お金と仕事
〝ホラー〟なヒール、生み出したデザイナー「僕の発想はチープ」でも
記者が思わず「つながった!」と思った松井さんの源流
お金と仕事
記者が思わず「つながった!」と思った松井さんの源流
パンプスのヒール部分に手や銃のモチーフが用いられ、一目でその造形に驚かされる、ha | za | ma(ハザマ)の「惹きずり込まれる運命のヒールパンプス」と「惹き鉄となるヒールパンプス」。パンプスが誕生した経緯を、ha | za | ma のデザイナー・松井諒祐さんに聞きました。
「バズる商品が多いけど、狙っている?」の質問に松井さんは――。
ha | za | maのふたつのパンプス(「惹きずり込まれる運命のヒールパンプス」と「惹き鉄となるヒールパンプス」)が「ガチャガチャ」になった、という記事を配信したところ、多くの反響が寄せられました。
記事についたコメントには、「このパンプス、どんなシチュエーションで履いているのか気になる」「ハロウィーンの仮装によさそう」といったものも。
確かに、どんな人が、どんなシチュエーションで履くことを想定しているのか、気になります。デザイナーの松井さんに話を聞きました。
――「惹きずり込まれる運命のヒールパンプス」と「惹き鉄となるヒールパンプス」、それぞれ、かなり特徴的な造形です。
「惹きずり込まれる運命のヒールパンプス」は、映画「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」(原案・原作 ティム・バートン)をイメージしたんです。
ホラーがテーマで、「歩いていたら急に足をつかまれる」みたいなシーンってあるじゃないですか。そんなイメージで作りました。
ただ、当初は販売する予定ではなかったんです。2018年6月のha | za | maのショーでモデルさんたちが履くためのものとして製作しました。
――販売を決めたきっかけがあったということでしょうか。
まずは、この靴を製作してくれている会社の方から「これ売った方がいいんじゃないですか」「売れると思います」と提案してくれたんです。
その提案だけで販売を決めたわけではなく、ショーの前は「じゃあ一応その方向で進めていきましょう」くらいの感じでした。
最終的には、ショーの当日に販売を決めましたね。
これにはちょっとしたドラマがあるんですけど、製作を依頼していた会社さんがショーの開催日を1日勘違いしていたんです。当日、会場に来るはずの靴がなかなか来ない。連絡すると「え?明日ですよね?」って言われて。
――背筋が凍りますね。
ただ、事前に3D画像で確認していたし、技術にはとても信頼のおける会社だったので、「絶対にいいものが出来上がる」というのはわかっていました。なので、仕上げの段階にはなっていたものに急いで手を入れてもらい、本番に間に合わせて持ってきてもらいました。
ただ、リハーサルの段階では、モデルさん達たちは普通のスニーカーでランウェイを歩いていて、「どんなものが来るんだろう」とドキドキした状態でした。そして、本番直前に届いたヒールを見たモデルさんたちが、「これすごい」と驚いてくれて。そのうちの一人がSNSに写真付きで載せてくれたんですよね。
そうしたら、その投稿が数万いいねされて、バズったんです。
――たしかに、「いつ来る?」とヒヤヒヤの状況であの造形のものが届いたら、一気にボルテージが上がりそう。そして、SNSの反応を見て、売ることへの決意が固まったと。
正直、過去一番伸びたので、「もう売るしかない」っていうか。
――どんな人が、どんな場面で履くのかを知りたいという声もありました。松井さんは、どんな方を想定してデザインを考えているのでしょうか。
自分がデザインするものに、どんな人に着てほしい、履いてほしいといった思いはないです。あくまで着る人を縛りたくないという意味で。
例えば、好みのスカートやワンピースを着たいというのであれば、性別を問わず全然着てほしいと思います。
願いとしてはシンプルです。興味があるのであれば思い切ったファッションでも臆せず挑戦してみてほしい。すぐに大きく何かが変わるわけではないかもしれませんが、その経験が元になって、何かを手にしたり成したり、自己実現のきっかけになれば、すごく素敵なことだなと思っています。
――「惹きずり込まれる運命のヒールパンプス」のバズもそうですが、意図しているかどうかは別として、SNSの戦略が上手だなと感じました。ha | za | ma のファンの方と、松井さん(フォロワー16万人超)とのやりとりも活発ですよね。2014年のブランド立ち上げのときからSNSは重視しているんですか。
10年ほど前は、ブランドの商品が流通するためには、基本的にはセレクトショップに卸して買ってもらうことがセオリーな時代でした。ですが、セレクトショップを通すと、どうしてもブランドの利益は少なくなり、肝心のデザインに使える経費が限られます。
なので、お客さんと僕との間に、「直」の販路を作りたいと考えたのがSNSを使い始めた最初の目的です。
――展示会に行くか迷っている方にRTで「万全の体制で迎え入れるぜ」と応答したり、ha | za | ma の服をツイートしている投稿をRTしたり……。「松井さんを助けるアカウント」というアカウントまでありますね。
買うかどうか迷っているお客さんに対して、デザイナー本人が説明できるかどうかってとても大きいです。
デザイナーとしての意図をお客さんに直接伝えられるのは強みですし、逆にそれをやらない理由があまりないと思っています。
――思わずシェアしたくなるようなデザイン自体が、SNSとの相性もいいなと感じます。デザインの時点で、バズは意識しているのでしょうか。
バズを意識しているわけではありません。むしろ僕が伸びると思うものほど伸びない傾向さえあります。ただ僕の発想って、「誰も思いつかないこと」というより、結構チープというか、若干「中二病」的で安易です。
たとえばホラー映画で「足をつかまれて引きずり込まれる」場面のように、誰もが想像したことのありそうな光景を、デザイナーとして素直にアイテムに落とし込み、ガチクオリティーでやっているんです。つまり、発想がチープだったとしても、振り切れば、誰もできないことになると思っています。
――みんなが思いついたことのあるようなことを、振り切ってやることが大切なんですね。
発想がわかりやすいと伝わりやすいし、誰もが頭に描きやすい。そういう意味でSNSで共感されやすいかなとは思います。
きっと才能がありすぎるとこういうデザインになっていなくて、ほどよく発想が普通だからこういうデザインができるのかもしれません。
自分がおもしろいと思ったり、かっこいいと思ったものがアイデアの元になっていることが多いです。
――これまでって、どんなカルチャーに触れてこられたんですか?
マンガだと「HUNTER×HUNTER」とか「進撃の巨人」とかが大好きです。
――宇宙モチーフのデザインも多い印象です。宇宙もお好き?
僕はBUMP OF CHICKENが大好きで。
――つながった!私、同世代なんですけど、藤くん(ボーカルの藤原基央さん)、ど真ん中世代ですよね。松井さんは様々な意味で「普通」っていう言葉をたくさん使われていますが、同世代が通ってくる道を素直に採り入れながら大人になり、それを概念化した上で昇華している感じがします。
◇
後日、後編を配信。
後編では、「見えないものを見ようとして見上げた夜空のシャツワンピース」「大人に向けたセーラー服」「ニートニット」など、独特なネーミングセンスを爆発させた商品名の狙いや、ファッションについての考え方を聞いています。引き続きBUMP愛が炸裂しています。
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