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〝自然エネ100%〟掲げた大学の挑戦 「やればできる」は本当?

「自然エネルギー100%」を掲げ、実践している千葉商科大。〝広大な空きスペース〟とも考えられる屋根を使って太陽光発電に取り組み、学内の電気に使っています
「自然エネルギー100%」を掲げ、実践している千葉商科大。〝広大な空きスペース〟とも考えられる屋根を使って太陽光発電に取り組み、学内の電気に使っています

目次

国連の事務総長が「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰の時代に入った」と言うのも実感できる暑さが、日本でも続いています。政府は2050年のカーボンニュートラル=脱炭素社会の実現を目標に掲げていますが、多くの人が「国がやるのかな」なんて、ひとごとのように捉えている気もします。「まずは自分たちから」と、「自然エネルギー100%大学」を掲げて行動する大学があります。

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斎藤 健一郎(さいとう・けんいちろう):朝日新聞be編集部記者。1974年、東京都小金井市生まれ。テレビディレクターを経て、2004年に新聞記者に。福島県郡山市に赴任中、東日本大震災で被災。2012年から始めた節電生活は11年になり、「健康第一電力」の所長として東京で借りている団地のベランダで太陽光発電もしている。著書に『本気で5アンペア』(コモンズ)、『5アンペア生活をやってみた』(岩波書店)。 SNSはhttps://twitter.com/kenichiro_saito

屋根は「広大な空きスペース」

JR市川駅からバスに乗って10分ほど、千葉県市川市の千葉商科大に到着すると、正門脇の色鮮やかなグリーンの看板が目に入りました。

看板には「日本初 『自然エネルギー100%大学』へ」、の文字が躍っています。

千葉商科大学の正門脇に掲げられた看板。胸を躍らせて門をくぐります
千葉商科大学の正門脇に掲げられた看板。胸を躍らせて門をくぐります

門をくぐると……あれ? 緑豊かなイメージではありますが、他の大学と比べて特に変わったところはなさそう。

まず向かったのは、1号館の屋上でした。そこにずらっとソーラーパネルが並んでいました。

全部で93枚。壮観な光景です。同行の見学者から「おー」と声があがります。

1号館の屋上には335Wパネルが93枚並んでいた
1号館の屋上には335Wパネルが93枚並んでいた

大学が本館や体育館など学内計10棟の屋上にパネルを設置し、本格的に発電を始めたのは2019年のことです。

建物の屋根は考えようによっては、広大な「空きスペース」です。

そこが計540kW、一般家庭約150世帯分の電気をつくる「太陽光発電所」に変わったのです。

発電した電気は学内で自家消費し、停電の時にも使えるように蓄電池にも電気をためているとのことです。

経済性も確保できるの? コストを計算

市川キャンパスから25キロほど離れた千葉県野田市には大学の野球練習場跡があり、ここには出力約2900kW、一般家庭で約900世帯分の電気をつくる発電所もつくりました。

でも、ここまで設備投資するとかなりお金がかかりそうです。自然エネルギー100%大学プロジェクトのリーダー、大学の基盤教育機構准教授の手嶋進さんに聞くと、「商業大学ですから、きちんと経済性も確保できるかも考えてきました」と話します。

例えば市川キャンパスの屋上発電所。国の補助金なども活用して設置したソーラーでの1kWの発電コストは11.6円でした。

2022年末に電力会社から購入した電気は20円以上高かったので、年間で1200万円ほど節約ができた計算です。

「自然エネ100%を達成するために創エネだけでなく、無駄なエネルギー消費を徹底的に減らす省エネにも力をいれました」と手嶋さんは言います。

千葉商科大基盤教育機構准教授で、自然エネルギー100%プロジェクトリーダーの手嶋進さん
千葉商科大基盤教育機構准教授で、自然エネルギー100%プロジェクトリーダーの手嶋進さん

2017年に、建物内で使われていた蛍光灯をLEDに交換。学生グループが学内の自販機の消費電力量削減を研究テーマにして、キャンパスのあった38台の自販機を1台ずつ調査しました。

販売本数の少ない自販機や、古くて消費電力が大きい自販機を特定し、大学側に削減を提言しました。

その結果、7台を撤去し、19台を省エネ型に更新、推計で年間4万2千kWhだった自販機の消費電力を2万7千kWhまで削減することに成功しました。

こういった省エネ策で、学内での電気使用量の約4分の1に相当する電気が節約できました。

こういった施策を次々と実行し、年間エネルギー消費を23%削減、創エネと省エネ、両輪の取り組みで千葉商大は2019年1月に日本の大学で初めて、電力の自然エネルギー100%を達成しました。

太陽光をシェア 発電と農業を両立

大学の敷地の一番隅っこで、おもしろい取り組みが進んでいました。発電と農業を両立させるソーラーシェアリングの試みです。

使われていなかった土地を開墾し、農園にしてブドウを栽培し、その頭上にソーラーパネルを設置しているのです。

つくった電気は蓄電池にためて、普段は農園内のログハウスや外灯に使い、災害時には一時避難所として地域住民のために開放します。

ブドウ棚の上にソーラーパネルが設置されていた
ブドウ棚の上にソーラーパネルが設置されていた

栽培しているブドウは山梨県内のワイナリーと組んで、創立100周年を迎える2029年までに、市川市産100%ブドウのワインとして商品化を目指しているのだとか。

プロジェクトが結実し、千葉商大100%ワインであげる祝杯は、きっと幸福感に満ちたものでしょう。

「学長プロジェクト」で推進 目標を達成

大学が日本初の自然エネルギー100%大学を目指すと宣言したのは、原科(はらしな)幸彦さんが学長に就任した2017年でした。

原科さんは環境アセスメント研究の第一人者として国内外で広く知られます。

「『塊から始めよ』ということで、まずは自分たちでやってみようということで始めました。他大学や社会に『やればできる』というのを示したかったのです」と言います。

「学長プロジェクト」として全学をあげた試みを推進し、数年で目標を達成したのです。

ブドウ棚の前で地元・市川市の市長と記念撮影する原科幸彦学長(写真右)
ブドウ棚の前で地元・市川市の市長と記念撮影する原科幸彦学長(写真右)

日本のエネルギー自給率は2019年度で12%と先進国の中でもきわめて低い水準にとどまり、地球温暖化の原因となる化石燃料依存度は85%にもなります。

千葉商大の挑戦は「やればできる」を体現したもの。今後は電気・ガスも含めた自然エネルギー100%を達成するのが目標です。

原科さんの思惑通り、カーボンニュートラルの取り組みは千葉商大から学外にも広まっています。

2021年、自然エネルギーの活用促進をめざす大学のネットワーク「自然エネルギー大学リーグ」が発足したのです。

上智大、名古屋大、広島大など全国11大学が名を連ね、連携、協力して大学の脱炭素化を目指しています。

千葉商大では学生が大学OBの地元工務店と協力して、自分たちが使う教室を自ら断熱化するワークショップも開かれました。

先日、ぼくも作業に参加してきました。その模様はまた、次回以降にリポートします。

情報と知恵と人材が集まる大学が、国の掲げた目標に先駆けてカーボンニュートラルに向きあい、考え、動き、目標を実現して、地域のエネルギーを支える。千葉商大や自然エネルギー大学リーグの実践から目が離せません。

10月9日から12日まで開かれる国際シンポジウム「朝日地球会議2023」に、千葉商科大学の原科幸彦学長も登壇します。

9~11日は、有楽町朝日ホール(東京・有楽町)でリアル開催とオンライン配信、12日はオンライン配信のみの開催です。メインテーマは、「対話でひらく コロナ後の世界」です。原科さんは、初日の9日に登壇、脱炭素の暮らしの実現について語り合います。

参加費は無料。事前登録を受付中です。登録は特設サイト(http://t.asahi.com/awfwn2)から。

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