連載
#2 宇宙天文トリビア
木製の人工衛星、強度は十分? 宇宙飛行士の土井さん「実現できる」
軽くて割れにくいホオノキを使います
木でつくった人工衛星を打ち上げる――。そんな世界初のプロジェクトに、京都大などの研究チームが取り組んでいます。従来の人工衛星は、アルミや鉄といった金属で機体が作られていますが、木で作る理由は何なのでしょうか。取材しました。
木造人工衛星は京都大と住友林業が共同で開発を進めています。大きさは10cm四方ほどの超小型衛星。半導体の基板はシリコンや金属やプラスチックなどでできていますが、機体は木材で作ります。
京都大などは昨年、ホオノキ、ダケカンバ、ヤマザクラの3種類の木材を国際宇宙ステーション(ISS)の船外で約10カ月さらし、劣化の状態を調べました。その結果、強い宇宙線や激しい温度変化のある過酷な宇宙環境でも、ほとんど劣化しなかったといいます。
その中で、軽くて割れにくいホオノキを選びました。材質も均一で湿度変化にも強く、日本刀のさやにも使われている木材です。
ただ、木材自体は金属に比べ強度が一様ではないため、設計変更するなど試行錯誤を繰り返しながら、打ち上げまで開発を続けています。
木造人工衛星に取り組む背景には、宇宙の環境問題があります。近年、通信衛星など多くの人工衛星が打ち上げられていますが、こういった従来の人工衛星はアルミや鉄といった金属で機体が作られています。
衛星の運用が終わると、大気圏に突入させて燃焼させますが、燃えた後も極めて小さい酸化アルミニウムの粒子が残り、大気汚染につながってしまいます。
また、粒子が太陽光を反射し、地球の気候に影響する恐れがあるといいます。
一つ一つは小さくても、大きな速度で打ち上がるロケットが衝突すると、機体の損傷にもつながりかねません。
一方、木材であれば燃え尽きるため、粒子の放出は減るといいます。
宇宙飛行士で、木造人工衛星の開発に取り組む土井隆雄さん(京都大特定教授)は「ゆくゆくは宇宙で木材の活用ができればと思っています。まずはしっかりと打ち上げて、木の人工衛星が実現できると証明したいです」と話しています。
木造人工衛星は、2024年度にも米国のロケットで打ち上げる予定です。
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