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連載

#19 イーハトーブの空を見上げて

自宅の縁側で毎日コツコツ 3000羽を超える鶴を折った理由は…

折り鶴の前で笑顔を見せる千葉忠夫さんと妻ユキ子さん
折り鶴の前で笑顔を見せる千葉忠夫さんと妻ユキ子さん
「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。
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イーハトーブの空を見上げて

願いを込めて、折り続けた

岩手県一関市の山あいの集落で、リハビリ生活を続ける千葉忠夫さん(86)が、3000羽を超える「折り鶴」を作り、自宅の一室に飾っている。

「大したことではないけれど、『きれいだね』と言ってもらえると、やっぱりうれしいよ」

恥ずかしそうに、ククククッと笑う。

一関市大東町で生まれ、70歳まで冠婚葬祭の会社で働いた。

退職後、家の手伝いなどをしていたが、2021年の春ごろから手の指が動かしにくくなり、医師にリハビリを勧められた。

「折り紙でツルでも折ってみなさいよ」

妻のユキ子さん(84)にそう言われ、夏ごろからほぼ毎日、自宅の縁側に座って折り鶴を作り続けた。

数センチの小さな鶴から、数十センチの大きな鶴まで。

赤や黄、青や緑などの色鮮やかな折り紙に指をそわせ、震える指で角と角を合わせる。

元気になりたい――。

そんな願いを込めて、折り続けた。

3000羽を超える折り鶴、元気に

2022年の大みそかまでに、西暦にちなんだ「2022羽」を作ろうと意気込んでいたが、年末に数えてみると、2500羽になっていた。

取材で訪れた時には、3000羽を超えていた。

千葉さんは胸を張って言った。

「折り鶴のお陰で元気になった。今はペンを握って字だって書ける」

それを聞いて隣で妻のユキ子さんが笑う。

「元気になって良かったね。夫婦で仲良く、長生きしましょうね」

外は小雪が舞っている。

古びた民家の中に、石油ストーブのにおいと、穏やかな笑い声が充満している。

(2023年2月取材)

三浦英之:2000年に朝日新聞に入社後、宮城・南三陸駐在や福島・南相馬支局員として東日本大震災の取材を続ける。
書籍『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で開高健ノンフィクション賞、『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』で小学館ノンフィクション大賞、『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』で山本美香記念国際ジャーナリスト賞と新潮ドキュメント賞を受賞。
withnewsの連載「帰れない村(https://withnews.jp/articles/series/90/1)」 では2021 LINEジャーナリズム賞を受賞した
 

「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。

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