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児童の国会見学「議員チラシ」配布OK?〝政治的中立〟との関係は
議員事務所でインターン経験の記者が考える
修学旅行シーズンに増える、子どもたちの国会見学。記者がインターンをしていた事務所をはじめ、学校が地元選出の議員の事務所を通じて見学の申し込みをしているケースは多くあります。本会議場や中央広間などを見学しますが、その前に議員たちとあいさつをかわすシーンも国会の見慣れた風景です。元教職員らでつくる団体の問題提起をきっかけに、記者が国会見学と「政治的中立」について考えてみました。(朝日新聞横浜総局・足立優心)
みなさんは国会を見学したことがありますか?
もしかしたら、社会科見学や修学旅行で国会議事堂に立ち寄ったことを覚えている方もいるのではないかと思います。
記者(26)は大学時代の4年間、ある衆院議員の永田町の議員事務所でインターンをしていました。
毎年5、6月は地元の中学校の修学旅行が集中する時期で、国会見学も殺到します。こうした修学旅行生の国会見学の対応をするのも秘書やインターンの仕事の一つでした。
国会見学は衆議院に直接申し込む方法もありますが、インターンをしていた議員の地元では議員事務所を通じて申し込むのが慣例となっていました。他の地域でも同様のケースは少なくないようです。
このため、数カ月前から旅行会社などを通じて地元選出の衆院議員の事務所などに申し込みがあります。修学旅行シーズンにはインターンもフル稼働で対応していました。
当日、生徒たちを乗せたバスが駅やホテルを出発したという連絡を受けると、秘書やインターンは事務所を飛び出し、生徒が国会の中に入るのに必要な衆議院のパンフレットを受け取ります。
同時に、議員本人にも生徒たちが到着予定であることを連絡。生徒たちが到着するとパンフレットを一枚ずつ手渡し、見学前のロビーへと誘導します。
ロビーでは、議員が生徒たちを前に政治家を志したきっかけや、政治家としての仕事を数分間話すのが国会見学の「ルーティン」でした。
生徒たちはその後、本会議場や、伊藤博文や大隈重信の銅像が並ぶ中央広間などを見学します。
たいていの場合は国会の警備にあたる衛視が誘導しますが、生徒は100人以上いることがほとんどで、後ろの生徒には衛視の説明は聞こえません。
そこで私がインターンをしていた事務所では、国会のうんちくなどが書かれた冊子で勉強し、議事堂内に敷かれたカーペットの値段や、貴族院時代から使われていた備品などの情報を生徒や引率の先生に伝え、楽しんでもらうようつとめていました。
見学中に、有名な政治家が通りかかることもあります。有名議員が生徒たちと握手したり、一言声をかけたりする場面もありました。
修学旅行がピークを迎えると、各地の学校が集まるため、ロビーは見学の生徒たちであふれ、見学も流れ作業のようでした。
それでもロビーでのあいさつなどは多くの選挙区の議員が行う、ごく当たり前の風景でした。
このことを思い出したのは、3月に横浜市内であった「国会見学」にまつわる記者会見がきっかけでした。
会見を開いたのは、元教職員らでつくる団体でした。 この団体や横浜市教育委員会によると、ある市立小学校の6年生の児童約180人が今年2月、国会見学に行きました。
小学校の紹介議員になった地元選出の衆院議員が当日、国会や議員の仕事を説明したのですが、その際に議員のプロフィルなどが書かれた紙が参加した児童全員に配られました。
問題になったのは、この紙です。
団体は「議員の個人リーフレットを全員に配布し、引率した教員が行為を黙認したことは、教育基本法違反にあたる」と指摘しました。
教育基本法14条は「法律で定められる学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない」としています。
子どもたちは国会見学で配られた資料を家に持ち帰るでしょう。それを見た保護者が議員に好印象を持ち、投票行動につながるかもしれない――そんな指摘です。
団体のメンバーは「現役の教員時代は党派教育をしないよう、管理職から厳しく言われていた」と振り返ります。
「引率した教職員が誰も紙を配布するのを制止せず、問題だとさえ思わなかったのであれば、危機感を感じる」という指摘もありました。
教育基本法の「政治的中立」の規定は、子どもたちを戦争に向かわせた戦前の教育への反省が背景にあります。こうした経緯についての認識が教職員の間で薄らいでいることへの危機感も背景にあるようです。
確かに、議員事務所側にも議員と生徒との質疑応答の時間を設けることで議員についてよく知ってもらい、少しでも良い印象を持ってもらいたいという思惑があることは否定できません。
場合によっては、こうしたことが生徒たちの保護者の投票行動や、生徒たちが将来、有権者となったときの支持政党に影響を与えることもあり得るかもしれません。
インターン時代、「当たり前の風景」だった国会見学が、「政治の中立」という観点では難しい問題をはらんでいたことに今回の会見で気がつかされました。
国会見学でどこまでであれば問題がなく、どこから問題になるのか、そこに明確な線引きがないことも、背景にあるのではないかと考えました。
私がインターンをしていた当時、国会見学で生徒たちをを引率していると、議員を見た生徒たちからはしばしば「ポスターで見た人だ!」という反応も返ってきました。それぐらい、政治家が遠い存在であることも事実です。
政治とは、「中立」という言葉だけでは割り切れない、生身の人間による営みでもあります。
テレビやポスターでしか見たことがない政治家と直接話をしたり、握手したりすることは、政治の世界に興味を持つきっかけにもなると思うのです。
若者の政治参加が強く言われる今だからこそ、子どもたちが生身の政治家に接し、その空気を体験できる国会見学のような機会は大切にしてほしいと考えます。
そのためにも、多くの人が納得できるルール作りをしてもらえたらと感じています。
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