連載
#76 「きょうも回してる?」
〝三度目の正直〟で商品化した「ガチャハンドル」 Z世代社員の執念
2回諦めた企画、3回目で採用のきっかけと執念
ガチャガチャ好きは知っている、小銭を投入し、ハンドルを回すあの感覚を――。ガチャガチャ評論家のおまつさんが「あの感覚」を商品にした、25歳のZ世代社員を取材しました。
ガチャガチャは、アニメやマンガなどのキャラクター商品と、ノンキャラクター、つまりオリジナル商品に分類されます。
特に、オリジナル商品の企画は自由であり、極端なことを言えば、何でもありな世界です。
ただし、企画者は商品化のためのコスト面や生産管理を考える前に、大事なことがあります。そう、企画者の商品に対する思いです。
「どうしても作りたい」、「自分は面白い。この面白さをガチャガチャで伝えたい」などの思い。
この強い思いがベースになければいけません。なぜなら、作り手の思いは商品に反映され、売り場のDP(ディスプレイポップ)からでも伝わるからです。
つまり、作り手の思いがある商品こそが、購入に繋がるきっかけになると言えます。
そしてガチャガチャは、ついで買いが特徴です。
毎月400以上の商品が誕生するなか、生き残っていくためには企画者の思いが弱い商品は、その他大勢の商品のなかに埋もれてしまい、「ついで買い」の対象にもなりません。特にオリジナル商品はその傾向が強いです。だからこそ、企画者にはものづくりに対する姿勢が問われてくると思うのです。
今回は、作り手がガチャとしてどうしても作りたかった思いを実現した、「THE!ガチャハンドル(以下、ガチャハンドル)」を紹介します。タカラトミーアーツから10月に発売されました。
この商品は、ガチャ企画部の瀧澤実由さんが担当しました。瀧澤さんは、美大出身の25歳。25歳と言えばちょうどZ世代にあたり、私はZ世代がどんなガチャを作るのか、大変興味を抱きながら話をきいていました。
瀧澤さんはキャラクター商品のほか、オリジナル商品も企画しています。今まで手掛けたオリジナル商品は、ガチャに興味を持ちはじめた女子大生や社会人などたまにガチャを回す人に刺さるように考えた、チーズとZOO(動物園)をかけあわせた「チーZOO図鑑」や、エリマキトカゲをモチーフにエリにいろんなものを巻く「エリマクトカゲ」、盆栽と野菜が融合した「盆菜~BONSAI~」など、ダジャレをきかせた商品が多いです。
瀧澤さんは「小さいころから、ガチャが好きでした。小さなことで大きな喜びを得られる。これがガチャの魅力です」と教えてくれました。
そんなガチャ好きな瀧澤さんが考えたダジャレ以外のオリジナル商品が、今回のガチャハンドル。ちなみに、皆さんが売り場で見ているガチャガチャのマシンはタカラトミーアーツとバンダイの2社が作っているマシン(もしくは筐体)になります。
ガチャハンドルは、タカラトミーアーツのガチャマシン「ガチャ2Ez(以下、ガチャマシン)」のハンドルを商品化してしまったものです。
実物とほぼ同じ大きさで、実際につかんで回すと、あの「カチカチ」とした音と感触を無限に味わえます。
ガチャハンドルを開発したきっかけについて、「ガチャ好きな私には、ガチャマシンを家に置きたいという願望がありました。しかし、ガチャマシンは業務用で個人では買うことができません。家にガチャマシンを置くことはできないですが、せめて実際に回せるハンドルの商品があればその願望を少し満たせるかもしれないと考えました」(瀧澤さん)。
そんな思いから、瀧澤さんは満を持してガチャハンドルの企画を会議に提出します。ただ、ガチャマシンのハンドルが本当に売れるのかなどの理由から、当初は採用されませんでした。しかし、瀧澤さんは、諦めたくありませんでした。ガチャハンドルの企画をブラッシュアップして再度提出しましたが、またしても企画が通りませんでした。悔しくて悔しくてどうしても諦めたくない瀧澤さん。
3度目のガチャハンドルの企画を提出しようとする際、瀧澤さんに転機が訪れます。ちょうどタカラトミーアーツでは、ガチャ好きのお客様に向けて「レッツプレイガチャプロジェクト」がスタートし、オフィシャルグッズ第2弾として、ガチャマシンをモチーフにしたバックパック「しょいガチャーShowy Gachaー」の予約受付をECサイトで開始していました。こちらの反響が大変大きく、瀧澤さんはそれをみて、3回目の企画書を作ります。
「商品化を決定できない懸念点を書き出し、その課題に対する解決策を提案しました。そしてプロジェクトのSNSでの反響、生産コストの計算など、周りを説得できる材料を必死で集めました」(瀧澤さん)。
緻密に作り上げられた企画が3度目でようやく通り、「今まではノリと勢いで企画書を出していました。しかし、周りの人の協力を得るためには、自分の思いのほかに、周りの人が納得できるような材料を集めることも大事だと気付いたんです」(瀧澤さん)。
ガチャハンドルは、瀧澤さんの思いと努力が運を引き寄せ、商品化したガチャだと思います。
見どころは、本物のハンドルを回すときに出る音です。ハンドルの音について、瀧澤さんは「実機のガチャマシンのハンドルの音に近づけるため、気持ちいい音にするため、工場と何度も音の調整を行いました。このガチャハンドルでは、プラスチックの絡み合う音で実機のハンドルの音を表現しています。お客様には気づかれないような音の違いでも、私は自分が納得いくまで、実機の音を再現できるように近づけたいという思いがありました」と教えてくれました。納得いく音が出た時、瀧澤さんは自分の席でずっと回していたそうです。私もガチャハンドルを回したときの音を聞いたとき、無限に回したくなってしまいました。
今後のガチャづくりについて、瀧澤さんは「お客様が自分の企画した商品を見て、クスッと笑ってくれるようなガチャを作っていきたい。そして、商品を手にしたとき、お客様をがっかりさせないように、こだわりを持ったものづくりをしていきたいですね」と話してくれました。ガチャ愛溢れた瀧澤さんのお話でした。
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THE!ガチャハンドルは、「オフホワイト」、「イエロー」、「ネイビーブルー」、「ピンク」、「グリーン」の全5種。1回400円。
※ガチャはタカラトミーアーツの登録商標です。
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