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アウフグースもコントも頂点へ… サウナ芸人・箸休めサトシの挑戦

サウナでの「アウフグース」とは、タオルを縦横無尽に操って風を送りつつ、目でも楽しめるパフォーマンスのことです。箸休めサトシさんはそれを行う「アウフギーサー」として活動しています=筆者撮影
サウナでの「アウフグース」とは、タオルを縦横無尽に操って風を送りつつ、目でも楽しめるパフォーマンスのことです。箸休めサトシさんはそれを行う「アウフギーサー」として活動しています=筆者撮影

目次

空前のサウナブームにより、「熱波師」や「アウフギーサー」といった言葉も少しずつ広がりつつあります。タオルパフォーマンスでも楽しませるアウフギーサーの日本での第一人者として活躍する、お笑いコンビ「四兆」の箸休めサトシさんに、その仕事内容ややりがいを聞きました。(ライター・安倍季実子)

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箸休めサトシ:大学卒業後、IT系の広告代理店に入社も、2010年に退職し、ワタナベコメディスクール(10期)へ。ピン芸人として活動するほか、お笑いライブ「ツナコメ」などのライブの主催にも尽力。SMA(ソニー・ミュージックアーティスツ内のお笑い芸人プロジェクト)に所属した後、2021年に陣野さんと四兆を結成。プライベートでは、2010年からサウナでアルバイトをはじめ、現在はアウフギーサーとして活躍中。

求人サイトの「サウナ芸人募集」を見て

箸休めサトシさんとサウナとの出会いは、偶然でした。

「別に、はじめから熱波師やアウフギーサーになりたかったわけではありません。養成所在学中に、お笑いに関連するバイトを探す中で『サウナ芸人募集』というのを見つけて、応募しただけなんです」

お笑いコンビ「四兆」。陣野周作(左)、箸休めサトシ(右)=SMA提供
お笑いコンビ「四兆」。陣野周作(左)、箸休めサトシ(右)=SMA提供

「サウナ芸人」というキーワードに惹かれて、横浜市のスーパー銭湯でアルバイトをはじめました。

接客や施設の掃除に加えて、熱波師(サウナ室でタオルで扇ぐパーフォーマー)もしていたといいます。

「パフォーマンス中は、体調の悪そうなお客さんはいないか常に気にしています。蒸気を扇ぐのは体力を使いますし、熱した石にかける水と水蒸気の発生量やアロマの種類を覚えたり、意外と大変なんですよね。でも、人前に立つ度胸は芸人には必要ですし、実際やってるうちにだんだん楽しくなっていきました」

サウナ室でパフォーマンスをするかたわら、サウナをテーマにしたネタを披露することもありました。ハードな反面、充実していましたが、「バイトが忙しくなりすぎて、芸人の活動に割く時間が少なくなったんで辞めました」。

人気アウフギーサーの箸休めサトシさん=筆者撮影
人気アウフギーサーの箸休めサトシさん=筆者撮影

次に見つけたのが、現在のバイト先でもあるスカイスパ横浜です。バイト歴は8年目になります。

「その時には、もうサウナが大好きになっていましたし、熱波師にもやりがいを感じていました。芸人活動に支障をきたさない範囲で続けようと思って、スカイスパ横浜にしました」

時給1500円、出勤は週2日 そのほかは…

バイトがある日は正午に出勤して、館内着や鍵のチェック、残っている片付けなどをすませます。その後、約100人収容できる大きなサウナ室「サウナシアター」を掃除します。

「熱波師」とアウフグースをする「アウフギーサー」は、明確に区別されていませんが、熱波師は「発生させた蒸気をタオルで縦横にあおいで熱波を送る人」、アウフギーサーは「タオルを縦横無尽に操って様々な風を送りつつ、目でも楽しめるタオルパフォーマンスを行う人」と分類されています。

箸休めサトシさんがアウフグースを行うのは、基本的に14時と19時半の2回。

ヨガ教室などがある日は、そちらのサポートに付くこともあります。休憩をはさみ、夜21時にバイト終了です。

サウナシアター。サウナストーンのバックはプロジェクションマッピングのスクリーン
サウナシアター。サウナストーンのバックはプロジェクションマッピングのスクリーン

「お客さんに楽しんでほしいので、僕の場合はスターウォーズの曲を流して『ととのえの銀河に行くぞー!』とか言って、ちょっとしたショー仕立てにしています。ここは照明も付いてますし、プロジェクションマッピングもできますし、小さなステージですね」

時給は1500円。以前は週3~4回ほどでしたが、現在のシフトは週2回ほど。

「今は、アウフギーサーとして全国の温泉施設のイベントに参加させていただいています。基本的にイベントの出演料は出来高制なんで、イベント数や参加者が多ければ、それだけ増えます。なので、収入は月によってバラバラで、たまに会社員のボーナスくらいの額になることもあります」

ポーランドで開眼したアウフグース愛

箸休めサトシさんがアウフグースを極めたいと思ったのは、2019年にオーナーやアウフギーサー仲間と訪れたポーランドでのアウフグースの世界大会(アウフグースWM)がきっかけでした。

「300人収容可能な巨大サウナがあって、各国の代表者たちがすごいパフォーマンスを繰り出していて、めちゃくちゃ感動しましたね」

それだけでも十分収穫はあったそうですが、大会主催者から「サトシたちもやってみなよ」と声をかけられたそうです。

「『ムリムリ!』って断ったんですが、『大会のスタッフしかいないから大丈夫』と押し切られました。なのに『これから日本人アウフギーサーがパフォーマンスするぞ!』って大々的に発表されてしまって……」

思わぬ急展開に戸惑いつつも、「なるようになれ!」と全力でパフォーマンスをすると、300人のお客さんからスタンディングオベーションを送られました。

「技術うんぬんよりも、『みんなを楽しませたい』、『いい風を送りたい』という気持ちが伝わったんだと思います」と振り返ります。

その後、スカイスパ横浜のオーナーにより、日本の予選会場となる大型サウナのサウナシアターが誕生。2022年には、アウフグース世界大会への切符をかけた日本大会『Aufguss Championship Japan(ACJ)』がスタートしました。

「その前からオーナーに『日本でも予選がしたい!だから大きなサウナを造ってください!』と言っていたのが叶って、すごく嬉しかったです」=筆者撮影
「その前からオーナーに『日本でも予選がしたい!だから大きなサウナを造ってください!』と言っていたのが叶って、すごく嬉しかったです」=筆者撮影

昨年度の大会には、2020年に結成したアウフグースのプロ集団「アウフグースプロフェッショナルチーム」のメンバーと参加。団体戦で3位となり、世界大会へと駒を進めましたが入賞は叶いませんでした。

そして、今年も個人戦と団体戦の2部門でエントリーしました。団体戦の昨年のエントリー数は約50組でしたが、今年は100組以上に増えたのだそう。

「数組しかエントリーしない国もあるなか、50組でも異常な数です。来年は、もっと増えるでしょうし、大会自体も大きくなると思います」

残念ながら個人戦では決勝に残れませんでしたが、チームのメンバーと組んだ「百花繚乱」は団体戦で準優勝を勝ち取りました。ノルウェーで行われるプレーオフ大会に出場し、そこで勝ち抜けば世界大会に出場です。

箸休めサトシさん・オカミチオさん・五塔熱子さんからなる「百花繚乱」=本人提供
箸休めサトシさん・オカミチオさん・五塔熱子さんからなる「百花繚乱」=本人提供

もちろん、目指すは優勝です。しかし、世界大会への出場にひとつ心配事があるとしたら……。

「実は、キングオブコントの準決勝あたりと日程がかぶる可能性があるんです……」

「お笑いとサウナの比率が反対になるように」

お笑いコンビ「四兆」は、今年で2年目。相方の陣野さんとはスカイスパ横浜のアルバイトで知り合い、以降、ピン芸人同士として切磋琢磨し合っていました。

2021年の『R-1グランプリ』に「芸歴10年以内」という出場ルールが追加され、箸休めサトシさんが参加できなくなったことをきっかけ結成されました。

「アウフグースは楽しいんですが、本分は芸人なんで、やっぱり芸人として売れたいです」

キングオブコントの決勝を目指し、5月の単独ライブでは、14本ものコントを披露しました。また、自分たちなりに過去大会を分析して、合格する確率が高いと見た予選1日目にエントリー。アウフグースの忙しさを言い訳にせず、しっかりとお笑いにも向き合った結果、無事にキングオブコントの1回戦を突破しました。

「正直、今は『アウフギーサー』として求められることがほとんどです。でも、サウナのお客さんがライブに来てくださることも増えましたし、番組のオーディションで、サウナ好きのスタッフさんから声をかけられることもあります。少しずつサウナとお笑いがつながっていっている気がしています」

今後は、「アウフグースの世界大会で入賞する」、「キングオブコントで優勝する」というふたつの目標を追いかけると箸休めサトシさん。

「アウフグースの方の手を抜かずに、お笑いとサウナの比率が反対になるように、お笑いに力を入れていきたいですね」

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