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モンベル社員は「大人も着る」 危険な水辺、ライフジャケットあれば
いくら子どもに「着けようね」と促しても…
暑い日が続き、川など水辺に出かける方も多いのではないでしょうか。一方、今年も水辺での子どもの事故が報じられています。ライフジャケット着用の必要性が語られる機会も増える中、着用の意識が完全に浸透しているとは言いがたい現状もあります。着用を阻む要因にメーカーができることは――。アウトドア用品大手「モンベル」(大阪市)の取り組みを取材しました。
ライフジャケットの着用は、川や海での水遊びでの着用義務はないものの、国の「子どもの事故防止に関する関係府省庁連絡会議」が2018年、「釣りをする時やボートに乗る時、川で遊ぶ時などは、 ライフジャケットを正しく着用しましょう」と広報しています。今年7月に行われた同会議の会議資料には、「川遊びではライフジャケットを着用しよう」とのメッセージが掲載されている「河川水難事故防止ポータルサイト」が紹介されています。
国の動きがある一方で、市民はライフジャケットの着用をどう捉えているのでしょうか。
東京都は2019年、「子ども用ライフジャケットの安全な使用に関する調査」を公表しています。対象は、都内及び近県在住で、過去1年間に同居する小学生の水辺の活動に同行した保護者2,576人です。
水辺の活動でのライフジャケットの着用率を質問した項目では、「着用しなかった」が半数超の55.6%、所有しているライフジャケットや貸与されたライフジャケットを着たと答えた43.6%を上回りました。
調査では「ライフジャケットを着用しなかった理由」(複数回答)も尋ねています。
一番多かったのは、「水深が浅く溺れる危険性が少ないから」(50.6%)、次に「保護者がすぐに救助できるから」(33.1%)、「着用を思いつかなかったから」(32.3%)と続きます。
アウトドア用品大手の「モンベル」でも「ライフジャケットの普及にはまだ課題を感じています」。
同社では子どもに向けたライフジャケットは3種類を展開し、大人用は激流下りや釣り、カヤックなど、用途ごとに様々展開しています。
「当社のライフジャケットはシンプルでかっこいいと思います」と話すのは、同社広報の大塚孝頼さん。カラーリングや形なども機能の一部としてにこだわって作っています。「かっこいいものであれば、手にとりやすくなるのではないかと思う」と話します。
子ども用ライフジャケットについては2021年から、従来の「フリーダムKid’s」に加え、「アクアファンKid’s」の展開を始めました。6千円台の「フリーダム」に比べ、「アクアファン」は3千円台で、価格が5~6割程度に抑えられています。価格を抑えた製品を発売した経緯について大塚さんは、「価格を抑え、より多くの子どもたちに安全に水遊びを楽しんでほしい」と話します。
同社が掲げるミッションの一つには「野外活動を通じて子どもたちの生きる力を育む」があります。価格を抑えつつ機能を落とさない子ども用ライフジャケットの開発は、そのミッションにアプローチするためにも非常に重要な取り組みだったといいます。
「アウトドアでいかに安全に遊んでもらえるかを考える中で、安全を担保するためのグッズが高いから購入にいたらないというのは問題だった」
そのため、アクアファンは必要な機能を落とすことなく「企業努力」で3千円台にまで抑えました。
ユーザーからも歓迎され、子ども用のライフジャケット全体の売り上げも伸びているといいます。
子どもの成長は早く、夏の間に、しかも家庭によっては数えるほどしか着用機会のないライフジャケットにコストをかけにくいという思いは、小学1年生と2歳の子どもがいる筆者としても気持ちはよくわかります。
都の調査でも「ライフジャケットを着用しなかった理由」の一つに購入価格が高いから(6.3%)がありました。
大塚さんは、価格帯以外にも、普及促進のためには「ライフジャケット着用が普通になる環境が必要」と語ります。
大塚さんによると、多くの社員がアウトドアに親しむ同社では「社員は水が怖いものであることをよくわかっている」といい、「水遊びに行く際は、自分が入っても入らなくても必ず大人もライフジャケットを持って行っている」。
「いくら子どもに『着けようね』と言っても、親がつけていないと説得力がないように思います」
そのような思いを込め、2021年に「アクアファン」が販売されたタイミングで、ウェブサイトや会員向けの会報誌でライフジャケットの特集を組みました。そこで強調したのは子どもだけではなく大人も着けること。
ウェブサイトでは、子どもの着用を促すのはもちろんのこと、「大人も不測の事態に備えてライフジャケットを着用することをおすすめします」との記載もあります。
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