJAXAの坂井真一郎プロジェクトマネージャ
記者の質問に答えるJAXAの坂井真一郎プロジェクトマネージャ 出典: 朝日新聞

本来なら、着陸後に近くの石や岩を分析するはずだったSLIMですが、運悪く太陽電池パネルが太陽と逆側に向いてしまい、発電できなくなりました。

そうこうしているうちに、バッテリーの残量は73%、72%……と減っていきます。

チームは分析を断念し、データの送信を優先することにしました。

探査機SLIMの撮影に成功した変形型月面ロボット(実物)。愛称はSORA-Q(ソラキュー)
探査機SLIMの撮影に成功した変形型月面ロボット(実物)。愛称はSORA-Q(ソラキュー) 出典: JAXA、タカラトミー、ソニーグループ(株)、同志社大学

ちなみに、こうした状況が分かってからも、国中所長は「63点」(写真が撮れていたので3点追加)とあいかわらず激辛評価です。

この評価がまた事態を分かりにくくしているのですが、これは「ツンデレ」なんです。ツンデレ。

2010年6月11日、初代「はやぶさ」の帰還2日前。豪州ウーメラで現地責任者を務めた国中均教授(当時)=東山正宜撮影
2010年6月11日、初代「はやぶさ」の帰還2日前。豪州ウーメラで現地責任者を務めた国中均教授(当時)=東山正宜撮影

そもそも国中さんは、初代「はやぶさ」が帰還したとき「予想のど真ん中にくるって言っただろ」なんて毒づきながら実際には号泣してたり、「はやぶさ2」では2回目の着陸をしたくてしょうがなかったと記者は思うのですが、「1回成功したんだからこのまま帰還させてもいいだろ」とか言ったりしちゃう人なんです。

ツンツンデレデレ。

「しゃ、写真が撮れてたから加点してあげてもいいけど、3点だけなんだからねっ!!」ということなんだと理解すればいいのかな、と記者は思います。

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