京菓子の老舗と和菓子を共同制作したり、YouTubeで人気のアニメチャンネルとコラボしたり、レッスン後にノンアルビールで乾杯するイベントを開催したり……異色の取り組みをするフィットネスジムがあります。理由を取材すると、フィットネス業界におけるユニークな生存戦略と“遊び心”が見えてきました。(朝日新聞withHealth)
2023年12月、慶応元年(1865年)創業の京都の和菓子屋・甘春堂と、いわゆる「暗闇フィットネス」の一つでバイクエクササイズを提供するFEELCYCLEが、共同制作した和菓子「冬輝輪(ときわ)」を発表。両者は同年6月にも共同制作した「人輝輪(ときわ)」を発表、完売しており、同様の取り組みは2回目になります。
フィットネスバイクやダンベル、ミラーボールなどをかたどった干菓子やゼリー、豆菓子、おかきなど、味だけでなく目にも楽しい和菓子が購入者に好評を博しました。
FEELCYCLEは同年9月に「エモくてクスッと笑える」人気YouTubeチャンネル「マリマリマリー」ともコラボ。登場人物たちがエクササイズバイクを漕ぐアニメが配信され、そのワンシーンを切り取ったアパレルを発売。同サービスの会員だけでなく、チャンネルのファンの間でも話題になりました。
他にも、同年7月にはノンアルコールビールのアサヒドライゼロとコラボし、レッスン後に冷えた同商品で乾杯するイベントを実施。このときは一部のスタジオに樽詰のビールサーバーやフォトスポットが設置され、SNSが賑わいました。
このように、FEELCYCLEではフィットネスジムとしては異色の取り組みを続けています。どのような狙いがあるのか、運営元のFEEL CONNECTION社を取材しました。
FEELCYCLEは屋内のクラブのような空間で流れる音楽に合わせて、インストラクターの指示で行う「コリオ」と呼ばれる振り付けの動作をしながら、フィットネスバイクを漕ぎます。コリオには腕立て伏せや腹筋などの要素も含まれ、有酸素運動と筋トレ両方が可能なエクササイズです。
1レッスンは45分間、FEEL CONNECTION社はアフターバーン(運動後も継続するカロリー消費効果)込みで最大800kcalをうたい、運動効率の良さが特徴です。
2012年6月に東京・銀座に1号店を開店して11年、現在では全国に約40店舗を構えます。同社によれば、会員数は2023年12月時点で都度利用を含め約18万人に上るといいます。
同社が取り組んできたコラボはマーケティング戦略と見ることもできます。日本は海外と比較して、そもそものフィットネス人口が少ないとされ、近年はコロナ禍で大きな打撃を受けた業界の一つ。いかにフィットネスに関心がない人を取り込むかが、生存戦略として重要です。
例えば、近年話題の「chocoZAP(チョコザップ)」は、低価格で「スーツや革靴のまま」利用できることをうたっています。既存のフィットネス愛好者にはなじみのない要素こそ、中長期的にはサービスの継続に寄与するとも言えます。
そもそも、クラブのような空間で体を動かす「暗闇フィットネス」という業態自体、既存のフィットネスに抵抗感がある人でも、音楽などのエンタメ要素や、周囲をあまり気にしなくていいことにより、始めやすい効果があるものです。そこに新しい要素を加えることで、フィットネス人口自体を増やすさらなる試みになっています。
FEEL CONNECTION社がFEELCYCLEのサービス開始当初に掲げた理念は「フィットネスカルチャーを変える」というもの。異色の取り組みの数々は、この理念においては一貫しています。その根底にあるのは「フィットネスブランドではなくライフスタイルブランドとして、視野を広げ、新しい自分を見つけてほしい」という想いだとします。
もともと代表の橋本英治さんがアメリカで暗闇バイクフィットネスを利用したとき、「これは面白い」「人生を賭けて世の中に広めたいものに出合った」と思ったことが、FEELCYCLEが誕生したきっかけ。
コラボにおいても「面白そう」という“遊び心”を大事にしていて、意図的に既存のフィットネスのイメージとかけ離れた組み合わせを提案し、サービスに変化を生み出そうとすることもあるそうです。
経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」によると、フィットネスジムの利用者数のピークは2018年の延べ2億5600万人。以降は伸び悩み、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2020年には1億7100万人に急減しています。2022年の利用者は延べ2億1000万人と回復傾向にありますが、それでもピークには届きません。
公益財団法人日本生産性本部の「レジャー白書」では、フィットネス業界の市場規模(推計値)は2021年に前年比29%増の4130億円に拡大しましたが、コロナ禍前の19年比では17%減。2022年は伸び率がさらに下がりました。人口に対するフィットネス業界の市場規模は、海外と比べて小さい状態にあります。
「同じことだけを続けていたら衰退する」という危機感は、持続的な運営に必要なものです。同サービスは今後も引き続き、異色と思われるようなものを含めて、さまざまな提案をしていくということでした。