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神宮球場のゴミ搬送のバイト芸人 お笑いトリオへの意外な波及効果は
キングマン・飯尾高行さん
生ビールやフードを片手に、プロ野球のナイター観戦をするのが楽しい季節です。球場でお気に入りのチームを応援するのは楽しいけれど、その後の清掃はどうなっているのか知っていますか? 「神宮球場」で清掃アルバイトをしている、お笑いトリオのキングマンの飯尾さんに教えてもらいました。(ライター・安倍季実子)
キングマン飯尾さんが、明治神宮球場(東京都新宿区)の清掃アルバイトを始めたのは、2020年8月。きっかけは、それまで勤めていた介護施設の廃業です。
「大学卒業後、病院でソーシャルワーカーとして働いていたこともあって、上京後は、正社員として介護施設で働きつつ、養成所に通っていました。でも、介護保険制度の法改正で勤務先がなくなってしまって……。そんな時に、後輩芸人から教えてもらったのが、今のバイト先です」
サッカー好きの野球未経験者で、神宮球場に行ったことはありませんでしたが、「初めてのことだらけで逆に興味がわいた」のだそう。
「球場の清掃は、朝と夜とで仕事内容が違います。僕は朝のスタッフをしています」
夜に行われたイベント後、整理員というスタッフが球場のゴミを集め、外にある集積所に運び、可燃・不燃などを分別します。
翌朝のスタッフが、きちんと分別されているかダブルチェックしつつ、ゴミをパッカー車(ゴミ収集車)に積めていき、指定の清掃工場へ運ぶ「塵芥(じんかい)業務」を担います。
夏は、プロ野球のシーズン戦に加えて高校野球の地方大会やイベントが多数開催されるので、ゴミも多くなります。
野球のほかにも、週末の大型イベントには3万人もの観客が集まることもあり、「翌朝には大きなゴミの山ができていて、雪崩が起こることもある」と苦笑します。
1カ月前に申告するシフト制で、飯尾さんは朝7時から15時まで、平日5日間勤務しています。月の収入は約20万円ほどです。
「事務所に着いたら作業着に着替えて、その日のゴミの担当や持ち込み先の清掃工場などを確認します。その後、集積所でゴミをパッカー車に詰め込んだら出発します」
メインはゴミの運搬ですが、意外と出発するまでが大変なのだといいます。
段ボールはリサイクルに出せるものと、可燃に出すもの(油などが付着しているもの)とに分け、専用車に積み込みます。
「可燃専用車を用意したら、ゴミ袋の山の中に入っていって、不燃などのほかのゴミが混じっていないか確認します。確認できたら、袋をパッカー車に投げ入れます」
これは専門用語で「巻(ま)く」と呼ぶのだそうです。
「最後に片付けるのは生ゴミ。可燃ゴミと兼用のパッカー車を使う場合は、可燃ゴミを運搬した後に、車内の掃除をしてから生ゴミを巻きます。このときに、生ゴミが服にかかると一日中くさいまま過ごすことになるので、注意が必要です(笑)」
持ち込み先は、目黒や世田谷などの清掃工場です。
「量が少なければ1人で、多ければ2人1組でやることもあります。集積所と清掃工場の往復は、大体2~3回。定時の15時になったら仕事終了です」
運転している時間が長いものの、体力仕事でもある業務。バイトの後にライブがある日は仮眠をとるなどして体調を整えてから挑みます。翌日も早起きのため、何もない日の就寝時間は21時と早めです。
「仕事中は適度に体を動かして、終わったら好きなコントをやって……身体的にも精神的にも健康的な生活を送っています」と笑います。
ゴミの分別と巻き作業は大変なものの、運転好きなので「意外と楽しく働いている」といいます。
強いて言うならば、「毎日5時起きなので、やっぱりそれはツライです」と飯尾さん。
「あとは、今年で3年目になるんですが、今でもたまに知らないことに出くわすことくらいですね。清掃の世界は奥が深いんで、一人前と言えるかどうか。それに、今の季節は汗でびしょびしょになりながら仕分けしています。ゴミの運搬中に渋滞にハマって帰りが遅くなり、定時を過ぎて怒られることも、たまにあります」と苦笑します。
でも、「誰一人ケガをせずに、定時までに仕事を終えられたときの達成感は半端ないですね。ゴミだらけだった集積所がきれいになったところを見るのも嫌いじゃないです」と話します。
「おこがましいかもしれませんが、僕らの仕事があるおかげで、次のイベントが予定通り開催されて、選手やお客さんが気持ちよく過ごせるんだと思うと嬉しくなります」
芸人活動へのプラスの波及効果もあります。
「芸人との共通点に、『チームで目標に向かって努力する』というのがあります。力を合わせて時間内に清掃を終わらせることと、トリオの3人で事務所ライブの上位を狙うこと。どちらも小さなことかもしれませんが、大事なことです」
ネタを作ったらライブに出て、お客さんの反応を見て、よりウケるようにブラッシュアップする。そうやって、賞レースにかける勝負ネタを育てていきます。
「誰かがミスをしたら、別の人がそれをカバーするというのを清掃バイトの現場で日々見ているので、コント中は相手と呼吸を合わせることを意識するようになったと思います。出るところは出て、引くところは引く、みたいな線引きをイメージしやすくなった気もしますね」
残念ながら、今年のキングオブコントは予選2回戦でストップしてしまいました。決勝進出の夢は来年に持ち越しです。
「正直めちゃくちゃ悔しいですが、もう、来年に向けて気持ちを切り替えています。今できるのは、日々のライブを重ねていくこと。そして来年こそは、勝負の年にしたいですね」
また、夢はキングオブコントの決勝進出だけではありません。
「お笑い業界自体は若返りをはかる傾向にありますが、30代以降の僕らのような年齢じゃないとできないお笑いもあります。それをライブだけではなく、『ネタパレ』や『おもしろ荘』などのネタ番組でも披露したいですね。そして、いつか明石家さんまさんや笑福亭鶴瓶さんにも見てもらいたいです」
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