クマが人を襲う被害が過去最悪のペースで続いています。近年、増加する事故を受け、2021年には環境省が14年ぶりに『クマ類の出没対応マニュアル』を改訂していました。クマに遭遇したときにはどうすればいいのか、対応をまとめます。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
11月1日、環境省は10月の全国のクマによる人的被害件数が13道県で59件、被害者が71人で、統計を開始した2006年以降、最多だったことを発表しました(※)。※速報値のため数は変わる可能性あり。
また、今年4~10月の合計では、被害件数が164件、被害者が死者5人を含む180人となり、7カ月間の集計にもかかわらず、これまでで最多だった20年度の158人を超えたこともわかりました。
同省はその理由として「クマの個体数の増加や分布域の拡大」や「東北地方などで餌となるドングリが凶作とみられること」などを挙げています。
実は、「近年、人里へのクマ類の大量出没による人身被害が増加しており、人とクマ類のあつれきは一層深刻な状況となっています」として、同省は2021年に、14 年ぶりに『クマ類の出没対応マニュアル』を改定していました。
その中では、「クマ類の生息域となる山林等へ入山する際はもちろん、人の生活圏でもクマ類と遭遇する可能性があります」「クマ類による人身被害を回避するためには、クマ類と遭遇した際に適切に行動することが大切です」として、クマ類と遭遇した場合に取るべき行動を以下のように説明しています。
まず、「遠くにクマがいることに気がついた場合」。この場合は「落ち着いて静かにその場から立ち去ります」。
「クマが先に人の気配に気づいて隠れる、逃走する場合が多いですが、もし気がついていないようであれば存在を知らせるため、物音を立てるなど様子を見ながら立ち去りましょう」とします。
しないように注意するべきは、「急に大声をあげたり、急な動きをしたりする」こと。クマが驚いてどのような行動をするかわからないためです。
次に、「近くにクマがいることに気がついた場合」。このとき「まずは落ち着くことが重要」。それは「時にクマが気づいて向かってくること」があるためです。
ただし、「本気で攻撃するのではなく、威嚇突進(ブラフチャージ)といって、すぐ立ち止まっては引き返す行動を見せる場合があります」。この場合は「落ち着いてクマとの距離を取ることで、やがてクマが立ち去る場合があります」とします。
また、「クマは逃走する対象を追いかける傾向があるので、背中を見せて逃げ出すと攻撃性を高める場合があります」「そのため『クマを見ながらゆっくり後退する』『静かに語りかけながら後退する』など落ち着いて距離を取る必要があります」。その上で、「慌てて走って逃げてはいけません」と注意喚起します。
そして「至近距離で突発的に遭遇した場合」です。このときは「クマによる直接攻撃など過激な反応が起きる可能性が高くなります」と警戒を呼びかけます。
残念ながら「攻撃を回避する完全な対処方法はありません」。クマの攻撃的行動としては「上腕で引っかく」「噛みつく」などがあります。なお、ツキノワグマでは一撃を与えた後すぐ逃走する場合が多いとされているということです。
顔面・頭部が攻撃されることが多いため、「両腕で顔面や頭部を覆い、直ちにうつ伏せになるなどして重大な障害や致命的ダメージを最小限にとどめることが重要」。
「クマ撃退スプレー(唐辛子成分であるカプサイシンを発射するスプレー)」を携行している場合は、「クマに向かって噴射することで攻撃を回避できる可能性が高くなります」とその使用を勧めます。
ちなみに、親子連れのクマと遭遇した場合、母グマは子グマを守ろうと攻撃的行動をとることが多いため「より一層注意が必要です」。「子グマが単独でいるような場合でも、すぐ近くに母グマがいる可能性が高いため、近づくことはせず、速やかにその場から離れること」とします。
また、前述のスプレーについては、カプサイシンは粘膜を刺激するため、「クマの目や鼻・のどの粘膜にスプレーが当たるよう、顔に向かって噴射することが重要」。「射程距離は5m程度と短い製品が多いため、十分クマを引き付けてから噴射する必要があります」と指摘。
「下草が人の背丈ほどに鬱閉したところなどでは効果的な噴射が難しく、十分な効果を期待できないことがあります」「刺激性物質の効果は人も同じなので、風向きによっては噴射した本人へも影響があります」としながらも「それでもクマからの攻撃を回避するためには、躊躇せずスプレーを噴射することが重要です」。
また「誤射に注意しつつ、いざという時にすぐ使うことができる場所に携帯することが必要」である一方、「とっさに使用することは難しいので、事前にトレーニング用スプレーなどで練習することも重要です」と、クマへの対処法をまとめました。