連載
#14 #コミュ力社会がしんどい
漢字が書けない「書字障害」を漫画に 「ただの甘え」批判へ思うこと
「大人の発達障害」がもっと認知されたらいいのに
幼い頃から人とのコミュニケーションが苦手だったゆめのさん。大人になり、自身の性格や振る舞いが発達障害の特性に当てはまることに気付きました。専門病院を受診すると、ADHD・ASDと診断されたそうです。
併せて指摘されたのが、LDのひとつである書字障害の傾向があることです。
以前から、読書は好きなのに、極端に漢字やひらがなが書けないという心当たりはありました。
小学生の頃、何度ノートに漢字を書き写しても形を記憶できませんでした。親に相談しても「ちゃんと勉強すれば誰だって書けるようになるの!」と励まされるばかり。劣等感だけが積み重なっていきました。
大人になり、漫画で文字を書く際はスマホでの検索が欠かせません。「に」と「は」、「あ」と「な」など、似ているひらがなはいくら神経を集中させて書いても間違えてしまうといいます。
あるとき、アルバイト先で「悪い」という漢字を書けずに上司に聞くと、「そんな字も分からないの!?」「日報くらいちゃんと書けないの!?」と叱られたこともありました。
本を読むことは好きだからこそ、書けないギャップに苦しんでいたゆめのさん。書字障害を指摘されるまでは、「普通は書けて当然の字を書けないこと」が大きなコンプレックスとなっていました。
発達障害に対する理解は少しずつ進んできていますが、書字障害を含む学習障害については「なかなか理解されにくい」とゆめのさんは感じています。
2022年1月に自身の書字障害について漫画で発信した際、インターネット上では「知れてよかった」「私もこれです」という声があった一方で、「字が書けないくらいでなんでも『障害』にするなよ」「ただの甘えだろ」という否定的な言葉も寄せられました。
一時は顔も名前も知らない誰かの言葉に心が折れそうになりましたが、ゆめのさんは「ただの甘えじゃない!」と気持ちを持ち直します。
学習障害には、計算や読字に関わるものなど、様々な類型があり、脳機能の発達になんらかの問題があることが一因ともいわれています。
「甘え」という言葉が「原因を見えなくする」と懸念するゆめのさん。「原因を理解して適切な方向に力を向けられるようにする方がいい」と考えます。
病院での診断基準が確立されていないという課題もあるそうですが、「困りごとの原因はこれかもと知れるだけで、助けになる部分はあると思う」といいます。
学習障害が知られていくことで、当事者が悩みや状況をオープンにしやすくなることを望んでいます。
「私は日々、強い劣等感や生きづらさを感じています。それを解消するためには、『気の持ちよう』のような精神論ではなく、原因を知ることが大切だと強く感じています」とゆめのさんは話します。
発達障害と診断されたときのことについて、あっさりと現実を受け入れ、「世界の見え方がちょっと変わった気がした」と振り返りました。
「ミスが多い」ADHD、「コミュニケーションが苦手」なASDといった発達障害の特性を知ったことで、これまで重くのしかかっていた生きづらさが少しだけ和らいだのかもしれません。
ADHD・ASDとともに知った「字が書けない」という傾向も、自身を受け入れる助けになりました。
漫画を通して伝えたかったのは、「原因を理解することの大切さ」と「甘えじゃなくて脳の機能障害であること」。
「目がいい人は目が見えない人の感覚が分からないように、普通に書ける人には、この感覚は理解することが難しいかもしれません。『今はパソコンが普及して字を書く機会なんて少ないから、困る事はないだろう』と言う人もいますが、実体験として字を書かなきゃいけない機会はまだ多くあります」と話します。
一方で、「原因を知ったからといって生活が劇的に楽になるわけではない」とも指摘します。
学習障害の特性を知った上で、「人生の選択肢を広めるために対処法を考えていきたいです」と前を向きます。
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