連載
体の奥にしみこむ「本物のわらび餅」 豊饒な土と雪解け水が育んだ
初めて本物のわらび餅を食べた。
岩手県中西部。秋田県との県境に「わらびの里」と呼ばれる西和賀町はあった。
奥羽山脈の背骨に位置する国内有数の豪雪地帯だ。
豊饒な土壌と手が切れそうな雪解け水。
抜群の環境で育てられる良質な「西わらび」は、色合いが鮮やかで粘りが強く、町の特産品になっている。
観光農園の「つきざわワラビ園」では、2.7ヘクタールのわらび園が一般開放されていた。
「毎年来ているが、今年のわらびは特に太くて長くてとても良い。おひたしにして食べるのが楽しみだ」と盛岡から来たという男性はうれしそう。
「上手にアク抜きをして、おいしく食べてくださいね」と観光農園の代表もやはり、うれしそうだ。
西和賀町のもう一つの特産は、西和賀産の本わらび粉を使ったわらび餅だ。
老舗菓子店「お菓子処たかはし」の2代目・高橋忍さんが教えてくれた。
わらび粉は本来、わらびの根から採取したでんぷんで、根全体からほんのわずかしか採れない。
純度100%のわらび粉は「本わらび粉」と呼ばれ、精製に多くの手間と時間が掛かることから、希少で高価になっている。
特に西和賀産の「西わらび」から採った本わらび粉は、ねばりが強く、色が透き通っていると評判らしい。
「食べてごらん」とできたてのわらび餅を手の平に乗せてくれた。
口に含むと、漿(しょう)のようにトロっと体の奥に染みこんでいく。
「全然違うでしょ? 市販のわらび餅の多くは、わらび粉ではなく、加工でんぷんで作られているんだ。とろけるような食感と、奥行きのある味。これが本物のわらび餅の味なんだ」
貴重な本わらび粉を使えば当然、単価は高くなる。
「西わらび粉」を100%使用した「西わらび餅プレミアム」は6個入りで1200円。
20%使用の「スタンダード」は9個入りで600円。
ふるさと納税の返礼品としても提供しているが、人気が集中し、昨年冬の注文分の発送さえ追いつかない。
「その日のうちに召し上がってね」と妻の久美子さんがお土産を持たせてくれた。
「本わらび粉を使ったわらび餅は冷蔵庫に入れると硬くなってしまうから」
片栗粉の多くが今はカタクリからはできていない。
わらび餅の多くもわらびからは作られていない。
私は都会で、これまで何を口にしてきたのだろう。
(2023年5月取材)
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